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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第二章 街住まいのドラゴン
35/179

34 ドラゴンさん、守ったり見守ったり

 34


「あ――」


 一歩踏み出して、わかってしまった。


 ここ、ダンジョンよりも床がもろい。


 踏み出した右足が石の床を粉々にしてしまって、うまく前に進めなかったんだ。

 前に向かう力が行く先を見失って、体が無駄に泳いでしまう。


「っと」


 これだと思ったより進めない。

 間に合わない。

 それはいけない。

 シアンは大魔導使いだけど、体はよわよわだから守ってあげないと死んでしまう。


 だから、残った左足でうまくする。

 今度は失敗しないように、石の床が耐えられるぐらいの力で。

 石の床を足の指でつかんで。

 前へと。ただ前へと。


 その結果、僕の体は一直線に飛び出した。


 シアンと銅斧さんの間の位置に。

 それは感心してしまうぐらいきれいな位置具合で、ばっちりの瞬間でもある。


 一言でいえば、かわせない。


「レオン君!」

「あんちゃん!?」


 マリアとディックの叫び声。

 それと周りの人たちの大きな声。


 そんな中、僕の頭に斧が直撃した。


 冒険者の人が生命力を込めた全力の一撃。

 隙だらけになって飛び上がった分まで、重さと勢いが乗った斧。

 金属の感触が頭の後ろにぶち当たって――。


「あいた」


 カキィィィンという気持ちいい音が響いた。

 そして、斧の根元が折れて、先の方がひゅんひゅんと音を立てて飛んで行ってしまう。

 それは壁に刺さってようやく止まった。


 なんだろう。

 なんか、静かになってしまったけど、僕が踏み込むのを失敗したのに気づいたんだろうか。

 だとしたら、恥ずかしい。

 人間っぽくできるようになったと思っていたけど、全然なのがばれちゃったかな?


 いや、なんとなく平気っぽい。

 びっくりしているみたいだけど、あきれている感じじゃないし。


「……危なかった。次は気を付けないと」


 とりあえず、銅斧さんは敵だから倒しておこう。


 持ち手だけの斧――というか、棒を持ったままの銅斧さん。

 目の前でぼうっとしているから、隙だらけだ。

 いくらでも攻撃できる。


 さて、問題はどうするか。

 銅斧さんは『敵』だ。

 僕の知っている『敵』には情けはかけちゃいけない。

 しっかり倒さないと後で嫌な思いをする事があるって教えてもらった。


 だけど、銅斧さんは『敵』でも、人間なんだ。

 どうやっても話の通じないモンスターじゃない。

 ドラゴンの時だったみたいにやっつけるのは違うかもしれない。


 と考えたりもするけど、やっぱりシアンを攻撃したのは嫌だったからなあ。


「えい」


 銅斧さんの肩を思い切り叩く――前に止める。


「かひゅんっ!?」


 生命力で強化された拳。

 僕は長く戦っているから知っている。

 勢いをつけて振るうと、そこには空気の壁みたいなのができて、相手を上手に吹っ飛ばせると。


 狙い通り、銅斧さんはグルングルンと横方向に回りながら吹っ飛んでいった。

 床にぶつかって、はねて、落ちて、転がって、またはねて、ながーく転がって、ロビーの真ん中ぐらいでやっと止まる。

 なんだか体がビクンビクンとしているけど、生きてはいるね。


「やった。成功」


 僕はできるドラゴンだ。

 同じ失敗を何度もしたりしない。

 ちゃんと手加減できるところ見せて、さっきの失敗を忘れてもらわないと。

 ついでに、胸のむかむかもなくなったからカンペキだ。


 これは感心してもらえるかなと見回してみるけど、まだ周りはだまったままだった。

 シアンはなんか笑顔がひきつっているし、ノクトはため息なんかついている。

 これは、失敗の予感?


「お、おい。あんちゃん、大丈夫、なのか?」


 一番近くにいたディックが聞いてくる。

 だいじょうぶ?

 もちろん、だいじょうぶに決まっているけど……ああ、斧で叩かれた事を心配してくれているのかも。

 ドラゴンの時の感覚だと、あんなのが当たっても鱗に傷ひとつつかないし、生命力で強化していれば何ともないけど、普通の人間だと危なかったのかもしれない。

 あと、心配してもらえたのがすごい嬉しい。


「平気だよ! 心配してくれてありがとう!」

「ま、まじかよ。いくらDランクの冒険者が相手だからって、まったくの無傷かよ」


 ディックまでシアンみたいな笑顔になった。

 もしかして、今はこんなふうに笑えばいいのかな?

 僕も二人のマネをしてみるけど、シアンは頭を抱えてしまった。


 次に動き出したのはマリアだ。

 いつもニコニコしているけど、ちょっと今はほっぺがピクピクしている。


「……ええっと、とりあえずー、警備の方は彼らを捕まえてねー」

「ちがっ! 今のはなんかの間違いだ! おい、カップ! 今のはなんだよ!? 逆切れして襲うなんてらしくねえぞ! っつうか、そのガキはなんなんだよ!? カップはレベル3の部分強化まで使えるんだぞ!? それが、ガキン!? 斧で斬られて、ガキンっ!?」

「激しく同意する部分もありますけどー、ダンジョンならともかくー、ギルド内での襲撃は言い逃れできませんねー?」


 受付の後ろにいた男の人たちが駆け足でやってきた。

 さわいでいた金斧さんも、一人で逃げようとしていた銀斧さんも、まだ床でビクンビクンしていた銅斧さんも次々に捕まっていく。

 最初は抵抗していた二人も、がっちりと左右から二人がかりでつかまれたところであきらめたらしい。

 がっくりしていた。


 ギルドの中はざわざわとしているけど、なんだかほっとした空気になっていた。

 これで終わり、なのかな?


『まったく、助けてもらって文句は言えないのだけど、もう少しうまくやりなさいな』


 トコトコと僕とシアンの近くまで歩いてくるノクト。

 やっぱり、失敗しちゃっていたみたいだ。

 どうしよう。どこが失敗だったのか、最初に手加減を間違えたのぐらいしかわからない。


「いいじゃないですか。少しずつ覚えていけばいいんですよ。ありがとうございます、レオン。おかげで助かりましたよ」

「うん。どういたしまして! で、いいんだよね」

「ええ。正解です」

『のんきな事ね。どうやら当たりも引けたようだし、うまく対処しないといけないというのに先が思いやられ――これは……』


 ノクトが急に足を止めて、その猫耳をいそがしく動かし始めた。


「あれ?」


 少し遅れて僕も気づく。

 ギルドの奥に引きずられていく銅斧さんの生命力と魔力が変だ。

 さっきよりも、ずっと、ずっと、強く、嫌な感じになっている。


「ぐるあ……ぁぁぁああああああああああああっ!?」


 銅斧さんが急に吼えた。

 まるでモンスターみたい。

 力任せに暴れ始めて、押さえていた男の人たちをはねのけようとしている。


『マリア! そこの男を止めなさい! 魂魄が穢れているわ!』

「しっかり押さえておいてねー?」


 マリアが銅斧さんへと向かう。

 ふわりと広がるスカートに、余裕のある歩き方でゆっくりに見えた。

 けど、二人の距離がなくなるまでにまたたきするぐらいの時間しか掛かっていない。


 マリアの手にはいつの間にか、小さな金属の球がいくつも握られていた。

 その指先から生命力が球に注ぎこまれているのがわかる。

 量は多くはないけど、変な感じがしていて、これって生命力が波打っているのかな?


「闘気法――活殺術『浄縄鎖縛』」


 指から球が放たれた。

 立て続けに十発。

 それらが次々に銅斧さんの腕や足や胴体にめり込んでいく。


 その着弾と同時に、マリアの細い手が銅斧さんの胸に触れた。


 感じられたのは生命力の波。

 小さなのから大きなのまで、球とマリアの手からいくつも放たれては、銅斧さんの体の中を走り抜けて、戻ってきて、ぶつかり合ってはまた返る。

 これは、きれいだ。

 僕の使うどんな技でも、こんなふうにはならないだろう。


 波紋の中で、銅斧さんの中にあった嫌な感じの生命力と魔力が消えていく。


『間に合ったようね』

「そうですねー。助言ありがとうございましたー」


 銅斧さんの中から嫌な感じが全くしなくなると、マリアはにこりと笑い、スカートをちょこんと持ち上げて一礼するのだった。


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