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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第二章 街住まいのドラゴン
30/179

29 ドラゴンさん、混乱する

 29


『マリア、よりにもよってあなたが来るのね』

「あらー、ノクトさん? それってまるで私が来てはいけないみたいな言い方じゃないですかー」


 ノクトはうんともううんとも言わないで、黙って僕の肩の上に飛び乗ってきた。

 マリアが怒ってしまうんじゃないかと心配になったけど、彼女の笑顔はちっとも変わらないままだった。


「これでも私はシアンさんの専属ですからー」

『冒険者になったばかりのシアンに専属が付くのがそもそもおかしいんじゃないかしら? それも受付のギルド職員でもリーダーであるあなたが、ね』

「将来有望な冒険者を優遇することもありますよー?」

『どうだか。大方、どこからか要請でもかかったんじゃないの?』

「まさかー。冒険者ギルドは国家機関ですがー、同時に強い権限を許されていますよー。貴族の人でもー、無理は言えませんからー」


 うん。怖い。

 淡々としたノクトと、笑顔のままのマリア。

 どっちも普通に話しているはずなのに、空気がびりびりしている気がした。

 周りの人たちもさっきより僕たちから離れていっているような?


「二人とも!」

『何よ?』

「なんですか?」


 このままじゃ危険だという本能に従って、勇気を出して声をかける。

 ノクトとマリアも僕を見てくるけど、話す事なんて何も考えていなかった。

 うーんと考えて、なんとか続きを声に出す。


「ギルド職員ってなに?」

「あらー、レオン君はギルド職員を知らないんですかー?」


 マリアが少し首を傾げて、まじまじと僕を見てくる。

 何か変な事を言っただろうかと考えていると、ほっぺにぺしりという感触。

 肩の上のノクトが小さな声でささやいてきた。


『レオンは黙ってなさい。あと、元ドラゴンとかも話すの禁止よ』

「え、それってどういう――くしゅん!」


 話を聞こうとしたけど、それより先にしっぽに鼻先をくすぐられてくしゃみが出てしまう。


「あらあらー、その格好じゃあ寒いわよねー。今はもう春だけどー、今日は少し冷えているものー。レオン君、こっちにおいでー」


 手をちょいちょいと振るマリアはもう怖くなくなっていた。

 安心して先に歩いていくのについていく。

 横に長い机の向こう側に入って、扉をひとつ、ふたつと過ぎたら、机と椅子だけがある小さな部屋に到着した。


「今、簡単な服を持ってくるからー。それと温かい飲み物もー」

『ギルドのおごりでね』

「わかりましたー。その代り、ちゃーんとお話は聞かせてもらいますよー?」


 マリアが出ていくと、ノクトが机の上に飛び乗る。


『シアンをそろそろ起こしておきましょうか。レオン、椅子にシアンを座らせなさい』


 言われた通りに、シアンを椅子に座らせて、倒れてしまわないよう肩に手を置いて支えてみる。

 そんな彼女の膝の上にノクトは飛び移ると、膝の上の手に牙をむいた。

 あーんと開いた口が閉じられて、悲鳴が上がる。


「痛い! 痛いですって! 誰ですか、わたしの手を食べちゃったのは!?」

『あたしよ。まったく、虚弱体質もほどほどになさい。すぐに倒れてたら冒険者なんてできないでしょうに』


 涙目で飛び起きたシアンは恨ましそうにノクトを見るけど、そのノクトはまったく気にした様子もない。

 シアンもこれは何を言ってもダメと考えたのか、手をさすりながら辺りを見渡した。


「ここは……下宿先じゃないですよね? ギルド、ですか?」

『ご名答。応接室ね。今はマリアがレオンの服を用意しているわ。すぐに戻ってくるでしょうけど、レオンの事はあたしが話すから、いいわね?』

「レオンの事、ですか?」

「? なあに?」


 シアンは僕とノクトを順番に見て、納得したみたいにうなずいた。


「そうですね。それがいいです」

『レオンも、あたしが話すのを聞いておきなさい。さっきも言ったけど、自分だドラゴンだった事とかは言わないように。いいわね?』


 厳しい言い方をするノクトだけど、いつもより今は声が強い。

 それだけドラゴンの事は言ってはいけないみたいだ。

 気を付けないと。


 僕が自分に言い聞かせていると、扉の向こうからコンコンと音が聞こえた。


「入りますよー。はぁい、お待たせー。レオン君はこちらを……あら、シアンさんも目を覚ましたのねー。心配していたのよー」


 マリアだ。

 片手には布の塊。

 もう一方の手にはお盆が乗っていて、湯気の出るコップが並んでいた。


 立ち上がったシアンはマリアの手からお盆を持ち上げながら微笑んだ。


「マリアさん。心配をかけてしまったようでごめんなさい。ですが、わたしは天才ですからね。これぐらいのピンチでやられたりしないのです!」

「ふふ。元気そうで何よりねー」


 僕に布を手渡してきたマリアさんだけど、ぐっと顔をシアンに近づけた。

 その顔はやっぱり笑顔だけど、またちょっと怖くなっている。


「私が非番の日にー、勝手に他のパーティーの誘いを受けたなんて聞いた時はー、どうしようかって思ったしー、そのパーティーが帰ってきたと思ったらー、シアンさんたちとはぐれたなんて報告してきた時はー、目の前が真っ暗になっちゃったけどー、私の心配はいらないのよねー?」


 怒ってる。

 何だか知らないけど、すごい怒っている。


「す、すみませんでした。その、わたしも反省、してます」


 か細い声で謝るシアン。

 汗がびっしょりだ。

 ごまかすみたいにお盆をそっと机の上に置いて、椅子の上で小さくなる。


『まったくよ。おかげで酷い目に遭ったわ』

「ノクトさんもですよー。保護者のあなたがいながらー、シアンさんを危険な目に遭わせるなんて油断していたんですかー?」

『痛い目に遭うのも経験だと思ったのよ。まあ、それも予想外の事態に巻き込まれたせいで、台無しになったのだけど』

「予想外の事態ですかー?」


 シアンから僕に視線が移ってきた。

 なんとなく、背筋を正してしまう。


「レオン君が関係しているんですよねー?」

『まあ、そうね。まずはそこから話しましょうか。その前に一度落ち着いてもいいかしら?』

「そうですねー。お茶も冷めちゃうからねー」


 マリアは僕たちの前にコップを置いて、それから不思議そうに僕を見てきた。


「レオン君は服を着ないのー? サイズは合うと思うんだけどー」


 服。

 そう、服だ。

 そんな話をしていたのは知っているけど、この布の塊が服なんだ。

 でも、僕はこれをどうやって着ればいいのかわからないんだけど、どうしよう?


 首を傾げていると、シアンとノクトが『しまった』みたいな感じの顔をしている。

 マリアはまじまじと僕を見つめていて、怖いのとは違うけど、なんだか落ち着かない気分になる。


「服、わからないんだ」


 ドラゴンの事は話していないからいいよね?

 僕が答えると、マリアは何度かうなずいて、それから普通の笑顔になる。


「そうなんだー。じゃあ、私が手伝ってあげるからー。まずはその腰ミノ? を外しちゃいましょうかー?」

「うん」

「ちょっ!? まっ!?」


 腰ミノというのはよくわからないけど、シアンが腰に巻いてくれたローブの事なんだろうと思う。

 なんだかシアンが慌てているけど、何度も戦っているうちにボロボロになっていたそれは、僕がぐいっと引っ張るとストンと下に落ちた。

 うん、すーっとする。


 少しだけの間、部屋の中がしーんとなった。


「あら。ごりっぱ」


 マリアがポツリとつぶやく。

 なんだかわからないけど、ほめられた。

 やった。


「きゃあああああああああああああああああああああああ! またですか! 初めてだけじゃなくて二回目もですかあああああああっ!? レオンはわたしからどれだけ初めてを奪っていけば気が済むんですかっ!?」

「あらあらあらー? 初めてってなにかなー? レオン君はシアンさんのどんな初めてを奪っちゃったのかなー? お姉さんにちょっと話してみようかー?」

「取ってないよ?」

「あらー? じゃあ、初めてを取られちゃった方かしらー?」

「取られる? うーん、あ、シアンは僕の初めての人だよ!」

「まあまあまあまあ!」

「知りません知りません知りません! 男の人のなんて知りませんからぁ!」

「え。忘れちゃった、の?」

「って、レオンは悲しい顔しないでくださいよぅ! 知らないっていうのは、その、わたしたちの関係の事じゃなくてですね!?」

「うふふ。楽しくなってきたわー。じゃあ、レオン君はお着替えしましょうねー? はーい。足を持ち上げてー?」

「うん。ありがとう」

「どうして平然としているんですか!? レオンもちょっとは抵抗してください!」

「あらあらー? これは嫉妬かしらー? それとも独占欲ー?」


 なんだかシアンが元気に叫んで、マリアはつやつやした顔になっている。

 僕は首を傾げるばかりで、二人が何を言っているのかもよくわからなくなってきた。


 そんな僕たちからノクトは静かに離れていって、椅子の上で丸くなった。


『おバカが終わったら言いなさいな』




 結局、僕が服を着せてもらった頃には、お茶はすっかり冷めてしまっていた。

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