27 ドラゴンさん、ふりかえる
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涙で見えづらいままでも、なんとかもう一度見てみると色々と気づけた。
グニャグニャした何か。
あれは僕の十個の頭なんだろう。
頭が繋がっている先の胴体に三対の翼、五本の尾があるし、赤いし。
ドラゴンだった時の僕を、外から見たらあんな感じだったのかなあって思えた。
でも、あんなに怖い顔はしていなかったと信じたいけど、主部屋で戦ったドラゴンの事を思い出すとちょっと自信がないなあ。
だとすると、ドラゴンの上に立っている人型。
あれが弓聖なんだろう。
言われてみると、空に掲げているのは弓と矢だった。
えっと、なんだろう。
すっごくキラキラしている。
弓矢とか鎧だけじゃない。
あれ、目の部分とか大きな宝石が使われているんじゃないかな?
それよりも、何よりも、大きい。
いや、大きすぎる。
あまりに大きいせいで僕が膝をついた姿勢なのに、ほとんど塀に隠れない石像。
街を囲んでいる塀よりも大きい。
像の周りに高い建物がないせいで、余計に大きく見える気さえする。
たぶん、街のどこからでも見えるんだと思う。
「あんまりだぁ……」
別に弱っちい人に負けた事になっているのがつらいわけじゃない。
ただ、『お前は鮮血の暗黒竜なんだ!』なんて悪口を大声で言われている気がして、とっても悲しくなる。
感謝されるためじゃなかったし、嫌われてしまうのもあきらめていたけど、こんな仕打ちはないんじゃないかなぁ。
ショックを受けながら、なんとか背中のシアンを落とさないように抱えなおしつつ、僕は何も言えないでいた。
肩から飛び降りたノクトが遠い目をしている。
その目は像の方を見ているけど、実際に像を映していない。
『初代弓聖が領主になって最初に取り組んだ事業で、その後四百年の間、迷宮都市最大のオブジェ。完成までかかった時間が三十年。総工費、白金貨百万枚以上と言われる代物よ。ええ。以前から悪趣味とは思っていたけど、真実を知った身からすると、エルグラド最大の恥部ね』
初代弓聖さん、そんなに僕を倒したと思ったのが嬉しかったのかなあ。
弓聖さんには悪いけど、壊してしまいたい。
ちょっと胸がスッとすると思うんだ。
けど、あまりに大きいから一歩間違えると周りの家まで壊してしまいそうだし……魔闘法ならいけるかな?
『なんだか、よからぬことを考えていないかしら? やらかす前に言っておくけど、あの像の基部はエルグラド家と一体化しているから、像を破壊でもしたら即、処刑――はあなたに通じそうにないわね。でも、街にいられなくなるのは確定よ』
それはダメだ。
ドラゴンの時は『あの人』といっしょにいられた小さい頃しか入れなかった場所なんだ。
せっかく、人になって、街に入れたのに追い出されるのはいやだ。
それに、僕が追い出されたら、いっしょにいるシアンやノクトにまで迷惑をかけてしまうかもしれない。
「うん。今はがまんする」
いつかできる時がきたら壊しちゃおう。
『今はという部分にとてつもない不安を感じるけど、その言葉を信じておくわ』
気持ちを切り替えるようにノクトが歩き出す。
『いつまでもここにいても仕方ないわ。まずは冒険者ギルドに行くわよ』
そういえば、色々とあって忘れていたけど、ここはどこなんだろう?
街を囲っている城壁の上なのはわかるんだけど、魔導具を使ってから何があったのかよくわからない。
「ここってどこ? 何があったの? 冒険者ギルドってどこにあるの?」
『質問ばかりね。ここは迷宮都市エルグラドの外壁の南端よ。何があったかはさっきも少し言ったでしょ。ダンジョンの上層と中層の境にギルドが設置した魔導具を使って、ここまで転移――瞬間移動をしたのよ。それで、冒険者ギルドなら、ここよ』
そう言って、立ち止まったノクトは床を足でたしたしと叩いた。
『街しか見えていないようだけど、後ろを見てみたら?』
しっぽで後ろを指される。
ダンジョンから転移というのをして、最初に僕たちが出てきた場所。
そこには地下で見たのと同じような塔が建っていた。
でも、ノクトが言っているのはそのさらに向こう側。
街とは逆の塀を超えた先に見える景色。
「これ、ダンジョン?」
絶対にそうだとは言えなかった。
なんとなく、気配というか雰囲気でダンジョンなのはわかる。
五百年前、目の前にした時のそれといっしょだ。
でも、僕が知っている大穴よりも大きくなっている、というか……。
「裂けてるんだけど」
大穴から南に向かって、深いみぞができあがっていた。
底が見えないぐらい深いのはダンジョンと同じだけど、ダンジョンはなんといっても『穴』なんだ。
こんな風に長く伸びていない。
『何を他人事みたいに言っているのよ。この亀裂、あなたがやらかしたのよ?』
「僕?」
『記録では鮮血の暗黒竜が死んだ時の閃光で刻まれたそうよ。だから、レオンの仕業ね。これ、南の荒野の向こう側の森まで続いているから』
あ、その森は僕がドラゴンの時にいた場所だ。
そっか。
僕の自爆でこんなになったんだとしたら、ちょっと悪い事をしちゃった気になる。
「埋めよっか?」
『また、簡単に言ってくれるわね。本当に、できる……のでしょうね、あなたなら。でも、できたとしてもやめておきなさい。ダンジョンの上層が埋まるわ』
それもそうだ。
冒険者という人たちがダンジョンに入って、モンスターを倒して、命石とか魔石を手に入れているんだったっけ。
この街はそのおかげで大きくなったんだから、邪魔をするのはいけない。
納得していると、ノクトが前足でもう一度床を叩いた。
『それで冒険者ギルドの話よ。冒険者ギルドの話はしていたかしら?』
「えっと、冒険者って人たちがお金をもらえるんだっけ?」
『それはあくまで冒険者ギルドの業務のひとつね。正確には冒険者の仲立ちと、ダンジョンの管理をする国家機関よ』
「?」
難しい話はよくわからない。
首を傾げているとノクトがため息をついた。
『とりあえず、冒険者がいっぱいいる場所、それでいいわ』
それならわかる。
『それで、冒険者の仕事はわかっているのよね?』
「うん。ダンジョンでモンスターを倒して、命石とか、魔石とか、いろんな物を手に入れて、それを売るんでしょ?」
シアンがお金の事で喜んだり、悲しんだりしていたからよく覚えている。
『じゃあ、そんな冒険者が集まるギルドはどこにあると便利かしら?』
突然のなぞなぞに考える。
便利っていうのは楽って事だよね。
冒険者が楽になる場所。
うーん。
「ダンジョンの中!」
『惜しい、のかしら? 確かにダンジョンまでついてきてくれて、その場で素材を買い取ってもらえるなら荷運びがいらなくて便利でしょうけど、ギルド員を酷使しすぎでしょう』
違ったみたいだ。
『正解はダンジョンの出入り口、よ』
「ああ、それも近いね」
『近いのも大切だけど、それ以上に大事なのはダンジョンからモンスターが出てきた時に、街を守る事よ』
ああ、それは大事だ。
そのために僕は五百年前に自爆したわけだし。
上層のモンスターだったせいか、弱いモンスターばかりだったけど、強いモンスターが戦えない人の近くに来たら危ない。
「ギルドには冒険者がいるから?」
『そうね。それに準備もしているもの』
だから、ダンジョンの近くにギルドがある。
それで、ノクトがさっきから床を叩いていた理由がわかった。
僕の『冒険者ギルドはどこ?』という質問の答えだったんだ。
「この下が冒険者ギルド?」
『ええ、正解。五百年前に崩れた城壁の一部を改造して建てられたのが冒険者ギルドよ。来なさい。まずは帰還の報告からよ』
そう言って、ノクトは再び歩き出した。
その先にあるのは小さな部屋みたいな場所で、城壁の内側につながっているらしい。
僕は背中のシアンを抱えなおして、ノクトを追いかけていった。




