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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第一章 目覚めるドラゴン
22/179

21 ドラゴンさん、気づく

 21


 ドラゴンブレス。

 それは最強の生物と呼ばれるドラゴンにとって最大の攻撃。


 そこに例外はない。

 ドラゴンの最強はブレス。

 全てのドラゴンに共通した事実だ。

 ドラゴンによって吐き出すブレスの性質に違いはあったとしても変わらない。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 叫び、翼を広げ、踏ん張る。

 それでも体は後ろへ後ろへと運ばれていた。


 黒と黄色の鱗を持つドラゴン。

 そのブレスは音のブレスだった。

 空気が揺れて、破裂して、あちこちで爆発が起きたみたいで、その圧力は止まる事を知らないみたいに襲い掛かってくる。


 魔闘法――竜王撃:砕嵐竜『真竜の雄叫』と似た攻撃だけど、威力は段違いにブレスの方が高い。

 今も僕の上げている声には生命力と魔力を込めていて、ブレスを止めようとしているんだけど、音の波は少しずつ僕の声を突き抜けていた。

 そのたびに、体のあちこちがパンッと鳴って、血が噴き出していく。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 声を上げたまま考える。


 あまりよくないなあ。


 ブレスに飲み込まれる寸前、十字型の棘のせいで体中を嚙まれていたせいで防御もできないところだったけど、そのおかげで自由だった喉を使う結果になった。

 音に音をぶつけるというのは初めての経験だったけど、これは割といい結果になったんだと思う。

 でなければ、今頃は本当にブレスが直撃していたし、今よりひどいケガをしていた。


 だけど、今はそのせいでどうすればいいかわからなくなっている。

 それがよくない。


「ああああああああアアアアアアアアアアアアアアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 痛い……。

 肩のあたりがパンッてなった。

 声を上げたり下げたりすると、よくないらしい。


 僕は呼吸をするだけでマナを吸収できる。

 だから、大技を使った後でもすぐにマナを体の内側に留めておけた。

 こうして声に込めている生命力と魔力も、その時のマナを転換したものだ。


 けど、こうして声を上げているままだと息ができない。

 息ができないとマナを吸い込めない。

 マナがなくなったら使った生命力と魔力はなくなってしまう。

 そして、その時はもうすぐそこまで来ていた。


「あっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっあっ!!」


 今度は声を切ってみた。

 ちょっと音を押し返した後、かなり押し込まれてしまう。

 お腹にきっつい破裂が当たってかなり痛い。

 これもよくない。


 だから、どうにかしないといけないんだけど、どうしよう。

 音の調子は普通にしているのが一番だってわかったけど、他にいい方法が思いつかない。


 ブレスの外に出られたらいいんだけど、このブレスは音。

 ブレスの範囲は広場の全部。

 音の向こう側は床も壁も天井も、ひびが入っては砕け散って、破片が砂みたいに粉々になっていた。

 避けられる場所なんてどこにもない。


 じゃあ、ブレスをくらって耐えるというのはどうだろう?

 それはちょっと危ないかもしれない。

 昔のドラゴンの体だったら迷わないでそうしているんだけど、今の人間の体だと耐えられるかわからなかった。

 右腕と翼だけはドラゴンっぽくなっているから、そこだけは大丈夫かもしれないけど……あれ? そういえば、どうしてこんな事になっているんだっけ?

 せっかく、人間の体になったのに戻ってるってどういう事!?

 えっと、たしかノクトと話していて……そうだ。色々とショックな事がいっぱいになって、そこから暴れた記憶しかない。

 うわぁ。何をやっているんだ、僕は。

 シアンとノクトに謝らないと……。

 許してもらえるかなあ。

 体がドラゴンっぽい人となんて友達になれないとか言われたらどうしよう。


 や、違う違う。

 そっちもすごい気になるけど、今はドラゴンブレスが問題だ。


 避けるのも、耐えるのも、難しい。

 だったら、ドラゴンブレスが終わるのを待つのが普通かもしれないけど、このドラゴンはちょっと普通じゃない。

 そんなドラゴンがずっと用意していたブレスなんだ。

 このまま僕を倒すまで吐き続けるかもしれない。

 少なくともドラゴンだった時の僕はそうしていた。

 一番長くブレスを使った時だと、頭の上にあったお日様が沈むまでだったし。


 このドラゴンが僕と同じ事ができないと決めつけるのは危ない。

 だって、さっきの声は確かに僕の声と同じだったのだから。


 そこまで考えて、最初の疑問に戻る。

 どうしよう?


 音のせいで歪んで見える向こう側。

 首だけになったドラゴンと目が合う。

 大きく口を開いているせいでわかりづらいけど、目を見ればわかった。

 今もわらっている。

 僕を追い込んだのが嬉しいみたいだ。


 人間にも嫌われて、同じドラゴンにも嫌われるとか――いや、違うか。

 こいつは他人なんかじゃない。


 僕と同じ声。

 それを聞いて、気づいて、一気に目が覚めた。

 ああ。

 ショックから回復したのもそのおかげなのかな。


 このドラゴンは僕――ドラゴンだった時の僕の肉体、その一部だ。


 その魂魄である僕は人間の体を持ってここにいるわけだけど、どうやらドラゴンの肉体も滅んでいなかったらしい。

 中身の魂魄はなんだろうか?

 どうやら僕に恨みがあるみたいだけど……。


 はあ。

 嫌われるのには慣れているつもりだったけど、自分自身にも憎まれるなんて僕は本当に嫌われ者なんだなあ。

 悲しいし、情けないし、へこんでしまう。

 シアンやノクトを置き去りにしてしまった事とか、『あの人』との約束を守れなかった事とかも思い出すと、このままやられてしまってもいいんじゃないかなんて考えまで思い浮かんでしまう。


 だけど、それはダメだ。


 このドラゴンは僕を倒した後に何をするか。

 僕を殺して満足して、おとなしくダンジョンの奥に戻るとは思えない。

 ドラゴンとして、いや、モンスターとして生きるんじゃないか?

 少なくとも僕の知っている他のドラゴンは、人間といっしょに生きるなんて考えもしなかったんだ。

 ダンジョンから出てしまえば、大変な事になる。


 なら、僕の体の責任はちゃんと取らないと。


 決めた。

 このブレスには耐える。

 耐えたら、その後に最大最強の攻撃をしよう。

 今度は頭も胴体も残さない。

 全てを消し飛ばす。


 そうと決めれば、後は行動するだけだ。

 ブレスを声で止めるのも余計。

 その分の生命力と魔力は耐えるために使おう。


 そうして、声を止めようとした瞬間だった。


「『このおバカ!』」


 ここにいないはずの一人と一匹の声が重なって聞こえて、小さな影が僕の目の前に飛び出してきた。

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