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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第一章 目覚めるドラゴン
17/179

16 ドラゴンさん、戻る

ちょっと短めです。

 16


「帝都……滅んだ?」


 五百年前?

 滅んだ?

 帝都が?

『あの人』と約束した。

 僕が守らなくちゃいけなかった街が。

 五百年も前に滅んでなくなっている?


『レオン? あなた、聞いているの?』


 帝都の近くに迷宮――ダンジョンができて、僕は精いっぱい戦った。

 戦ったけど、魔物は強いし、いっぱいだし、人間たちは僕を怖がって攻撃してくるし、傷だらけになってしまった。


 それでも、約束を守りたかったから、命を賭けたのに。


「滅んだ。なくなった。守れ、なかった……」

『ちょっと、レオン。何か言いなさいな。別にあたしもあなたが伝説通りの鮮血の暗黒竜クリフォトドラゴンだなんて決めつけるつもりはないのよ? ただ、話を聞かせてほしいって……レオン!?』


 気が付いたら倒れそうになっていて、慌てて両手を地面についた。

 でも、体を起こす気になれない。

 ただ、目の前がぼやけてきて、にじんでよく見えなくなってくる。


 ポツリと水滴が落ちた。

 水滴はポロポロと続けて流れて、硬い岩を湿らせていく。


『ちょっと、泣くことはないじゃない。酷いうわさが広まっていてショックなのかもしれないけど……』


 誰かが何かしゃべっているけど、全然頭に入ってこない。


「守れなかった。約束、守れなかった。『あの人』が守りたかったのに。でも、守れなくて、僕に守ってほしいって、言ってくれたのに、僕は、僕、守れなかった……」


 悲しいのか、悔しいのか、むなしいのか、胸の中でいろんな気持ちが渦巻いていて、自分でも何がなんだかわからない。

 でも、頭に浮かぶのは『あの人』の顔ばかりだ。


 生まれたばかりで一人ぼっちだった僕を拾ってくれた、育ててくれた。

 いっしょにいられなくなってからも、街の外まで遊びに来てくれた。

 人間の事、戦いの事、世界の事を教えてくれた。


 そんな大切で、大事で、大好きだった『あの人』のお願い。

 帝都という街を守りたいという願い。


 なのに、その街は、もう、なくなってしまった。




 瞬間、心の奥底で獣の咆哮が轟いた。




『ちょっと……あなた、それ……レオン? レオン!』


 どうして?

 どうして、こうなったんだ?


「僕の自爆が中途半端だったから?」


 そうかもしれない。

 ダンジョンを倒すのに、僕の命だけでは足りなかったのかもしれない。

 それとも、次に生まれ変わったらなんて考えたのがいけなかったのかも。

 迷ったつもりはないけど、気持ちが緩んでしまったせいで、ちゃんとできなくなってしまったなんて、ありそうだ。


 けど、そうじゃない。

 きっと、そこじゃない。

 もっと、根っこの部分だ。


 街が滅んだ理由。


「ダン、ジョン……」


 ダンジョンなんか、なければ、街は守れて、約束も、守れていたんだ。


 心臓が、ドクンと、強く打ち鳴らされる。

 自然と喉が動いて、胸いっぱいに息を吸い込んでいた。


 全身にマナが満たされる。

 マナが生命力と魔力に転換される。

 体が、今あるべき姿に、変質されていく。


『レオン! あなた、落ち着きなさい! ああ、もう! 本当に、この子はどんな体の構造してるのよ! シアン! 起きなさい、すぐに! あたしじゃダメなのよ! あなたじゃないときっと届かないわ!』

「にゃ、にゃんですかぁ!? モンスターですか!? なんだか、地面が揺れてますけど!?」


 ちょっとだけ心に届く声も置き去りに。


 僕ははっきりと見えるようになったマナの流れだけを見据える。

 ダンジョンの奥深くから流れてくる、濃厚なマナの大元。

 きっと、そこがダンジョンの命だ。


「ダンジョン、許さない。僕が、滅ぼす」


 滅ぼしてみせる。

 今度は失敗しない。


 大丈夫。

 人間の体は不慣れだけど、大丈夫だ。


 なぜなら、僕の体は少しだけ見覚えのある、慣れたそれになっているから。


 鋭い爪が伸びて、うっすらと鱗の生えた右腕。

 背中から生えた、一対の竜翼。

 そして、吸い込んだ先から大量の生命力と魔力に転換されていくマナ。


「ううぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁあぁああああああああああああああああああああっ!!」


 吼えて、嚙み締めれば打ち鳴る牙の音。


 それが、出発の合図。


 僕は地面を蹴り砕いて跳び、広げた翼を羽ばたかせた。

 渦巻いた風を魔力が絡めとって、ふわりと体を空に浮かべてくれる。


『レオン、待ちなさい! 話を聞きなさい!』

「へ、レオン、ですか!? うわ、ちょっとかっこいい、かもしれません」


 ざわりと揺れる心もほんの僅か。


 翼を羽ばたかせ、僕はダンジョンの奥へと飛び立っていた。

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