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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
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157 ドラゴンさん、つらぬく

 157


 ガラスの矢。

 その中には『峻厳』さんの炎みたいな力。

 そして、まわりをバチバチとおどる雷のひかり。


「えい」


 それが僕の手の中から飛び出して――消えた。


 ううん。

 消えたと思ったら、もう当たっていた。

 アメジスが広げている氷の壁に当たって、氷にささっている。


 後から音とか風とかがブワッてやってきて、僕たちの後ろにぬけていく。

 くだけた氷がバチバチ当たってちょっとくすぐったい。


「……おい。魔力のわりに止められてねえか?」


 となりの『峻厳』さんがなんだかじっとりした目で僕を見てくる。

 でも、それはちがうよ。

 止められてなんかない。

 矢はいまも進んでるんだ。


「『あの、矢が動いているような?』」


 ほんとうにちょっとずつだったからわかりづらかったみたいだけど、シアンが気づいてくれた。

 ちゃんとわかってくれてうれしい。


「そうだよ。まだまだこれから速くなるんだよ」


 あの氷のせいで止まったみたいに見えちゃったかもしれないけどね。


 ちょっとずつ。

 ちょっとずつ。

 ちょっとずつ、速くなりながら。

 今も氷の壁の中に向かって飛び続けているんだ。


「加速し続けている? まさか、魔力が尽きるまで、ずっとか?」

「うん? たぶん、うん」


 アメジスの氷は当たった物をかためちゃうみたいだけど、『峻厳』さんの言う通りもっと強い力で押し込んでしまえばいい。

 だから、僕は前に前に進むように思って矢を撃った。


 ほら、矢がどんどん速くなっている。

 氷の壁にひびが増えてきて、ひびが大きなひびになって、壁がこわれて氷のかたまりがごとんって音を立てて落ちた。

 ガラスの矢はどんどん光が強くなっていく。

 炎が赤く燃えて、雷がおどって、キラキラってとてもきれいだ。


「待て。あの都市をまるごと消し飛ばしかねねえ魔力量が、全部余さず加速に使われているとしたら……」

『「シアン、全力で守りなさい! すぐに壁の限界を超えるわ! 中途半端に止められたもんだから急加速が起きるから余波だけで大破壊が起きるわよ!?」』


 急にあわてる『峻厳』さんとノクト。

 けど、シアンはむずかしい顔で僕を見てきた。


「『あの、レオン? アメジスはともかく、あの矢を受けてノクトの本体――精霊セルシウスは無事なのでしょうか?』」


 そんな事を聞いてきた。


 どうしてか、まわりがシーンってなった。

 だれもお話しない。


 精霊セルシウス。

 シアンのお家と契約というのをしている精霊。

 ノクトの本体の女の人っぽいやつ。

 それは氷の中に入れられて、アメジスのそばにいる。


 つまり、矢の刺さる方にだ。

 もちろん、このままなら刺さる。

 ぶっすり。


「……あ」

『「ちょっと、レオン!? あなたねえ!」』


 ノクトがさけんだのといっしょだった。

 ゴットン、って大きな音がしたんだ。

 見ると、氷の壁のおおきなかたまりが崩れるところで、その後は本当にすぐだった。


 穴が空いた。


 ぽっかり。


 氷の壁に。

 空の中に。


 きれいに。

 すうっと。

 

 細い穴が空いた。

 ガラスの矢が消えて、穴だけがのこった。


 キィィィィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンッ!!


 少し後から耳がいたくなっちゃいそうな音が抜けていく。


「あ――」


 だれかが声をもらすよりも先に、破壊が起きる。


 細い穴。

 矢の通り抜けた道。

 何もかもが貫かれた跡。

 そこを炎と雷が駆け抜けていった。

 続けてさっきよりも強い風がブワアアアってふいて、炎と雷がこわした物を吹き飛ばしてしまう。


 シアンの水の壁が街を守ろうとしてくれるけど、ダメだったみたいだ。

 道のまわりとかは無事みたいだけど、矢が飛んでいった方には何ものこってない。


「ああ……」


 ここからだと街の真ん中の向こう側がよく見える。

 南から北を見ようとしてもジャマだったのがなくなったからね。


 僕はドラゴンシャフトを弓から棒にもどして息を吐く。


「あぶなかったぁ」


 もうちょっとで精霊セルシウスに当てちゃうところだったよ。

 矢を少しだけ上に向けるのがなんとかできたんだ。


 道の真ん中には、だいぶボロボロになっちゃったアメジスト。

 そして、氷のかたまりがゴッソリなくなっちゃったけど、中身の女の人っぽいのはギリギリだいじょうぶなセルシウス。

 じっと見てみると、どっちも魂魄はある。

 生きているみたいだ。


 でも、シアンが注意してくれるのがもう少しおそかったら間に合わなかったかも。

 大失敗だ。

 反省しないと。


「ふふ」


 心からそう思っているんだけど、ちょっと僕の気持ちはふわふわしている。


 アメジスをたおしたから?

 ちがうよ。

 セルシウスがぶじだったから?

 それだけじゃないよ。

 街をあんまりこわさなかったから?

 それは反省しないといけない事だよ。


「やった。あのやな像、こわせた」


 僕が見る先。

 迷宮都市エルグラドのまんなか。

 さっきまでそこにあった大きな、大きな、大きな弓聖像。

 ドラゴンだった僕をふみつけていた、あの像がなくなっていた。


 ごめんね、弓聖さん。

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