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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
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156 ドラゴンさん、矢をうつ

 156


「貴様のセフィラの力――『峻厳』と『慈悲』のふたつ、見誤ったのは認めよう。だが、貴様もまた精霊の力を見誤ったのう」


 ?

 なんか、アメジスがへんな事を言った気がする。

 なんだろう……まあ、いっか。


 それより、精霊の力の事だ。

 精霊の力――ノクトの力がすごいって僕はちゃんと知っている。

 なのに、知らないなんていうのはひどい。

 さっきもバカって言ってきたし。

 おしおき、まだ足りないみたいだ。

 僕が教えてあげようと思っていると、アメジスがばしんって氷のかたまりを叩いた。


 いたそう。

 手、あかくなっちゃうよ?

 だけど、アメジスは自分の手も気にならないみたいで、たくさんの魔力を流しだした。

 セフィラでいっぱいになった魔力。

 それをぜんぶだ。


「今度こそ永久に眠れ、化け物!」


 精霊セルシウスから氷が広がる。

 ふわりって浮かんでいるセルシウスと、地面の氷がのびて、つながって、そこからまわりに向かって、どんどん広がっていく。


 この氷、今までのアメジスの氷とちがう感じがする。

 なんというか、アメジスのはただ冷たいだけだけど、この氷はもっともっとあぶない感じがして――そう、シアンとノクトの力に近い気がする。


 僕はそれを知っていし、マネできるからあぶないってわかる。


「これ、さわっちゃダメなやつだ」


 まずは、パッと飛んでしまう。

 あの氷につかまったら大変そうだから、こっちからあっち――すぐにセルシウスの氷に当たらない所まで僕は下がった。

 シアンたちとアメジスのまんなかぐらいの所でいいかな?


「『レオン、あの氷に当たってはダメです! 生死と静止の精霊セルシウスの力は魂魄の働きまで止めてしまいます!』」


 シアンとノクトがむずかしい事を言う。

 ただ、当たったらダメなのはわかっているから、うなずいておく。


 でも、どうしよう?

 当たっちゃダメだから、ドラゴンシャフトは使えない。


「じゃあ、これだ」


 魔闘法――竜人撃:圧海竜『底なしの黒い箱』


 黒い箱を作って、えいって投げる。

 黒い箱はすーってしずかに空をすべっていった。


「あ。止まった」


 けど、氷に当たったら動かなくなってしまった。

 いつもなら当たった物をのみこんで、ちっちゃくしちゃうのに何もおきない。

 そのまま氷の中に閉じ込められて、見えなくなってしまう。


「すごい……精霊、すごい!」


 黒い箱がダメなんてはじめてだ。

 僕はびっくりしながらドラゴンシャフトにいっぱい魔力を流す。

 とても大きくなった魔力の剣がまっしろに光りだした。


 魔闘法――竜人撃:始光竜『辿り着く星の光』


「『ちょっ! 上から下になんて!?』」


 空まで届きそうなぐらい大きな光の剣を下ろす。

 ブワッて風が吹いて、バシャアって水の壁が吹き飛んで、のこってた普通の氷がバラバラになって、後ろの方でシアンが叫んで。


「わっ、また止まった!」


 それからまっ白な光が止められた。


 黒い箱と同じ。

 氷に当たったらそこからもう動かない。

 押しても引いてもダメだ。

 光が氷に飲み込まれて、そのままこっちにも氷が伸びてくる。


 僕はあわててドラゴンシャフトに魔力を送るのをやめた。

 そうしたら光の剣が折れたみたいになって、氷がこっちまで近づかない。


「本当に精霊ってすごいんだ」


 知っているって思っていたけど、ちゃんとわかっていなかった。


 今の黒い箱と光の剣、ぜんぜん届かない感じがした。

 ちゃんと力を入れてたのに、びっくりだ。

 びっくりしてなんだか頭がくらくらするような?


「『レオン! だから、力は下に向けて使わないでくださいって!』」

「――あ、ごめん!」


 あ、わすれてた。

 あぶない。

 シアンがいなかった街をこわしちゃっていた。

『あの人』に守ってっておねがいされてたのに。

 はんせいだ。


 ……あ、くらくらがなおった。

 なんだったんだろう?


「おい。ドラゴン、力を貸す」

「ありがとう、『峻厳』さん。でも、ドラゴンじゃなくてレオンだよ」


 考えていると『峻厳』さんがやってくる。

 シアンを守ってくれるんじゃなかったのかな?

 ふしぎで見ていると、『峻厳』さんは鼻をならす。


「あの老人、力をまき散らしているだけで制御できてねえ。あの小娘だけを狙うなんぞできねえよ」


 そうなんだ。

 たしかにアメジスは氷を広げるだけで、さっきからもうしゃべりもしない。

 おはなしもできないぐらい集中してるんだ。


「問題はあれをどうやって貫くかだが、どうやらあの精霊の力はお前のよりも位階が上らしい。ぶつかりあえば負けるぞ」


 こまった。

 むずかしいおはなしだ。

 何を言っているかよくわからない。


「『今みたいに技を止められちゃうって言っているんですよ!』」


 シアンが教えてくれた。

 うん。それならわかる。


「じゃあ、どうするの?」

「ただの人間がセフィラを本当に使いこなせるわけがねえ。そのうち自滅するだろ」

「『待ってれば、勝手にアメジスは倒れます!』」

「え、でも、そんな事したら街が大変だよ」


 またシアンが教えてくれたけど、それはダメだと思う。

 どれだけ待てばいいか知らないけど、放っておいたら街が氷でカチンコチンだ。

 さっきから氷が広がっているせいで、地面はどんどんボロボロになっちゃっているし、氷のかたまり――というか山? に閉じ込められちゃってる。


 あと、街だけじゃない。

 この辺り、アメジスたちが何かやっていたみたいで他に人間がいなかったけど、だんだん遠くからこっちに近づく人たちがいる。

 僕たちが戦っているのが気になったんだと思う。

 もしも、その人たちが氷にさわっちゃったら大変だ。


『峻厳』さんもわかっているみたいで、うんってうなずく。


「だろうな。じゃあ、どうにかして奴より上の位階を引っ張り出すのが順当な方法だろうが、この世界であれより上となりゃあ創造神のレベルだ」

『「創造神様はもう……」』


 ノクトが悲しそうに言う。

 うん。いないんだよね。

 じゃあ、それもダメ。


「どうしよう?」

「そうなりゃあ、ドラゴン。お前の得意技しかねえだろ」

「レオンだよ。僕の得意技って?」


 ニヤリって笑う『峻厳』さん。


「力づくに決まっているだろ」


 うん。

 それは得意だ。

 ガルズのおじさんからいろいろと教えてもらったけど、得意なのはまちがいない。


「止められちゃうんじゃないの?」

「止められるそばから叩き込んでやれ。術者のせいかな。本当の停止じゃない。止められても凍るまでは一瞬じゃねえんだ。止まった力ごと押し切っちまえ」


 うん。

 これはわかりやすい。

 シアンに教えてもらわなくてもわかった。

 そんな力を街で使ったら大変そうだけど、シアンがいるからだいじょうぶ。


「『か、過度の期待が!? かつてない程に過度な期待がのしかかった気がしますよ!?』」

『「天才なんだから、応えてみなさい。正直、無理な気がするけど……」』


 シアンとノクトもはりきっているみたいだ。

 たのもしいな。

 僕もがんばらないと!


 ドラゴンシャフトを弓に変える。

 いっぱいマナを集めて、生命力と魔力に変えて、一歩の魔力の矢にする。


 魔闘法――竜人撃:結凍竜『時忘れの針』


 とうめいなガラスの矢。

 そこに『峻厳』さんが手を伸ばしてきた。


「矢か。いいな。オレの炎も乗せろ」


 まっかな炎が燃え上がる。

 けど、ただ熱い火じゃない。

 よくわからないけど、これは炎の形をしたふしぎな力だ。


「飛んでいけ。何よりも速くだ」


 そっか。

 向こうは『止める』だから、こっちは『動く』方がいいのかも。

 じゃあ、魔力の感じを変えて、今の『峻厳』さんのをマネして……。


 魔闘法――竜人撃:炎迅竜『天頂を越える雷華』


 ガラスの矢。

 そこに金色の雷がおどりはじめた。

 とてもいい感じがする。

 これなら世界のどこにだって届きそうだ。


「……おいおいおい」

「『あの、これ。無理じゃないですか?』」

『「余波だけでもなんとか軽減なさい」』


 みんながいろいろ言っているけど、気にしない。

 今はアメジスを止めるのがいちばんだ。


「じゃあ、いくよ」


 僕は魔力の矢を撃った。

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