151 ドラゴンさん、感心する
151
横から来たのは剣の人だ。
右と左。
どっちからも。
十よりも多い。
僕が矢を撃っている間に横の方から近づいていたらしい。
ずるい。
でも、ノクトが教えてくれたから気づいた。
ざんねん。
ドラゴンシャフトを弓から剣に変える。
近づいてきた氷像、まずは右の方にそのまま斬りつけて――。
「あれ?」
はじかれた。
びっくりだ。
魔力剣で斬れないって、どうして?
さっきは斬れたのに?
「……盾?」
よく見ると、剣の人の後ろには別の氷像がいた。
それらは大きな氷の盾を持っていて、僕が魔力剣をふるといっしょに前に出てきて、その盾を持ち上げたんだ。
でも、すごい盾だ。
魔力剣で斬れないなんて、すごい。
街をこわさないように気をつけているし、今のでけっこうボロボロになっちゃったみたいだけど、しっかり止められてしまった。
割れちゃったのもすごい速さで直っている。
「じゃあ……」
剣じゃダメ。
槍と弓も近すぎてうまく使えなさそう。
「斧だ」
ドラゴンシャフトを持ちかえる。
そうしたらさきっちょの先から魔力の刃ができあがる。
剣とも槍ともちがう。
丸をはんぶんにしたのと槍みたいにとがったのがくっついた形の、大きな、大きな刃だ。
それから、ドラゴンシャフトがとても重くなった。
剣とか槍よりもずっとだ。
「よいしょ――っと」
それを持ち上げる。
そして、今度は左からそっと近づいていたのに落とした。
思いっきり、ブンってね!
さっきみたいに盾の人が前に出てきたけど、そんなのじゃダメだよ。
「どーん!」
僕の斧が盾にぶつかって、そのまま何もなかったみたいにぜんぶを吹き飛ばす。
盾の人も、剣の人も、ぜんぶだ。
どっかーんってぶつかって、バラバラになった。
って、いけない。
地面もどっかーんてなっちゃっている。
すごく、いっぱい、たくさん、土がなくなって……。
うん。やっぱり、後であやまろう。
「だから、今はごめんなさい!」
ほうっておいた右の方に斧を落とす。
ソロって近づいていたみたいだけど、わかっているからだいじょうぶ。
今の氷像と同じように吹き飛んだ。
右と左の剣と盾の氷像を倒している間に、前の方からまた剣と槍の氷像が近づいてくるけどへいき。
もうわかっている。
剣には剣。
槍には槍。
弓には弓。
盾には斧。
そうすればかんたんに倒せる。
だから、そうする。
剣をふって、槍で突いて、剣をふって、斧でつぶして、弓で矢を撃って、槍で突いて、剣をふって、ふって、ふって、斧でつぶして、つぶして、つぶして、槍で突いて、弓で矢を撃って、それから剣をふって――あれ?
僕は
「像、なくならないよ?」
像はいっぱいだった。
僕が数えきれないぐらいだった。
でも、僕もがんばった。
いっぱいいっぱいいっぱい倒している。
なのに、氷の像はどんどんやってくる。
ぜんぜん、終わりがこない。
「どうなってるの?」
『それは倒しても補充されているからよ』
ノクトが教えてくれる。
ホジュウ……なんか強そうな名前だ。
どんな動物だろう?
「補充っていうのは、なくなった分を作ったりして元の数に戻すって事ですよ」
そうなんだ。
シアンが教えてくれて……って、シアン?
チラって後ろを見るとシアンが魔導の準備を終わらせていた。
いつもの自信まんまんの笑顔がかっこいい。
「お待たせしました。レオン、一気に決めますよ!」
『レオンはそこで警戒! シアン、気をつけなさい!』
「わかっていますよ、わたしは天才ですからね!」
シアンが杖を持ち上げる。
いっぱいの魔力が上の方に流れていった。
そして、そこで魔導に変わる。
これは濫喰い獣帝王種を倒した……でも、あの時よりももっともっと、いっぱいの魔力を使っている。
「領域・展開-300・水属性――水精聖殿!」
水の柱が落ちてくる。
でも、氷像の上じゃない。
その向こう側。
広場のまんなかの近く。
あっちはたしか……アメジスがいた場所!
水の柱が落ちるのといっしょに、目の前まで来ていた氷像が動くのをやめた。
僕の足元でつぎつぎと倒れて、本物の氷の像みたいに動かなくなる。
そっか。
氷像を作っているアメジスを倒しちゃえばよかったんだ。
さすが、シアンは頭がいいなあ。
僕も弓でアメジスを撃っていれば……。
でも、何かちがう気がするんだよなあ。
「立体・二重展開+5・水属性――水渦乱流!」
何がちがうのか考えている間に、シアンが魔導をつづける。
水の柱がグルグルとまわり始めて、中にあるものを振り回しだした。
氷の像がどんどんバラバラになっていって、あれじゃあその中にいるはずのアメジスも……アメジスも……いない?
「アメジス。いないよ?」
「ふむ」
気づくのと、その声が聞こえたのはいっしょだった。
ふりかえると、僕たちの後ろ――シアンのすぐそばに、いつのまにかアメジスの姿が目に映った。
思い出したのはさいしょに広場に来た時の事。
あの時も僕たちはアメジスに気づけなかった。
結界っていうやつ。
それを使って、僕が氷像を倒している間に後ろに来ていたの?
「シアン!」
「気づくのが遅かったのう」
僕がさけぶよりも先に、いつの間にか持っていた氷の剣を突き出す方が早い。
シアンはまだ杖を持ち上げたままで、ふりかえってもいない。
よけられない。
けど、シアンは笑ったままだ。
「『そうくると思いましたよ』」
シアンとノクトの声がいっしょに聞こえた。
その時にはもうシアンが猫っぽくなっている。
まっくろな目と髪と服の、猫耳としっぽのシアンだ。
シアンとノクトは後ろを見ないまま、それでも力をふるう。
後ろに向けて。
しっかりと当てる。
いろんな物を止めてしまう力だ。
氷の剣が持ち主といっしょにピタリと止まって、動かなくなった。
「『ブリューナクのやり方は熟知していますからね』」
シアンもノクトも後ろから攻撃されるってわかっていたみたいだ。
だから、わざと知らないふりをして、そこを逆にねらったんだ。
そっか。
そうだったんだ。
僕は感心して、それからため息をついた。
「『どうしました、レオン? ため息なんか……』」
僕を見たシアンが息をのんだ。
びっくりさせちゃった。
あとであやまらないと。
あぁ、失敗した。
僕は手とか足とかを見下ろして、もう一回ため息をつく。
シアンがつらそうにしているのを見るのはやだなあ。
手も足も、今は氷の中。
足元から伸びてきた剣とか、槍とかがぶつかって、僕の手足を凍りつかせている。