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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
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144 ドラゴンさん、婚約する

 144


 ぐったりとしてしまったシアンをソファーに寝かせる。

 本当はシアンの部屋のベッドにつれていこうって思ったんだけど、ノクトがどうしてか止めたから。

 なんでも『なんとなく今は二人きりにさせるのは怖い』らしい。

 よくわからないけど、頭のいいノクトが言うんだからきっと大事だと思う。


「うぅ……」


 しばらくしてソファーで寝かせたシアンが目を覚ました。


『シアン、大丈夫かしら?』

「ノクト? 大丈夫って何が……なんだか最近こんな事ばかりなような気がしますけど……そういえばとっても幸せな事があったような――」


 つぶやいているシアンと目が合った。

 そして、顔をまっかにした。


「あ、あの、さっきのは夢、とかじゃなくて……」

『現実よ。おめでとう。人妻さん?』

「人妻ぁっ!? いや、あのそのえと、け、けけ、結婚するって、奥さんになるって、その、そういう事でしょうけど!」


 シアンがあわてていると、ノクトは小さくため息をついた。


『冗談よ』

「あえ?」

『まあ、結婚云々は夢じゃないけど。さっきのあれ、勢いだけで受け入れて後悔しているなら、早いうちに取り消してあげなさいな』


 え、取り消すって……僕と家族になるの?

 シアンがうなずいてくれて本当にうれしかったのに、やっぱりダメなんて言われたら悲しすぎる。

 でも、もしもシアンが本当にいやならガマンしないと……。


「あ、ああもう! そんなに悲しそうな顔をしないでください! べ、別にわたしだって嫌なら断っています。その、レオンが嫌いなわけないじゃないですか」

「シアン!」


 シアンがうれしい事を言ってくれた。

 抱きしめたくてそばに寄ったら、手を突き出されて止められてしまった。


「けど、結婚はまだ早いです! わたしたちお、お付き合いだってまだなんですからね!」

「おつきあい?」


 剣とか槍を突き合うのじゃないのはなんとなくわかる。

 そんなのしたら、よわよわなシアンは穴だらけになっちゃう。


「おつきあいってなに?」

『そこからなのね。そうね。友人とか保護者とか仲間とか、そういう関係ではなく、男女の仲として交流する事、かしら?』


 ノクトがむずかしい事を言う。

 男女のって言われても、僕とシアンは元々オスとメスだ。

 それなのに、今までのはちがうってどういう事?


「そ、それは……そうですね。お買い物とか、お食事とか、そんな感じの、で、デートとかして? 手をにぎったり、腕を組んだり、さささ、さらには、ムード次第では、き、きき、キッスとかしちゃったりしましてですね? そんなこんなが最高潮に達したところで情熱的なプロポーズを……」


 むう。

 よくわからないけど、むずかしそうだ。

 ただ、もうシアンとやっている事もある。

 お買い物に行ったり、ご飯も食べたりした。

 手をにぎったりとか、腕をくんだりとかもだ。


 なら、大切なのは「むーど」ってやつだと思う。

 それを手に入れて、同じのをやって、「きっす」というのをして、もう一回お願いすればいいんだね。

 わかった。

 僕がシアンとやらなくちゃいけないのは、「むーど」を持って「きっす」する事だ。


『まあ、無難な線かしらね。随分と乙女らしいとは思うけど』

「い、いいじゃないですか! わたしは最高の乙女なんですからね! それ相応のロマンティックさがないと落ちてなんか上げないんです!」

『けど、それじゃあ勇気を出して……はいなかもしれないけど、レオンのプロポーズを無視するみたいで酷いんじゃないかしら?』

「うっ」


 シアンは苦しそうに胸を押さえている。

 それを見るノクトはなんだか、そう……タノシソウだ。

 ちょっと悪い感じに笑って、しっぽを揺らしている。


「……ノクトの言う事は正しいです。いいでしょう」


 顔を上げたシアンが僕を指さしてくる。

 まっかな顔で、指がふるえているけど、だいじょうぶかな?


 それでもシアンは何度も息を吸って、吐いて、吸って、吐いて、きっと僕を見つめてきた。


「レオン、今からあたなはわたしの婚約者です!」

「婚約者?」

『結婚を約束した人って事ね』


 すぐにノクトが教えてくれた。

 結婚の約束。

 家族になる約束をした人。

 それは、つまり……家族っぽい人だ!


「わかった! 僕は今日からシアンの婚約者だね!」

「ふ、ふふ! このわたしの婚約者なんてとても光栄な事なんですからね! レオンはもっともっと喜んでもいいんですよ!?」

「僕、とってもうれしいよ。シアン、ありがとう」

「あ、ありがとうは、わたしの台詞なのですが……ええ! レオンはちゃんとわかっているようですね! ほめてあげますから、レオンもわたしをほめてもいいんですよ?」


 シアンが僕の頭をなでてくれたから、僕もシアンの頭をなでる。

 うん。

 これはいい。

 とてもいい。

 シアンもしあわせ。

 僕もしあわせ。


『焚きつけておいてなんだけど、甘すぎて砂糖吐きそうよ。まあ、今のシアンにはそれぐらいの足場があった方がいいのでしょうけど』


 そんな事を言いながら、ノクトが僕たちの足の間から離れていって、テーブルの上で丸くなった。

 その猫耳が動いて、片目が家の入り口の方に向いた。


『あの子たち、帰ってきたようね』


 僕もそっちの方を見てみる。


 うん。

 もうそこまでトントロとピートロが帰ってきていた。

 トントロはおっきな荷物をかかえていて大変そうだ。

 力が強くても前が見えないせいでフラフラしているなあ。

 となりのピートロがハラハラしていた。


 なんだか、お客さんもいるみたいだけど。

 二匹の後ろをついてくる人が一人。

 何をしているんだろう?


「では、迎えに行きましょうか」


 シアンといっしょに家の扉を開けて、門の所まで行ったらちょうどトントロたちがやってきた。

 僕はフラフラしているトントロから荷物をもらった。


「あ、アニキっす! ただいまっす!」

「ただいま帰りました。遅くなってしまってすみません」

「おかえり」


 僕の腰に抱きついてくる二匹をなでたい。

 けど、荷物のせいでできない。

 なんてことだ……。


「お帰りなさい。おつかいはちゃんとできましたか?」

「うっす! かんぺきっす!」

「お兄ちゃん、お釣り間違いそうだったのに……でも、はい。頼まれた物はちゃんと買えました」


 ピートロからシアンがお金の入ったバッグを受け取る。

 シアンは中身を見て首をかたむけた。


「ずいぶん残っているみたいですけど……」

「うっす! ピートロがおねがいしたら安くなったっす! ピートロはすごいっす! ほめてあげてほしいっす!」

「そ、そんな事ないです。ただ、わたくしは相場より高いな、とか。傷んでいる食材が混じって出ているな、とか。他のお役様のお会計で計算を間違えているな、とか。店主様とお話しただけで……」


 ピートロははずかしそうにもじもじしている。


 うん。

 ピートロはすごい。

 僕もそう思う。

 でも、どうしてだろう?

 ちょっと怖いような?


「値切り交渉を身に着けましたか。やりますね、ピートロ」

「はい! 頑張りました!」

『いい事よ。表示価格で買うなんて愚かしいにもほどがあるわ』


 シアンとノクトはニコニコで、ピートロもにっこにっこだ。

 なんとなく僕はトントロと一歩離れてしまった。


「アニキ。なんだか、オイラ、ピートロとアネゴがこわいっす!」

「僕もだよトントロ。どうしてだろうね?」


 よくわからないし、これからもわからないような気がする。

 わからない事を考えてもしかたない。

 それよりも僕はさっきの事をトントロとピートロに話す事にした。


「トントロ、ピートロ。僕とシアン、結婚するんだ」

「けっこん、っすか?」

「ふわあぁぁ……」


 いつかの僕みたいにトントロは意味がよくわかってないみたいだけど、ピートロは目をキラキラさせていた。

 おとなしいピートロにしてはめずらしく、ピョンピョンと飛び跳ねている、


「シアンのアネゴ様、おめでとうございます!」

「ふ、ふふ、なんだか照れてしまいますね。けど、レオン。さっきも言いましたが、まだ結婚じゃありません。婚約です」


 そうだった。

 結婚じゃなくて婚約。


「それでもすごいです! わたくし、感動しました! あの、プロポーズはどんなふうでしたか?」

「えっと、その……こう、最初は肩を掴まれて、次にほっぺを挟まれて、最後はおでこがくっついて……」

「きゃああああああああああああああああああっ!!」

「ぎゃああああああああああああああああああっ!!」


 ピートロが大興奮だ。

 そして、ついてきていたい人が大きな声を上げてばたりと倒れる。


 気がついていた僕とノクトは気にしなかったけど、気づいていなかったシアンと、トントロとピートロがびっくりしている。


 そんなみんなの代わりに僕は倒れた人に聞く。


「ねえ、マリア。どうしたの?」

「ここここここ、こん、や、く……」


 それだけ言って、マリアはぐったりと芝生の上で寝てしまった。


 うーん。

 こういうふうに寝るの楽しいのかな?

 今度、僕もやってみよう。

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