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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
144/179

141 ドラゴンさん、家族について考える(失敗)

 141


 アメジスとシルバー。

 おじいちゃんの方がアメジス。

 お兄さんの方がシルバー。

 紫色の髪の貴族の人。

 ふたりはやっぱり僕たちも、冒険者の人たちも見ているみたいで見てない。

 どうでもいいって思っているのかなあ。


 ふたりは何も言わないままギルドの中に入ってしまった。

 そんなふたりに肩をすくめたギルマスは、最後に『ここにいない人にも伝えてくれよ』と言って戻っていく。


 最後に残っていたマリアが受付の人に話しかけて、それから三人についていこうとして、僕と目が合った。


 !?


 って感じに目を大きく開いて、口をパクパクさせて、それからとなりにいるシアンとノクトを見て、ふかーくため息をついた。

 まわりでさわいでいる冒険者の人の間を早歩きでぬけてくる。


「ちょっと来てねー」


 僕とシアンの手を取るとぐいぐい引っ張ってきた。

 ニコニコ笑っているけどちょっと怖い感じ。

 言う事きかないとダメなやつだ。


 僕たちはマリアに連れられて歩いていく。

 マリアはギルドから離れて、細い道をぬけて、あんまり人がいない場所まで来たところでやっと足を止めた。


 振り返ったマリアはにっこり笑っているけど、やっぱり怖い。

 トントロとピートロがしっぽを丸めてしまっている。


「なんで最悪のタイミングであんな所にいるかなー」

『知らないわよ。そっちこそ何がどうなっているのか聞かせてもらえないかしら?』

「やはり、わたしの事情のせいですか?」


 さすがシアンとノクトだ。

 ちっとも怖がってない。

 それどころかマリアに質問している。

 マリアはもう一回ため息をついて、それから話し始めた。


「こっちもわからないのー。いきなり帝都からやってきてー、ギルマスを出せー、これからダンジョンに入るから配慮しろー、ギルドの持っている情報を全てよこせー、嘘をついてもわかるんだぞー、って。ほんと、最悪」

「あの人たちは……」


 最後だけ本当に怖い感じだ。

 マリア、怒ってる?

 シアンはなんだか悲しそうな、つらそうな顔だ。

 僕はシアンの手をにぎりたくなったから、そのまま手を取った。


「シアン、へいき?」

「……ええ。わたしは天才ですからね。これぐらいでへこたれません。それに、レオンが心配してくれるからへっちゃらです!」


 手をにぎり返してくれた。

 よかった。笑ってくれた。


「はあ。こんな時にラブラブでいいわねー」

『子供の青春にひがまないの。それで、冒険者ギルドの対応は?』


 どうしてか元気のなくなったマリアは続きを教えてくれた。


「あれでもギルマスは帝国でかなり偉い人ですからねー。いくら貴族でもあれこれ無理強いはできないはずなんですけどー」

『相手が『ブリューナク』じゃ分が悪い、かしら?』

「ですねー。真正面からはねのけるのは難しいですよー。何せ『ブリューナクの真実』がありますからねー。そこらの貴族とは格が違いますー、というのは言うまでもなかったですよねー?」

『人の弱みを握って従える下種のやり方よ。忌々しい』


 僕にはよくわからない。

 ええっと、あの人たちはブリューナクという貴族の人たちで、普通の貴族じゃないって事だよね。

 それが『ブリューナクの真実』だからってマリアは言った。

 それは前にシアンとノクトが教えてもらった。

 ノクトの――精霊セルシウスの力。


 ウソがわかる力。

 そして、ウソがつけない力。

 そんな約束の力。


「あ。さっきの人たちって、シアンの……」

「ええ。そうですね。残念ながらわたしの血縁。父親と兄です」


 アメジスがシアンのお父さんで、シルバーがシアンのお兄さん。

 そっか。

 だから、どこかで見た感じだったんだ。

 思い出してみると、髪の毛の色も近かった。


 けど、シアンとあの二人が家族っていうのがピンとこない。

 どうしてだろう?


『大方、エルグラド家から情報が回ったのでしょうね』

「タイミングから考えるとそうでしょう。意図して流したのか、嗅ぎつけられたのかはわかりませんけど……」

「やっぱりそっかー。ブリューナク家の情報網って帝都随一だもんねー」


 うーん。

 顔の形は……近かった。

 男の人と女の人だから?

 そうかな?


「となると、あの人たちの狙いはノクト、ですね」

『あなたもでしょう。どちらにしろ一緒だけど』

「それにしても当主と次期当主が直接来るなんてねー。しかもー、手下がたくさんだよー。この前のエルグラド家よりもねー」


 見た目じゃないのかも。

 もっと別のところがちがうから、そっくりじゃない。

 うん。

 そんな気がしてきた。


「エルグラド家以上の戦力……そんなものを街の中に、いえ、領内に入れるのをエルグラド家が認めるわけないはず」

「そこはー、お得意の駆け引きだねー。無償での『ブリューナクの真実』行使の約束にー、当主様自らに『エルグラド家に害意はない』と誓われたらー、さすがの弓聖サマも文句言えなかったみたいだよー」

『真実看破の契約を利用してくれるわね』


 シアンとあのふたりのちがうところは……なんだろう?

 あったかいのと冷たい感じ?

 そうだそうだ。

 わかってきたぞ。

 やっぱり、あの人たちとちがうところを考えればいいんだ。


『ところで、マリア。あなたはあたしたちと話していていいのかしら? 専属のあなたは真っ先に居場所を聞かれたのでしょう?』

「そこはー、うまーく誤魔化したよー。あ、今の私はシアンさんの専属じゃないからー、そこのところよろしくー」

「なるほど。ただ先手を打たれたわけじゃない、と。しかし、そういうやり取りはブリューナク家の方が上手ですよ。注意してください。いえ、できるなら近づかない方がいいでしょうね」


 でも、僕はあのふたりの事を知らないからなー。

 じゃあ、今はシアンの事を考えよう。


 シアンはやさしい。

 シアンは料理がじょうず。

 シアンは魔導がすごい。

 シアンはいい匂いがする。

 シアンは笑顔がいい。

 シアンはかわいい。


「アニキ! アニキ、聞いてほしいっす!」

「あ、あの、アニキ様。すみません。アニキ様? 聞こえていますか?」

「シアンは……うん? あ、ごめん。シアンの事を考えてた」


 シアンの事を考えていたらトントロとピートロが僕のコートをぶら下がるみたいにして引っ張っていた。

 話しかけてくれていたみたいだけど、ぜんぜん聞こえていなかった。

 わるい事しちゃった。


 そこまで考えたところで気づいた。

 なんだかみんなが僕を見ている。

 ポカーンとしている感じだけど、シアンだけは顔をまっかにしていて、ちょっと泣きそうな感じになっている。


「あれ? シアン、泣きそう? どうしたの? やな事があった?」

「や、やややややなことじゃななな、にゃい、でひゅけど……」


 なんだかよくわからない事を話すシアン。

 どうしたんだろう?

 たまにシアンってこんな感じになるよなあ。

 シアンは僕を何度もチラチラと見ては、もじもじとして、それでも僕の手をにぎったまま口をパクパクさせる。


 けど、これじゃあシアンが何を言いたいのかわからないよ。


「あの、アニキ様。さっきはどうしてシアンのアネゴ様を褒め始めたのでしょうか?」


 どうしてピートロが僕の考えていた事を知っているんだろう?

 ……って、あれ?

 僕、考えてた事をしゃべってた?


「うっす! シアンのアネゴはすごいっす!」


 トントロも聞いていたっぽい。

 やっぱり僕はしゃべっていたみたいだ。


「いきなり惚気られてー、お姉さんはもうげんなりよー」

『どうせ全然別の事を考えていたのでしょうけど、あんまりその子をポンコツにしないでもらえないかしら?』

「ダメだった?」


 よくわからないけど、シアンの事をほめちゃダメなのかな?

 それはなんだか悲しい。

 僕はほめられたらうれしいし、もっとがんばろうと思える。

 だから、シアンにも、みんなにも同じ気持ちになってほしいけど。


 ノクトとマリアが今まで一番大きなため息をついた。


「そういうのは二人っきりの時にー、耳元で囁いてあげればいいんじゃないかなー。あー、私もそういう人ほしいなー!」

『ただ、ダンジョンの中ではやめてよね。それから夜も。一応、あたしは保護者だから』


 ノクトが言っている事は半分もわからないけど、マリアが言う事はよくわかった。

 とてもわかりやすくていいと思います。


 だから、僕はシアンの手を引いてみんなからちょっと離れてから、顔を耳元に近づけて、そうっとささやいてみる。


「シアン、かわいいよ」

「……はひゅぅ」


 あれ?

 シアンが寝ちゃった。

 ……ダンジョンでつかれてたんだね。

 えーと、シアンの家族の人が出てきて、いろいろとお話していたけど、それはまた後ででいいかな?


 僕の方を見ているみんなにお願いする。


「ねえ。お家、帰ろう?」

『……はあぁ。もうそれでいいわよ。マリアも、しばらく身を隠してしまいなさいな。あの連中とは関わらない。それが一番よ』

「はーい。あー、いっそのことー、恋人探しの旅に出ちゃおうっかなー!」


 ノクトとマリアもおつかれみたいだけど、帰っていいみたいだ。

 僕はまっかっかになったシアンを抱っこして、お家に向かって歩き始めた。

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