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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
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133 ドラゴンさん、みんなの戦いを見る

 133


 うーん

 数字?

 五が百で、十が百で……よくわからないけど、とにかくいっぱいモンスターを食べたって事だよね?

 じゃあ、この濫喰い獣帝王種キマイラカイザーっていうモンスターは腹ペコさんなんだ。


「お腹へってたんだね」

『ええ。絶賛、あたしたちを餌と思っているでしょうね』

「GUAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONっ!!」


 濫喰い獣帝王種キマイラカイザーがほえた。

 おっきな声だ。

 あと頭がふたつだから、声が重なって変な感じ。

 近くにいるから口の中がよく見えた。

 牙に、舌に、のどの奥……くさい。

 お口、くちゃい。


「てい」


 ドラゴンシャフトでベシンとする。

 ノクトと約束しているから、ムリじゃないぐらいの力で。


「GYAUNっ!?」


 濫喰い獣帝王種キマイラカイザーがふっとんだ。

 狼の頭をべっこりへこませて、雪の中をゴロンゴロンところがっていく。

 ふう。

 くさくなくなった。


「歯、みがかないのかな?」

「野生生物に歯磨きする習慣はありませんから……」

『元野生のドラゴンが言う台詞じゃないでしょうに』


 そっか。

 僕もドラゴンの時はやってなかった。

 もしかして、ドラゴンの時の僕もあんなひどい匂いがしたのかなあ。

 だとしたら、『あの人』はくさいのをガマンしてくれていたのかも?

 いや、でもあの頃の僕はご飯食べてなかったし……きっとだいじょうぶ。


「GURUGURUGURUGURUGURU!!」


 あ、起きた。

 雪まみれになった濫喰い獣帝王種キマイラカイザーが頭を低くして、翼を広げて、うなり声をあげている。

 すっかり戦う感じだ。


 うん。

 でも、たしかに前に戦ったやつより強いや。

 前の奴だったら今ので頭、なくなっていただろうし。


「アニキ、オイラにおまかせっす!」


 トントロが僕の前にとびこんできた。

 ひづめを打ち鳴らして、濫喰い獣帝王種キマイラカイザーの注意を引いている。


岩撃衝弾ストーンバレットです!」


 おくれてピートロもやってきた。

 銀色の鳥に使うつもりだった魔導を放って、石の弾を濫喰い獣帝王種キマイラカイザーの鼻先にぶつける。

 あんまりきいてないみたいだ。

 でも、うるさそうに首を振っている。


 そうしている間にシアンも前に出ていく。

 トントロの後ろ。ピートロの前。

 そんな位置で杖を持ち上げて、ビシッと濫喰い獣帝王種キマイラカイザーに先っちょを向けた。


「トントロ、ピートロ。わたしたちだけでやりますよ」

「うっす!」

「はい!」


 シアンたちがやる気だ。

 シアンとトントロとピートロ。

 濫喰い獣帝王種キマイラカイザーと戦って勝てるかな?


『レオン、あなたはいざという時のために準備だけしておきなさい』


 そうだね。

 なんとかなりそうな気もするけど、ちょっとあぶない気もする。

 ダメだって思ったら矢でズパーンってしよう。


 僕はドラゴンシャフトを弓に変えて、魔力の矢を作った。

 矢はシアンと約束した通り、水っぽい感じにしておく。

 お水。

 とっても強いお水。

 そんな感じのを集めて、矢の形にするんだ。


 よし。これでいつでも撃てる。


『あなた、それ』

「強いお水の矢だよ!」

『強い水って……』


 たくさん魔力を入れたから強いと思う。


『そんなのが体に入ったら大変な事になるわよ。何度も言うけど、絶対に誤射しない事。間違っても味方に当てないのよ』


 うん。

 ガルズのおじさんに教えてもらったからちゃんと当てられる。

 よけられてもへいきだ。

 当たるまで追いかければいいからね。


 そんなふうに僕とノクトが話している間に戦いが始まった。


「GAAAAAAAAAAAAAっ!」

「ふんぬっすー!」


 トントロと濫喰い獣帝王種キマイラカイザーがぶつかり合った。


 馬の後ろ足で起き上がって、トカゲの爪を振るってくる濫喰い獣帝王種キマイラカイザー

 右と左。

 いっしょにやってくるそれをトントロはかわさないし、止めようともなかった。

 体で受け止めて、ガシィィィンってかたい音がひびく。

 トカゲの爪が鎧に当たって、止まったんだ。

 トントロはケガをしてないし、しっかりと濫喰い獣帝王種キマイラカイザーを止めてみせた。


「GAU!」

「なんのっす!」


 すぐに濫喰い獣帝王種キマイラカイザーがかみついてきた。

 狼と獅子の頭が同時に。

 けど、それもトントロは止める。

 せまってくる鼻先に短い前足をぶつけて、それ以上進ませない。


 体の小さなトントロだけど、生命力じゃ負けてない。

 ちょっとずつ押されていても、それだけだ。

 シアンたちに近づかせていない。


「トントロ、そのままで! ピートロ、狙いは後ろ足ですよ!」

「はい! はずしません!」


 時間ができれば、シアンとピートロは魔導を放てる。

 シアンとピートロの魔導が発動した。


ポイント多数展開マルチ/30・土属性ブラウン――岩撃衝弾ストーンバレットです!」

立体キューブ強化展開ブースト*5・水属性ブルー――水渦乱流アクアヴォーテックス!」


 この魔導は前にも使っている。

 上層の階層主の水晶岩兵クリスタルゴーレムを倒す時だ。

 ピートロの作ったたくさんの石と、シアンの作った水のうずがいっしょになって、敵を包み込むんだよね。


 濫喰い獣帝王種キマイラカイザーの後ろ側を包んだ。

 大きな体の全部は入ってないけど、後ろ足と尻尾はすっかり水の中だ。


 グルグルと回る石と水。

 それが濫喰い獣帝王種キマイラカイザーに当たって、当たって、当たって、小さなケガをいっぱい増やしていく。


「GYAAANっ!」


 ちゃんと痛いみたいだ。

 ほえた濫喰い獣帝王種キマイラカイザーは体を何度も揺らして水と石をはずそうとしている。

 けど、魔導の水と石は離れない。

 ううん。

 離れようとするけど、シアンとピートロがまたくっつけているんだ。


 どんどんケガが増えていく。

 水が濫喰い獣帝王種キマイラカイザーの血でちょっとずつ赤くよごれていった。


『今のところ無理なく戦えているわね』


 どこか心配そうにしているノクトが息をついている。

 うん。

 トントロが止めて、シアンとピートロが魔導で倒す。

 今までもそんな感じだった。

 今も同じ感じで戦えている。


 でも、濫喰い獣帝王種キマイラカイザーはまだまだ元気だ。


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAっ!!!」

「UOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONっ!!!」


 ふたつの頭がほえる。

 今までよりもずっと強く。

 そして、魔力をのせていた。


 声がぶわっと広がって、空気を、雪を、体を揺らした。


「頭がガンガンするっす……」


 トントロが押され始めた。

 一番近くにいたトントロは声をたくさん聞いたからかな。


 シアンとピートロは……ちょっと苦しそう。

 魔導がうまく使えないみたいだ。

 シアンの水はまだそのままだけど、ピートロの石はどこかに行ってしまった。


 そのせいで濫喰い獣帝王種キマイラカイザーは動けるようになってしまった。

 弱っていたトントロを前足で雪の下に押し込むと、鳥とコウモリの翼を広げて、水の魔導を吹き飛ばしてしまう。


「GURUGURUGURUGURU……」


 自由になった濫喰い獣帝王種キマイラカイザーはうれしそうに、そして、楽しそうに声を上げる。

 シアンたちはまだ苦しそうで、うまく動けないみたいだ。

 これ、あぶないよね?


「撃つ?」

『まだ、まだ待ちなさい。あの子たちもそう簡単に折れたりしないわ』


 ちょっと心配だけど、ノクトが言う。

 うん。

 そうかも。

 シアンたちは苦しそうだけど、あきらめてない。


 なら、僕もガマンして見ていよう。

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