133 ドラゴンさん、みんなの戦いを見る
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うーん
数字?
五が百で、十が百で……よくわからないけど、とにかくいっぱいモンスターを食べたって事だよね?
じゃあ、この濫喰い獣帝王種っていうモンスターは腹ペコさんなんだ。
「お腹へってたんだね」
『ええ。絶賛、あたしたちを餌と思っているでしょうね』
「GUAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONっ!!」
濫喰い獣帝王種がほえた。
おっきな声だ。
あと頭がふたつだから、声が重なって変な感じ。
近くにいるから口の中がよく見えた。
牙に、舌に、のどの奥……くさい。
お口、くちゃい。
「てい」
ドラゴンシャフトでベシンとする。
ノクトと約束しているから、ムリじゃないぐらいの力で。
「GYAUNっ!?」
濫喰い獣帝王種がふっとんだ。
狼の頭をべっこりへこませて、雪の中をゴロンゴロンところがっていく。
ふう。
くさくなくなった。
「歯、みがかないのかな?」
「野生生物に歯磨きする習慣はありませんから……」
『元野生のドラゴンが言う台詞じゃないでしょうに』
そっか。
僕もドラゴンの時はやってなかった。
もしかして、ドラゴンの時の僕もあんなひどい匂いがしたのかなあ。
だとしたら、『あの人』はくさいのをガマンしてくれていたのかも?
いや、でもあの頃の僕はご飯食べてなかったし……きっとだいじょうぶ。
「GURUGURUGURUGURUGURU!!」
あ、起きた。
雪まみれになった濫喰い獣帝王種が頭を低くして、翼を広げて、うなり声をあげている。
すっかり戦う感じだ。
うん。
でも、たしかに前に戦ったやつより強いや。
前の奴だったら今ので頭、なくなっていただろうし。
「アニキ、オイラにおまかせっす!」
トントロが僕の前にとびこんできた。
ひづめを打ち鳴らして、濫喰い獣帝王種の注意を引いている。
「岩撃衝弾です!」
おくれてピートロもやってきた。
銀色の鳥に使うつもりだった魔導を放って、石の弾を濫喰い獣帝王種の鼻先にぶつける。
あんまりきいてないみたいだ。
でも、うるさそうに首を振っている。
そうしている間にシアンも前に出ていく。
トントロの後ろ。ピートロの前。
そんな位置で杖を持ち上げて、ビシッと濫喰い獣帝王種に先っちょを向けた。
「トントロ、ピートロ。わたしたちだけでやりますよ」
「うっす!」
「はい!」
シアンたちがやる気だ。
シアンとトントロとピートロ。
濫喰い獣帝王種と戦って勝てるかな?
『レオン、あなたはいざという時のために準備だけしておきなさい』
そうだね。
なんとかなりそうな気もするけど、ちょっとあぶない気もする。
ダメだって思ったら矢でズパーンってしよう。
僕はドラゴンシャフトを弓に変えて、魔力の矢を作った。
矢はシアンと約束した通り、水っぽい感じにしておく。
お水。
とっても強いお水。
そんな感じのを集めて、矢の形にするんだ。
よし。これでいつでも撃てる。
『あなた、それ』
「強いお水の矢だよ!」
『強い水って……』
たくさん魔力を入れたから強いと思う。
『そんなのが体に入ったら大変な事になるわよ。何度も言うけど、絶対に誤射しない事。間違っても味方に当てないのよ』
うん。
ガルズのおじさんに教えてもらったからちゃんと当てられる。
よけられてもへいきだ。
当たるまで追いかければいいからね。
そんなふうに僕とノクトが話している間に戦いが始まった。
「GAAAAAAAAAAAAAっ!」
「ふんぬっすー!」
トントロと濫喰い獣帝王種がぶつかり合った。
馬の後ろ足で起き上がって、トカゲの爪を振るってくる濫喰い獣帝王種。
右と左。
いっしょにやってくるそれをトントロはかわさないし、止めようともなかった。
体で受け止めて、ガシィィィンってかたい音がひびく。
トカゲの爪が鎧に当たって、止まったんだ。
トントロはケガをしてないし、しっかりと濫喰い獣帝王種を止めてみせた。
「GAU!」
「なんのっす!」
すぐに濫喰い獣帝王種がかみついてきた。
狼と獅子の頭が同時に。
けど、それもトントロは止める。
せまってくる鼻先に短い前足をぶつけて、それ以上進ませない。
体の小さなトントロだけど、生命力じゃ負けてない。
ちょっとずつ押されていても、それだけだ。
シアンたちに近づかせていない。
「トントロ、そのままで! ピートロ、狙いは後ろ足ですよ!」
「はい! はずしません!」
時間ができれば、シアンとピートロは魔導を放てる。
シアンとピートロの魔導が発動した。
「点・多数展開/30・土属性――岩撃衝弾です!」
「立体・強化展開*5・水属性――水渦乱流!」
この魔導は前にも使っている。
上層の階層主の水晶岩兵を倒す時だ。
ピートロの作ったたくさんの石と、シアンの作った水のうずがいっしょになって、敵を包み込むんだよね。
濫喰い獣帝王種の後ろ側を包んだ。
大きな体の全部は入ってないけど、後ろ足と尻尾はすっかり水の中だ。
グルグルと回る石と水。
それが濫喰い獣帝王種に当たって、当たって、当たって、小さなケガをいっぱい増やしていく。
「GYAAANっ!」
ちゃんと痛いみたいだ。
ほえた濫喰い獣帝王種は体を何度も揺らして水と石をはずそうとしている。
けど、魔導の水と石は離れない。
ううん。
離れようとするけど、シアンとピートロがまたくっつけているんだ。
どんどんケガが増えていく。
水が濫喰い獣帝王種の血でちょっとずつ赤くよごれていった。
『今のところ無理なく戦えているわね』
どこか心配そうにしているノクトが息をついている。
うん。
トントロが止めて、シアンとピートロが魔導で倒す。
今までもそんな感じだった。
今も同じ感じで戦えている。
でも、濫喰い獣帝王種はまだまだ元気だ。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAっ!!!」
「UOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONっ!!!」
ふたつの頭がほえる。
今までよりもずっと強く。
そして、魔力をのせていた。
声がぶわっと広がって、空気を、雪を、体を揺らした。
「頭がガンガンするっす……」
トントロが押され始めた。
一番近くにいたトントロは声をたくさん聞いたからかな。
シアンとピートロは……ちょっと苦しそう。
魔導がうまく使えないみたいだ。
シアンの水はまだそのままだけど、ピートロの石はどこかに行ってしまった。
そのせいで濫喰い獣帝王種は動けるようになってしまった。
弱っていたトントロを前足で雪の下に押し込むと、鳥とコウモリの翼を広げて、水の魔導を吹き飛ばしてしまう。
「GURUGURUGURUGURU……」
自由になった濫喰い獣帝王種はうれしそうに、そして、楽しそうに声を上げる。
シアンたちはまだ苦しそうで、うまく動けないみたいだ。
これ、あぶないよね?
「撃つ?」
『まだ、まだ待ちなさい。あの子たちもそう簡単に折れたりしないわ』
ちょっと心配だけど、ノクトが言う。
うん。
そうかも。
シアンたちは苦しそうだけど、あきらめてない。
なら、僕もガマンして見ていよう。