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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
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130 ドラゴンさん、中層で野営する

 130


 白の中に浮かんだ青。


 そんな感じ。


 まっしろな雪の中に、青白い水がずっと続いている。

 鍾乳石の光を受けて、星空みたいに光って、キラキラがいっぱい。

 ずっとむこうまで青は広がって、いつからか白い雪にもどっていく。

 ここの水は今までの部屋とちがうなあ。

 川みたいに動いていないし、滝みたいに大きな音がしない。


 しずかで、きれいで、冷たい――こおった水。


「おー。何度見てもすげえなー」


 いちばん後にやってきたハンスが言う。

 ハンスはここのことを知っていたみたいだ。


「雪原の湖といやあ、知る人ぞ知る名所だぞー」

「確かに絶景ですね。ここがダンジョンの中だというのを忘れてしまいそうです」


 はあって大きく息をはくシアン。

 まっしろな息が雪の中にとけていく。


「おおーっ! おっきな池っすー!」

「お兄ちゃん、池じゃないよ! 湖だよ!」


 あ、池じゃないんだ。

 湖。

 前になんかで聞いたような気がするけど、大きな大きな池の事でいいのかな?


「また一番のりっすー!」


 トントロが湖に向かって、丘を走って下りる。

 で、ころんだ。


「「『あ』」」


 ゴロゴロゴロゴロ。

 ボールみたいにころがっていくトントロ。

 だんだんと雪がくっついていって、その雪がふえていって、どんどんまんまるなトントロが丸くなって……大きな雪玉ができあがった。

 湖の近くで止まったけど、玉から出たトントロの頭はグラングランと揺れている。


「お兄ちゃん!?」


 ピートロがあわてて追いかけていく。

 トントロが通ってできた雪のへった場所をゆっくりと下りている。


「……トントロ玉」

「ぶふっ!」


 なんとなく思った事を言ったら、シアンがふきだした。


「レオン、変な事を言わないで下さい。やたらとおいしそうな……」

「? ごめん?」

『バカ言ってないで行くわよ。折角だしあの近くで野営すればいいでしょ』


 猫耳をピコピコさせていたノクトが言う。

 うん。

 近くにモンスターはいない。

 湖の方もだ。


「モンスターいないのかな? お魚とか」

「俺は見た事ないなー」


 ざんねん。

 お魚がいるならつかまえたのに。


「レオン、食材ならノクトが持っていますから安心してください。わたしがおいしい物をご馳走してあげましょう」

「うん。楽しみ」

「ふふ。ここは寒いですからねえ。あったかスープにピリ辛の味付けにしたお肉も出しましょうか……。ノクト、スパイスは余裕がありましたよね?」

『あたしが言うのもなんだけど、ダンジョンで贅沢しすぎじゃないかしら?』

「うまそうな話してるなー。なんか、金払ってでも食わせてもらいたくなってきた」


 シアンの料理はおいしいからね。

 女将さんのもおいしかったけど、僕はシアンのが好きだ。


 そんな話をしている間にトントロとピートロにおいついた。

 雪玉からピートロにひっぱりだされたトントロはブルブルと体をふって、まだのこっていた雪を落としている。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「うぅ、ひどい目にあったっす……」

「もう! 走ったりするからだよ?」


 ピートロはしかっているけど、トントロの頭にのっかったままの雪を落としてあげて、二匹は仲良しだ。


「では、野営の準備といきましょうか。ノクト、お願いします」

『はいはい』


 ノクトが影からいろいろと物を出していく。

 料理の道具とか、お皿とか、テントとかだ。

 けど、いつもより多いし、知らないのがいっぱいだし、テントもいつものとちがっているような?


 首をかしげているとノクトが教えてくれた。

 ちょっと得意そうにしっぽがゆれている。

 シアンもニコニコだ。


『ここで野営する可能性も考えていたから準備してあるの。雪でつぶれないためとか、凍らないためとか、そんな対策がしてある特注品のテントよ。魔導具のオーブンも用意してあるし、防寒用の魔導具まであるわ』

「ふふ。資金は潤沢でしたからね。トールマンに感謝です」

『ええ。そうね。こんな贅沢、いいのかしら。ねえ、シアン。生活費にしたら……』

「ノクト、いけません! 熟考に熟考を重ねて決断したんです! 今はただ魔導具の恩恵に感謝しましょう!」


 なんだか、いい事なのか悪い事なのかわからなくなってきた。

 シアンもノクトもうれしいのかな? それとも苦しいのかな?

 そんな中、ハンスが雪の上に置かれた魔導具を持ち上げた。


「おー。これ、Aランク冒険者パーティの奴らが持ってたような?」

「ふ、ふふ。そうでしょう。いずれAランクになるのですから、それなりの装備を揃えました。ええ。前もって準備をした。それだけです」

『そうよね。無駄じゃない。これは無駄じゃないわ』


 だんだんシアンとノクトがもどってきてくれた。

 よかった。


「で、では、レオンとトントロはテントの用意を。ノクト、指示をお願いします。ピートロは料理を手伝ってもらえますか? ハンスさんは……どうします?」

「あー、その辺でも散歩してるわ。気にしないでやってくれー」


 ハンスは手を振りながら行ってしまった。

 湖のまわりを歩くみたい。

 ご飯、いいのかな?

 食べなくてもいいのは知っているけど、悲しい気持ちになっちゃうよ?


『本人がいいと言っているのだから放っておきなさいな』


 ノクトがズボンをかんで引っ張ってくる。

 シアンとピートロはもう料理の準備を始めていた。

 大きな魔導具に魔力を流したり、食べ物を切ったりしている。

 僕もテント、がんばらないと。


『ほら、作業を始めるわよ。まずは地面を均すべきでしょうけど……雪が深いわね。どかすのは手間かしら』


 ならす……。


「ならすってなんだろう?」

「オイラのお腹、なったっすか? おなか、へったっす」

「僕もへった。お肉あるかなあ。じゅわぁっておしるが出てくるの食べたい」

「おいしそうっす!」


 お肉の事を考えていたら、トントロのお腹からぐーって音がした。

 しずかだからとてもよく聞こえる。


「ノクト、なったよ!」

「なったっす!」

『おバカ……本当におバカ……。いいから、あたしの言う通りになさい。まずは雪を踏み固めるの。ほら、あたしの後をついてきなさい』


 お腹がなるのとは別だったみたいだ。

 ノクトはがっくりとしてため息をついて、それから歩き出した。

 僕とトントロはあわててついていく。


『しっかりと踏むのよ。そうしないとテントの支えが抜けちゃうから』

「しっかり、ふむ」

「こんなかんじっすか!?」


 トントロがピョンピョンと跳ぶと、雪がつぶれてへっこんだ。

 僕も同じようにしてみるけど、なかなか進まない。

 これだと何回も行ったり来たりしないとダメな気がする。


「……ここ、つぶせばいいの?」

『そうだけど……何をするつもりかしら?』


 僕はドラゴンシャフトを弓にして、魔力の矢を作った。

 黒い矢を一本だけ。


「トントロ、ノクトといっしょに離れてて」

「うっす! ノクトのアネゴ、行くっす!」


 トントロがノクトを持ち上げて走っていく。

 二匹が離れるの待ってから、矢を撃つ。


「てい」


 足元に。


 黒い矢が雪に刺さると、黒いのがブワッと広がった。

 もうちょっとで僕の足まで飲み込まれるところだったけど、その前にジャンプして逃げたからへいきだ。

 黒いのは雪と地面を飲み込んで、すぐに消えていった。


「よし。うまくできた」


 後には地面が見えた。

 雪はきれいになくなっている


『まったく、また力の無駄遣いをして……』

「アニキはやっぱりすごいっす! ぺったんこになったっす! まったいらっす! なにもないっす!」


 トントロがノクトを抱えたまま戻ってくる。

 ピョンピョンと跳びはねて地面をたしかめていた。

 けど、別の所で料理を始めているシアンが胸を押さえているのはどうしたんだろう?

 心配だけどピートロがなぐさめているかへいきかな?


『まあいいわ。テントを完成させてしまいましょう。レオンは組み立てを。トントロは杭打ちの準備をなさい』

「うん」「うっす!」




 そうして、僕たちは新しいテントをたてた。

 前にやったのとはちょっとちがうけど、ノクトの言う通りにしたらちゃんとできた。

 前のより大きいし、とんがっていてかっこいいし、入るところが閉められたりして、入り口の上には屋根っぽいのもあって、なんとなく強そうな感じだ。


 トントロといっしょに入ってみるけど、外よりあったかい。

 まんなかに置いたあったかくなる魔導具のおかげだ。

 下は硬い地面のはずなんだけど、やわらかい布がしいてあるから寝ころんでもいい感じだった。

 ゴロンと転がったトントロはすぐにでも眠ってしまいそうに眼を細めている。


「ぬくいっすー」

「うん。いい感じだ」


 トントロと並んで寝ていると、だんだん眠くなってきた。

 このまま目をつぶったらとても気持ちよさそうだ。

 けど、ノクトが肉球でほっぺをぐいっと押してくる。


『寝る前に食事よ。あちらも準備できたみたいだし、起きなさい』

「ご飯っす!」


 トントロがテントから飛び出していった。

 僕もついていくと、とてもいい匂いがしている。


 見るとシアンとピートロが、屋根の下に置いたテーブルに料理を並べていた。

 あたたかそうな湯気が立っていて、僕のお腹までなってしまう。

 僕がいそいでテーブルにつくと、シアンがスープの入ったお椀を置いてくれた。


 トロトロしたお汁の中にお野菜とお肉がいっぱい。

 お皿には焼かれたお肉が小さく切られてのっている。

 ピリピリするつぶつぶと、お塩がかけられていて、他にも牛の匂いがうっすらとしているのは……バターってやつだ。

 まんなかのカゴには白いパンがたくさん。


「ふふ。レオンのお腹はわたしの料理を求めているようですね。さあ、たーんと召し上がりなさい!」

「うん。いただきます!」


 僕たちは中層で初めての野営をするのだった。

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