127 ドラゴンさん、二度目の雪の部屋に向かう
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「トントロ、もう少しだけ引きつけてください! ピートロはわたしに合わせて!」
「うっす! やってやるっす! オイラがあいてっすよー!」
「はい、アネゴ様! わたくしはいつでも大丈夫です!」
ここは滝の部屋。
僕たちはいつもみたいに攻略している。
崖の上や下からやってくるモンスターをトントロが止めて、その間にシアンとピートロが用意した魔導で倒していた。
ダンジョンに入るのは四日ぶりだけど、前よりもいい感じに戦えている。
トントロは前よりも鎧をつけてるからじょうぶだし、シアンとピートロも魔導が強くなっていた。
前に来た時はたまに僕が手伝ったりしたけど、今日はぜんぜんだ。
後ろの洞窟で待っているだけ。
ちょっとさびしいぐらい。
『どうやらダンジョンは回復したようね』
「なー。おっさんたち……ギルドナイトの隊長たちが何度も見回ったんだってなー」
僕の頭の上にいるノクトがつぶやいて、一番後ろにいるハンスが言った。
ダンジョン、前に『峻厳』さんと戦ってからは入れなくなっていたんだよね。
ギルドの人がダメだって。
ギルドナイトの人がへいきだって言うまでは入れないって。
アルトの仲間が死んじゃったのもあるけど、だいたいは僕がドラゴンブレスで中層を壊しちゃったせいだ。
大きな穴ができちゃったし、近くの扉はこわれちゃったしね。
ダンジョンは壊れても直るみたいだけど、あれだけ壊れちゃうとかんたんじゃないみたい。
三日目でやっと直ったって、マリアが言ってた。
今はちゃんと元通り。
よかった。
前にシアンとノクトからダンジョンはなくしちゃダメって言われてたもんなあ。
ドラゴンブレスはダメ。
ドラゴンっぽくなるのもダメだけど、あれは本当にダメ。
「それにしても、やるなー、お前ら。危なくなったら手伝うって言ったけど、必要なさそうじゃん」
僕が反省していると、ハンスがみんなを見て何度もうなずいている。
おそってきたモンスターを倒すのが上手だってほめてくれたみたいだ。
ちょうどシアンとピートロの魔導でモンスターを倒したみたい。
しっかりと見てみると、細い道のあちこちに動かなくなったモンスターがいっぱいだ。
「だよね」
「これならもうAランクでいいんじゃね?」
『傭兵なら戦うだけでいいでしょうけど、冒険者は総合力でしょう。残念ながらあたしたちは偏った能力なのよ』
ノクトに言われて、ハンスはそっかーとうなずいた。
「けど、俺は戦うしかできなくてもAランクだぞー」
『マイナスを補って余りあるほど戦闘能力が高いという事でしょうね』
「レオンならなれんじゃね?」
「え、やだよ。僕、シアンたちといっしょがいい」
おそろいがいい。
じゃなかったら、Aランクっていうのになれてもうれしくない。
「ふふ、レオンはわたしがいないと淋しくなってしまいますからね! 仕方ありません! レオンのためにもAランクの資格を手に入れてあげましょう! ま、すぐですけどね! 天才のわたしが本気を出せば、すぐにでも下層に行けますよ!」
シアンがこっちにやってきた。
前ならここまで歩いてきただけでヘロヘロになっていたけど、今は元気そう。
たくさんモンスターを倒して強くなったし、たまにピートロの霊薬を飲んでいるからかな。
つかれちゃったシアンをだっこしたり、おんぶしたりできなくなっちゃったのがちょっとさみしいのはヒミツだ。
「あ。ノクト、モンスターの回収をお願いします」
『はいはい。猫づかいの荒い事ね』
ノクトが影を広げていく。
細い道の上だけじゃなくて、崖にひっかかっているモンスターまでしまっていた。
さすがに滝に落ちちゃったのはダメみたいだね。
「そういえば、あの下に扉があったっけ」
「下って……滝つぼにですか!?」
「うん。この前、『峻厳』さんに落とされたらあった」
そしたら、火山の部屋に出たんだっけ。
あそこは一番ボロボロになっちゃったけど、元に戻っているのかなあ。
「あー、あそこな。火山の部屋に行けるだろ? 山の部屋のルートだと遠いけどなー。こっちから行くと近いんだ」
ハンスは知っているみたい。
『さすがはAランク、といったところかしら。中層には詳しいみたいね』
モンスターをしまいながらチラリとハンスを見るノクト。
「まあなー。ずっと前、夏で暑かったから飛び込んでみたんだ。そしたらいきなり扉でさー。あん時はびびったわー」
「うん。暑い時の水浴びはいいよね」
「だよなー。川の部屋でもいいけどよー。あっちはモンスターが多くて落ち着かないんだ。その点、滝ならモンスターいないだろ?」
「ハンスは頭がいいね!」
「だろ? お前も暑くなったら使ってみ? 端っこの方なら扉に流されないから」
僕とハンスがお話している間、シアンとノクトがポカンとしている。
「これが最強の冒険者……」
『やっぱり、レオンと同類……警戒するのが馬鹿らしくなってくるわ』
ため息をついて、それからノクトは影を戻した。
どうやらモンスターをしまい終わったみたいだ。
『さっさと雪の部屋に行くわよ。ここは滝がうるさいわ』
シアンたちが何度もうなずく。
ハンスもだ。
僕やノクトは耳がいいから話し声は聞こえるけど、みんなは聞こえないんだよね。
洞窟じゃないとお話しできないのはさびしいから、僕も早く次の部屋に行きたい。
雪の部屋に行ける扉にむかって、洞窟を歩きながらお話する。
たまにコウモリが襲ってくる。
けど、来るのはノクトが教えてくれるから、そのたびにシアンとピートロが魔導ですぐに倒してくれた。
だから、僕は次の部屋の話をする。
「火山の部屋、行く?」
「火山っすか! 見てみたいっす!」
トントロは行きたいみたいだ。
けど、他のみんなは首を振る。
「いきません。防寒装備で火山とか死んじゃいますからね? わたし、とけちゃいますよ」
「わたくしも……焼き豚になりたくないです」
『毛皮の生き物を火山に連れ込もうとしないでもらえないかしら?』
ダメみたいだ。
トントロはざんねんそうだけど、焼き豚になっちゃったらいけない。
「じゃあ、また今度ね」
「うっす! オイラ、それまでに暑さに負けないオスになるっす!」
『そこは耐熱の魔導装備を作りなさいよ』
そんな話をしている間に洞窟の先が明るくなってきた。
滝の音も大きくなってくる。
洞窟を出たら扉はすぐそこだ。
僕はシアンの手をつないで、トントロとピートロを持ち上げて、扉に入った。
ハンスもすぐ後ろをついていきている。
「……なんか急に黙っちまった」
ハンスがつぶやくけど、だれも応えない。
雪の部屋。
この前、『峻厳』さんに会った部屋。
ドラゴンに戻っちゃった部屋。
そして、トントロが死んじゃった部屋。
思い出すと胸が痛い。
きっと、みんなもだ。
けど、僕の腕の中のシアンがつぶやいた。
僕の胸におでこを当てて、グッと手をにぎりしめる。
「リベンジです。もうわたしは、わたしたちは負けません」
胸の痛いに負けない強さ。
シアンの触れた手から伝わってくるみたいだ。
それはトントロとピートロもいっしょなんだと思う。
「うっす! オイラ、もう死なないっすよ!」
「はい! わたくしも負けません! あの怖い人が出てきても絶対に……絶対に負けないんだから」
二匹とも元気だ。
ちょっとピートロはこわいぐらいだけど。
『そうね。負けたままにしないと決めたのでしょ? なら、うつむいてないで前を見てなさいな』
やさしそうな声でノクトが言って、僕たちはうなずいた。
よくわかってないハンスはふしぎそうにしているけど、何も聞かないでついてきている。
「じゃあ、行くね」
そして、僕たちは二回目の雪の部屋に入るのだった。