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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第一章 目覚めるドラゴン
13/179

12 ドラゴンさん、思い出す

 12


 シアンがノクトを絶賛するのを聞いている間に、辺りのモンスターは一匹も残らずノクトにしまわれてしまっていた。


『いつまで話しているのよ。いくわよ』


 ぷいっと僕たちに背を向けるノクトを追いかける。


「この先にはモンスターが残ってませんね」

『大方、濫喰い獣王種キマイラロードが来る途中に食べてしまったんでしょうね』

「ああ。じゃあ、広場に最初に来た双角狼ホーンウルフは生き残りが、濫喰い獣王種キマイラロードから逃げていた、と」

『そんなところでしょうね』


 二人が色々と話しているのをぼんやり聞きながらついていく。

 しかし、行くと言ってもどこに行くんだろう?

 そういえば、さっきも道連れ兎ジョイントラビットの話になってしまって、シアンたちの話が途中だった。


「ねえ、シアンたちは調査しにここに来たんだよね。それで一緒のパーティ? はどうしたの? あと、出口がどこか知っているの?」

「うっ!」


 そのまま聞いたらシアンが胸を押さえた。

 何か悪い事を聞いてしまっただろうか。


「ふふ。ばれてしまいましたか、話が途中だった事が。レオンはなかなかやりますね」

「え? ありがとう」


 ほめられちゃった。

『あの人』以外から褒められる事なんてなかったから、嬉しくなってしまう。


「気づかれてしまったなら仕方ありません。続きを話してあげましょう」

『勿体つけてないで言っちゃいなさい。モンスターの群れが押し寄せてきて、その囮にされて置いてけぼりにされたって』


 あ、シアンがうつむいちゃった。

 なんだか拗ねたみたいに唇をキュッと結んで、僕やノクトから目を逸らす。


「えっと、おとり?」

『ええ。囮よ。今思えばあの魔物も道連れ兎ジョイントラビットに誘われてきた魔物だったのね。それに遭遇したのよ。いきなり』


 そっか。

 ここの調査に向かっていたんだから、そういうタイミングでぶつかってしまってもおかしくない。


「そうしたら、あの人たちはいきなりわたしを突き飛ばしたんですよ……。しかも、ご丁寧に通路にマヒ毒のガスとかばら撒くし……。もう、そこからは必死で、必死で、ノクトと頑張って……」


 シアンがブツブツと呟いている。

 どうやらその時の事を思い出してしまったらしい。


「戦っては、逃げて、戦っては、逃げて、少しでも時間ができたら休んで。そんなふうに二日もです。最後はとうとう、切り札も使わされちゃいましたし。帰り道も使えなくなっちゃいましたし」


 まだまだ恨み言が尽きない様子のシアンに、僕はとても声を掛けられそうにない。

 助けを求めるようにノクトを見ると、黒猫さんは溜め息を吐いてからタタンと身軽に床を蹴って、シアンの肩に飛び乗った。


『はいはい。そうね。大変だったわね。シアンは頑張ったわ』

「ノクトぉ……」

『でも、これに懲りたら誰でも彼でも信用しない事よ。ちゃんと人を見る目を身につけなさいな』

「はい……」


 慰められながらも、きっちりお説教を忘れないノクト。

 シアンは再び肩を落としてしまうけど、さっきのよりは状態は良くなったようだった。


「すみません。わたしとした事が少々取り乱してしまいましたね。もう大丈夫です!」

『まあ、そういうわけであたしたちもここに閉じ込められてしまっているのよ』

「閉じ込め……あ、さっき帰り道が使えないって言っていたけど、それってどういう事?」


 シアンとノクトはお互いに顔を見合わせて、それから一言だけ。


「使えないんですよ」

『使えないのよ』


 えっと、なんだか迫力がすごい。


「そうなの?」

「そうなんです。ちょっと事情がありまして、こればかりはレオンでも無理なんです」

『もしかしたら、あなたは帰り道が使えない理由も壊してしまえばいいとか思っているのかもしれないけど、絶対に無理なのよ。壊すのはね』


 なんだか先回りされて言われてしまった。

 うーん。でも、僕が壊せないって言われてもなあ。

 闘気法――竜撃の中でも一番強いのを使えばきっと壊せると……。


 そこまで考えたところでノクトの視線に気づいた。


『あなたさっきのあたしとの約束を忘れていないわよね?』


 約束?

 ……あ。


『とにかく、レオン。あなたはちゃんと人間らしい闘気法を使えるようになるまで、奥義は禁止よ。いいわね?』


 思い出して冷や汗が出る。

 そうだった。


『レオン?』

「……ごめんなさい。忘れてた」

『素直に認めて謝ったのだけは褒めてあげるわ。でも、約束はちゃんと覚えておきなさい』


 それ以上のお説教はなかった。

 気をつけないとな。

 ノクトは僕の心配をして叱ってくれているんだから、その厚意を無駄にするのはいけない事だ。

 僕の頭が悪いのはわかっているけど、それでも忘れちゃいけない事がある。


 反省している僕の背中をシアンが押してくれた。


「ほら、反省はそのぐらいにして行きましょう。一応、出口の当てはあるんです」

「出口? 出口に向かってるの?」

「そうですよ。いつまでもダンジョンにいても仕方ないじゃありませんか」

『ええ。街に戻ったら冒険者ギルドに直行よ。あいつらにはしっかり罪を償ってもらわないとね』


 なんとなく黒っぽい感じに熱いシアンとノクト。


 それにしても、外か……外……ああっ!


「そうだ! 外! 外だよ! 僕はダンジョンの外に出たかったんだ!」


 色々とあってすっかり忘れていた。

 僕がダンジョンを自爆で壊せなかったのなら、守るはずだった街がどうなったのか、約束を果たせたのかどうかを確かめたかったんだ。

 ここがダンジョンだとわかったんだから、ますます急がないといけなかったのに、色々とありすぎて、頭から抜けちゃっていた。


「早く外に行かないと!」

「えっと、急ぐのはいいですけど……」

「ここをまっすぐ行けばいいんだよね!?」

『え、ええ。そうよ。でも、急に……』


 シアンとノクトが何か言っているけど、今は急ぐ時だ。

 僕は深呼吸ひとつでマナを吸い込んで、生命力に変えて全身を強化する。


「レオン? きゃあっ!」

「しっかりつかまってて」


 シアンを両手に抱えて、胸の内に抱きしめる。


「ちょっと、レオン!? わわわわたしが魅力的なのは仕方ないですけど、いきなりお姫様抱っこはやりすぎじゃないですか!? その、今のレオンは上が裸ですし!? うわあ、男の人の胸板ってなんというか、すごい……」


 何かシアンが色々と言っているけど、嫌がっている感じはないから大丈夫。

 ノクトはそんなシアンの腕の中で丸くなって、諦めたような顔をしているけど、なんでだろうか?

 まあ、いっか。


「急ぐからね?」

『あたしが指示を出すから、聞き逃さないようにしなさいよ?』


 道案内があるならもう何も怖くない。


「うわあ、うわあ、なんていうか腕もわたしと全然違いますよ。なんですか、この逞しいの。太いし、硬いし、熱いし、うわあ、うわあ、あう、顔、近いです……ひぅっ!?」


 僕は一人と一匹を抱えて、洞窟を全力で走り始める。

 シアンを抱えているから、さっきみたいに飛び跳ねるのは危ないけど、気を付けて走るだけなら問題ない。


「え? いきなり何が? ええっ!? 速い! 速いです! レオン、待ってください! 怖いですから! わたし、こんなの知りませんから! ダメです! 落ちちゃいます! 死んじゃいます!」


 シアンが叫ぶけど、心配なんていらないよ。

 魔導使いのシアンには見慣れない光景みたいだ。

 僕は彼女が安心できるようにギュッとしっかり抱きしめて、その耳元にはっきり聞こえるように囁いた。


「大丈夫。僕がちゃんと守るから、ね?」

「あうぅ。なんだか、急に頼れる男の人みたいに言わないでください……」


 よくわからないけど、シアンも安心できたみたいだ。

 僕はすっかり静かになったシアンと、どこか遠くを見つめるみたいな目になったノクトを抱えて、洞窟を一気に駆け抜けていった。

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