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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第四章 ドラゴンをやめるドラゴン
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126 ドラゴンさん、最強さんとお話する

 126


 最強さん――ハンスは眠たそうだ。

 いっぱいあくびをして、だるそうにしている。


 でも、強い人だ。

 生命力がとても強い。

 たぶん、トントロよりも強いんじゃないかなぁ。

 魔力もあるけど……こっちはそこそこ?

 ピートロより少ないぐらい。


 武器は持ってないけど、おいてきちゃったんじゃないよね。

 きっと、武器を使わないで戦う人なんだ。


「会うのは初めてかー。俺、ハンス。冒険者やってるんだ」


 ハンスが手を伸ばしてくる。

 これって握手、だよね?

 僕、知ってる。


「僕はレオン・ディーだよ。よろしくね」

「あいよー。よろしく」


 Aランクさんたちはあいさつを返してくれなかったけど、ハンスはちゃんとしてくれた。

 握った手もブンブンふってくれて、幸せな感じだ。


『レオン。心を許すには早くてよ。ダンジョン内で他の冒険者との接触は慎重になさい』


 ……そういえば、二回目にダンジョンに入った時にそんな事を言われていた。

 金斧さんみたいな人たちが攻撃してくるかもしれないって。


 僕はハンスをしっかりと見る。


「おじさん。悪い人?」

「おじさんって歳じゃないぞー。老け顔だが、これでも二十代なんだ」


 二十代……数字だ。

 二十は一とか十より強いのは知ってる。

 けど、代ってなに?

 二十より強いの? 弱いの?


「ごめん。よく知らないんだけど、二十代って強いの? 弱いの?」


 だから、聞いてみた。

 となりでシアンが肩を落として、頭の上でノクトがため息をついているけど、僕は何か失敗しちゃったかな?


「強いか、弱いか、かぁ……」


 ハンスは腕組みをして、それから僕をじっと見ながら答える。

 ねむたそうにしていたけど、今はキリッとしたまじめな顔だ。


「そりゃあ……強いだろ」

「そうなの?」

「おう。十代は勢いがあるし、三十代は渋さがあるが、なんといっても二十代は脂がのってるからなー」


 あぶらがのってる。

 知らない言葉だけど、なんとなくおいしそうだ。

 おいしいのはいい事。

 うん。それなら強い。


「うん。わかったよ。二十代はおいしい!」

「おう。うまい事だらけだぜ!」


 僕はハンスともう一回握手をする。

 がっしりと手をにぎったら、同じぐらい返してくれていい感じだ。


「か、会話が成立していますか、これ?」

『頭が痛くなってきたわ……。これが最強冒険者なの?』

「あの、ひととなりについてがあやふやになっていますけど……」

「オイラもやるっす!」


 シアンとノクトとピートロががっくりしているけど、トントロはハンスに前足を持ち上げてきた。

 ハンスはそれにもちゃんと応えて、ブンブンと手を振っている。

 うん。トントロとも仲良しだ。


 僕がニコニコしていると、頭の上のノクトが肉球でおでこをたたいてきた。


『ダンジョンでおバカが過ぎるわよ。あなたが『見て』悪い人とは感じなかったのかもしれないけど、それだけで油断はできないの。そうは見えないかもしれないけど、この男は迷宮都市エルグラドで最強の冒険者なのだから』

「エルグラドのダンジョンは帝国最大。その冒険者のトップですからね」

「つまり、帝国最強……ですか?」


 シアンとピートロはちょっと怖がっているみたいだ。


「シアン、どうしたの?」

「最強冒険者が理由もなく会いに来たりしませんからね。どうしても理由が気になります」


 ハンスは僕たちを待っていたみたいだ。

 最初からそう言っていた。

 でも、どうして待っていたかは言ってない。


 シアンたちはそれが気になって仕方ないみたいだった。


「おじさん、どうして僕たちを待ってたの?」


 だから、これも聞いてみた。


「だから、おじさんじゃないって。ハンスって呼んでくれー」


 おじさんじゃなくて、ハンス。

 おぼえた。


「じゃあ、ハンス。どうして待ってたの?」

「あー、聞いてないか? ギルマスからの依頼なんけどよ」


 ギルマスの依頼?

 ついつい、いやな顔をしてしまう。

 シアンたちもおたがいの顔を見て、それから首を振っている。

 だれも聞いてないみたいだ。


「知らない」

「まじかよー。あの人、丸投げしやがったなー」

『どういう事かしら? あなたの受けた依頼はあたしたちに関係あるの?』


 ノクトの声が少し低くなる。

 ハンスが敵にあるかもしれないって思ったみたいだ。


 けど、ハンスは手を振ってくる。


「俺の受けた依頼はなー。ダンジョン下層にいるっぽい? 女魔導使いを倒せって依頼なんだよー」


 ダンジョンの下層にいる女魔導使い。

 シアンたちの顔が少し固くなるのがわかった。

 みんなが思い浮かべた人が僕にもわかる。


 まっかなかっこうをした魔法使い。

 元英雄の女の人。


「それって『峻厳』さん?」

「名前は知らないんだー。お前らが知ってるって聞いてるぞー。それにしても『シュンゲン』って変な名前だな」

「だから、我々に案内をしろという事ですか?」


 ハンスはギルマスに頼まれて、『峻厳』さんを倒しに行くらしい。

 だけど、『峻厳』さんを知らないから、僕たちに教えてほしいみたいだ。


「でも、僕たちはまだ下層に行かないよ?」


 中層を攻略してないし、みんなはもっともっと強くなるためにモンスターを倒そうとしている。

 下層にいる『峻厳』さんに会いに行くのは決めているけど、それはまだ。


『言っておくけど、そちらの都合で動くつもりはないわ』

「ええ。悔しいですがわたしたちはまだBランク。下層に踏み込む資格がありませんからね。勇み足で失敗するのはもう嫌です」


 あぶないのはダメだ。

 トントロが死んでしまったみたいなのは、もういやだから。


「わかってるよー。だから、下層に行くまで俺も一緒に冒険しようって話だー」


 Bランクのまま下層に行くのは危ないもんなあ、ってハンスはうなずいている。


「ギルマスからはいつまでにって言われてないんだよー。だから、お前らの準備ができるまで待つぞー。ついでに危なかったら助けてやってもいいー」


 いっしょについてきてくれて、僕たちがAランクになるまで見守ってくれるんだ。

 うん。

 やっぱり、ハンスはいい人だ。


 けど、シアンはまだ不安みたい。


「それでは、あなたの信用が落ちてしまうのでは? 最悪、ランク落ちもあり得るのでは?」

「別にー。俺、Aランクになりたくてなったわけじゃないし。まあ、ギルマスには恩があるから冒険者は続けるけどなー」

『それであなたはいいのかしら?』

「おう。必要経費? ってので金はもらえるんだ。なら、下層で戦うより楽でいいだろー。それにお前らはなんか面白そうだしな!」


 それで、どうする?


 とハンスの目が聞いてくる。


「レオン、トントロ。集合です」


 僕たちはハンスからちょっと離れた場所で集まった。

 顔を近づけて、お話をする。


「ノクト、どう思いますか?」

『嘘はないわ。魂魄も真っ当ね。他のAランク冒険者とは色々と違っているのは確かね。レオン、あなたから見てどうかしら?』


 聞かれてもう一度ハンスを見る。


 ハンスはおおきくあくびをして、僕たちの返事を待っている。

 しっかりと見てみるけど、悪い感じはしない。

 いい感じの魂魄だ。


「いい人だよ」

「うっす。ハンスのオジキは強いっす!」

「お兄ちゃん、強い人なのはわかってるから」


 強くていい人。

 そんな人が手伝ってくれるのはうれしいよね。


『人物としては至極真っ当なのよね。なんだか、レオンと息が合いそうだし』

「ただ、ギルマスの依頼というのが引っかかりますね」

『それにあたしたちには秘密が多すぎるわ』

「マリアからギルドに伝わっているとは思いますが……」


 ギルマスの依頼なのが気になるんだ。

 つまり、ギルマスが悪い。


「でも、アネゴ様。お断りしても、あの方はきっとついてきちゃいますよね?」


 ピートロが聞く。

 そっか。

 ダメって言ってもついてきちゃったらどうしようもないんだ。


『相手はAランク冒険者。あたしたちよりダンジョンに精通しているでしょうね。撒くのは難しいかしら』

「ですね。それぐらいならそばにいてもらって利用するぐらいの方がいいのかもしれません。ギルマスの意図を探れればいいのですが……」


 シアンとノクトは見つめ合って、それからため息をついた。




 結局、僕たちはハンスといっしょに中層に入る事になったのだった。

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