121 ドラゴンさん、Aランクさんと会う
121
しーんとなったロビー。
ギルドの人と冒険者の人。
入る前からわかっていたけど、あんまりいっぱいはいないなあ。
冒険者の人が十三人。
それからギルドの人は……マリアたち受付の人と、ディックたち素材の買い取りの人たちが少し。
他の人たちは奥の部屋みたいだ。
そんなあんまりいっぱいいない人たちが僕たちを見ている。
ギルドの人はびっくりして、それから「あぁ」みたいな声を出していた。
マリアはほっぺに手を当てて、こまったみたいに笑っている。
おかしい。
こまらないようにしたはずなのに、こまらせてしまっている?
それから冒険者の人たち。
食堂の方に座っていたみたいだけど、今はほとんどの人が立ち上がっている。
武器を持って僕をにらんでいるんだけど、悲しい。
どうして、きらわれちゃうんだろう?
「ああ、もう。レオンはすぐにそんな顔をするんですから。ほら、気にしないでください。嫌われたわけじゃありませんよ? その、警戒されているだけです。あの人たちはレオンの事を知らないですから、ね?」
『警戒、かしら? 既に臨戦態勢のように見えるのだけど』
「気のせいです! きっと……その、お腹がすいているんですよ!」
おなかがすいている。
そっか。
それなら気が立っているのも仕方ないね。
「ご飯、まだ来ないのかな?」
「え、ああ、そうかもしれませんね。だから、今は触れないようにマリアさんの所へ」
『無理みたいね』
冒険者の人たちがこっちにやってくる。
そっくりな顔の男の人がふたり。
どっちも大きな体に、かたそうな鎧を着て、武器は剣だね。
赤い鎧と青い鎧だから、赤鎧さんと青鎧さんだ。
男の人たちはシアンに話しかけてきた。
「おい。こいつは最近Bランクになった魔導使いだったよな」
「ああ。そうだ、兄貴。変装しているようだが間違いない。最近、随分と派手に活躍してるらしいが……」
じろじろとシアンを見ている。
なんだろう。
ちょっとやな感じだ。
アルトを思い出してしまう。
僕が胸の中のグルグルするのを考えていると、男の人たちが小さく笑った。
あ、やっぱりやな感じだ。
「魔力はまあまあだが、それだけだな。生命力が話にならねえ。大方、そっちの生命力バカに守られているだけだろう」
「噂では使い魔の猫の妖精は収納が使えるらしいな。おい。Aランクに上がったらうちに入れてやろう。もちろん。荷物担ぎとしてだが」
なんだろう?
この人たちはシアンに話しかけているのに、いじわるな事を言っているのに、僕の方ばかり気にしている。
目はむけてないけど、気持ちが僕を見ている。
とりあえず、シアンにいじわるを言わないでほしい。
「シアンはすごいよ。いじわるしないで」
だまったままのシアンの代わりに言う。
そうしたら、シアンが手を引いてきた。
「レオン、いいんですよ。この人たちも間違った事は言っていません」
それから顔を耳に寄せてきて、小さな声で教えてくれる。
「この人たちはわたしをネタにしてレオンを刺激しているだけです」
『そうね。どうせレオンの強さが気になって様子をみているのでしょう。勧誘のためか、それともライバルとしてかは知らないけど。ただ、それにしたところで、礼儀を知らないのに変わりはないわ。関わるだけ時間の無駄よ』
あ、ノクトも怒っているんだ。
フードの中でしっぽを細かく揺らしている。
うーん。
シアンとノクトの話はむずかしくてよくわからなかった。
ただ、この人たちは僕を知りたくて、それでシアンにいじわるを言ったのはわかった。
変な事をする人だなあ。
僕が知りたいなら聞いてくれればいいのに。
「僕はレオン・ディー。冒険者だよ」
だから、教えてあげた。
なのに、二人はちって舌を鳴らしてくる。
「ちっ、乗ってこねえか。冒険者ギルドだからか? それともビビったか? そこそこの生命力はあるみたいだが、使い手がこれじゃあ程度が知れるぞ?」
「生命力だけのバカじゃないのかもな。『裸捨て』された奴隷にしては知能があるらしい」
やっぱり、やな感じ。
今度はシアンじゃなくて僕の方にいじわるを言ってくる。
本当に何がしたいんだろう?
あと、名前を教えてほしいんだけど。
名前を教えたら、教えてもらえるんじゃないの?
にらんでくるのを見つめ返して、どうしようかと思っていると他の人が入ってきた。
冒険者の女の人だ。
こっちの人は鎧じゃない。
シアンみたいなローブだけど、魔導装備だね。
長い髪の間から二人を見て、それから僕を見て、息をのんだ。
「……おやめなさい。二人とも」
「あん? 『魔女』のお嬢様が誰に命令してるんだ? 『双頭狼』の俺らに命令を出せるのはギルマスだけだぜ?」
「兄貴の言う通りだ。口出ししないでもらおうか」
「口出しじゃない。忠告だ」
女の人――魔女さんがまた僕を見る。
なんだかたくさん汗をかいているみたいだけど、だいじょうぶかな?
お水、持ってこようか?
「……とんでもない魔力。前衛には生命力しか感じ取れていない? だとしたら、どれだけの?」
「あん? 魔力? Bランクの小娘の魔力に『魔女』が恐れをなしたか?」
「いや、それはないだろう、兄貴。魔力は『魔女』の方が上だ」
「三人はそれぞれ生命力と魔力に特化しているからな。得意分野でしか彼を理解できないのだろう」
また、来た。
今度はまっ白な鎧のおじさん。
腰とか背中とかに剣がいっぱいだ。
これ、剣も鎧も魔導装備だ。
「おい? 『大鷲』の旦那? どういう事だ?」
「言った通りだ。この少年の力は易々と測れない。生命力も魔力も途轍もない質と量だ」
「生命力だけじゃなく、魔力も? なるほど、『魔女』殿には魔力を感じられる、と」
「手練れでしか測れないレベルで押さえているのね」
僕、ぜんぜんお話できないよ。
最後に来たおじさん――大鷲さんといっしょに三人はお話していて、ちょっとさびしくなってきた
シアンの手をにぎってなかったら落ち込んでいたかもしれない
「ねえ、シアン。どうしたらいいのかな?」
「関わらないのが一番ですよ。ちなみに、こちらの方たちはAランクパーティのリーダーですよ。前衛特化の『双頭狼』と、魔導使いパーティの『魔女』と、最優秀の『大鷲』のパーティですね」
ふうん。
たしかに他の冒険者の人たちよりずっと強いよね。
赤鎧さんと青鎧さんは生命力が。
魔女さんは魔力が。
大鷲さんはどっちも強い。
食堂の方で立ったままの人たちよりも上だ。
でも、一人だけ座っている人。
この人はこの四人よりも強いよね。
寝ているみたいで動かないけど、わかる。
武器はない。
鎧を着てない。
というか、ボロボロの服を着ている。
あんまり強そうに見えないかもしれないけど、一番強いのはこの人だ。
「ねえ、シアン。あの人は?」
「……すみません。わたしも知らない人ですね。ですが、Aランクパーティーの中に一人、となると」
『唯一のソロのAランク冒険者。『覚醒者』のハンスなのでしょうね』
「名前と通り名ぐらいしか知りませんが、おそらく」
シアンとノクトが知らないんだ。
やっぱりすごいんだろうなあ。
Aランクの人たちはわかった。
なんだかいじわるをして来たり、お腹がへってイライラしたり、仲が悪そうで良かったりしている人たちなんだね。
名前を教えてくれなかったのは残念だけど、お話しているのを止めるのはいけないよね。
そう思って僕たちはマリアの方を見た。
「やあ、待たせたね。ボクの最強の冒険者たち!」
そしたら、マリアの後ろにはいつの間にかギルマスがいた。
この人、いきなり出てくるんだよなあ。
白黒のマントを着ていて、顔もきれいなのに気づけない。
わからないばかりだし、やだなあ。
ギルマスは僕たちを、Aランクさんたちを見て、それから僕だけを見る。
ニコニコと笑いながら、手を伸ばしてきた。
「さあ、このメンバーでダンジョンの下層を突破しようじゃないか! エースは君だ、レオン君!」
「やだ」
僕のパーティーはシアンとノクトとトントロとピートロだ。
「あ、マリア。お金ちょうだい」
「えー、あーうんー。これねー」
僕たちはマリアからお金の入った袋をもらって、ポカンとしているギルマスとか冒険者の人たちに手を振った。
さあ、お買い物だ。