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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第三章 衣食住を整えるドラゴン
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115 ドラゴンさん、衣食住を満たす

 115


「トントロはまたダンジョンに行くつもりなんですか?」


 座ってトントロと目を合わせたシアンが聞く。


 僕も同じ気持ちだ。

 今回のダンジョンでトントロはあぶなかった。

 だって、本当の本当に一度は死んでしまったんだから。


 死ぬっていうのはこわい。

 僕も一度やっているから知っている。

 あれはこわい。

 とても苦しいし、痛いし、つらいし、悲しいし、さびしい。


 そして、そのまま終わってしまうはずだったんだ。

 だから、もうトントロはダンジョンに行かないと思っていた。


「怖いんじゃありませんか?」

『もしも』


 シアンに続いてノクトがトントロに近づいていく。

 トントロを見る目はすごいするどい。

 怒っているのかな?


『もしも、セフィラの欠片が手に入って、調子に乗っているのなら許さないわよ?』


 うん。

 怒っている。

 ノクトは怒っている。

 でも、たぶんそれはトントロにじゃなくて……。


『今回はあなたに助けられたわ。あなたが身を挺して奴らを止めてくれていなかったら、あたしたちはレオンに合流できなかった。きっと追いつかれて殺されていたわ。それは感謝している。忘れていない。でも、それでも、あたしは嬉しくなんてなかった』


 自分自身に怒っている。

 トントロを死なせてしまった事を。

 一番。


 倒れたトントロの前でつぶやいていたノクトの声。

 僕はそれをよく覚えている。


「ノクトのアネゴ……」

『あたしはあなたの、あなたたちの保護者のつもりなの。そのあたしがあなたに助けられても嬉しくないのよ。あなたの優しさ。あなたの献身。あなたの勇気。それは、そうね。誇らしいと思っている。でも、それでも、それ以上に、あたしはあなたに死んでなんかほしくない』


 いつものノクトとぜんぜんちがう声。

 するどい目つき。

 それはノクトがすごい真剣だっていう事だと思う。


『だから、あたしは言うし、止めるわ。あなたが無謀な真似をしようというなら、絶対に止める』

「アネゴ、ちがうんす」


 そんなノクトの目をトントロはまっすぐに見つめ返した。


「オイラ、このままじゃダメだって思ったんす」

「トントロ?」

「アネゴたちとピートロを守ったのはやったって思ったっす! アニキの大切を守れたっすから! でも、ダメでしたっす! 死んだとき、感じたっす! アニキがオイラのせいで悲しんでいたっす! よろこんでもらえなかったっす! それじゃ、ダメっす! オイラはアニキにポカポカした気持ちでいてほしいっす!」


 トントロは小さな体でピョンピョンと飛び跳ねながらしゃべる。

 自分の気持ちがうまく言葉にできなくて、体が動いてしまうみたいだ。

 僕もよくわかる。


 それに、言いたい事もわかる気がする。

 だから、だまってトントロの話を最後まで聞こうって思った。


「それに死んじゃうのはダメっす! 死んじゃったらアニキと冒険できないっす! オイラ、もっとアニキたちといっしょにいたいっす! だから、思ったんす!」


 自分のひづめを見て、僕を見て、みんなを見て、最後にノクトを見る。

 トントロは自分の気持ちをたしかめるみたいに、言葉にする。


「オイラはもっと、もっと強くなるっす!」


 強くなる。

 みんなを守るために。

 そして、みんなを守って、それから自分も守れるぐらいに。


「だから、ダンジョンで強くなりたいっす! アニキ、ダメっすか!?」


 トントロはとてもまっすぐだ。

 まっすぐに思った事を言って、やりたい事をやる。

 僕はそれがとてもいいことだと思うし、応援したい。


「ううん。ダメじゃないよ。ねえ、ノクト。ダメかな?」


 きっとそれが間違っていたら、ノクトはしかってくれる。

 ノクトは僕たちを見て、つかれたみたいにため息をついて、それからシアンとピートロを見た。


『あなたたちは?』

「わたしはトントロと同じ気持ちですね。肝心な時に役に立てませんでしたから。だから、トントロを止めるつもりはありませんよ」

「わ、わたくしは……」


 ピートロはトントロを見て、何か言いたそうにしていたけど、最後は頭を振った。


「正直、わたくしはお兄ちゃんに無茶しないでほしいです。でも、止めてもお兄ちゃんは行っちゃうし。止められたとしても、お兄ちゃんがお兄ちゃんはなくなっちゃう気がします。それなら、わたくしはお兄ちゃんが危なくないようにしたいです」


 ピートロもいっぱい思う事があるみたいだけど、そう言った。

 強くなりたい。

 その気持ちはいっしょなんだね。


 みんなの気持ちを聞いて、ノクトはまたため息をついた。


『いつの間にか戦闘狂というか、求道者というか、強さを追い求める集団になったのかしらね……』

「それは……上を見てしまいましたからねえ」


 みんなが僕を見てくる。

 なんだろう。

 ちょっと照れてしまう。


『褒めてはいないわよ? まあ、いいわ。実力が増す分には不都合もないのだし。トントロが歪んだ勘違いをしているなら酷い目に遭ってもらうところだったけど』

「ひいっす!? オイラ、おいしくないっすよ!」


 ノクトの冷たい視線にトントロが僕の後ろにかくれた。


 あ、これは本当に怖い。

 トントロの代わりににらまれて、僕はトントロといっしょにふるえそうになっていると、ノクトはまたまたため息。


『動機も真っ当なら止めるいわれはないわ。でも、無茶は禁止よ。あたしが止めたなら絶対に従いなさい。それが守れないなら、あたしが許さない。いいわね?』

「うっす! わかったす、ノクトのアネゴ!」

「うん! わかった!」


 僕とトントロがいっしょにうなずくと、ノクトは仕方ないなあって感じに息を吐いた。

 その場で体を丸めて、ちいさくつぶやく。


『とはいえ、あたしたちはもうダンジョンに無理して挑む必要はないのだけどね』

「? そうなの? どうして?」


 ここにいないと……どうなるんだっけ?

 隠れ家にいるのは弓聖さんたちに見つからないためで、下層に行こうとしていたのも弓聖さんからギルドに守ってもらうためで。

 ……あれ?


『アルトの言った通りよ。エルグラド家が本気の本気の最優先でシアンを追っているなら隠匿を続けないといけないけど、そうではないのよ。しかも、見つかりづらいアジトまでくれたじゃない。まあ、それはトントロにだけど。トントロ、その家は独り占めしたい? あたしたちは住ませたくない?』

「え、アニキたちといっしょがいいっすよ!」


 アルトから渡された鍵をトントロが振って言う。

 その答えがわかっていたみたいにノクトはしっぽを揺らした。


『そう。ありがと。となると、ここにいる理由がないわね』

「そうですねえ。エルグラド家も今回で大打撃を受けていますし、わたしたちに構っていられないでしょうから、ギルドの庇護を求めて無理に下層に行かなくてもいいかもしれませんねえ。生活するだけなら上層でも十分稼げますし」


 でも、とシアンは続けた。


「あの自称『峻厳』さんには借りを返したいです」

「うっす! 次は負けないっす!」

「……わたくしも、お兄ちゃんの恨みを返したい、です」


 みんな『峻厳』さんにやり返したいみたいだ。

 特にピートロ。

 ちょっとノクトっぽい怖さが声にあって、僕はビクッてしてしまいそうになった。


 でも、そうだね。

 僕も『峻厳』さんとはもう一度会いたい。

 今度はしっかりお話したい。


 前にどこで会ったのか。

 僕がどうして『峻厳』の御柱を持っているのか。


 きっとあの人なら知っているから。


『酔狂な子たちね。まあ、あなたたちがそう言うなら否やはないわ。あなたも、それでいいでしょう、マリア?』


 ノクトが部屋の入り口を見ると、そこにはマリアがいた。

 そういえば、あとで来るって言っていたっけ。

 そっとマリアが来ていたみたいだけど、ノクトはちゃんと気づいていたみたいだ。


「皆さんがやる気で嬉しいわー。ギルドとしてもー、そんな危険人物がダンジョンにいるなんてー、放っておけないからー」

『魔導装備で完全武装した戦士団が全滅なんて聞いたら、誰もダンジョンに入らなくなるものね? そうなったら、冒険者ギルドは大変でしょう?』


 ノクトの言う通りみたいで、マリアはこまったみたいに笑うだけだった。

 すると、ノクトは首を小さく曲げて、やわらかい声で続ける。


『困ったわね。そんな危険人物に対処できるのはうちのレオンだけでしょうね。けど、いいのかしら? 中立を旨とする冒険者ギルドが一冒険者に負担をかけるなんて。ねえ? 何かしらの援助があってしかるべきじゃないかしら?』


 たしたしと床を叩きながらノクトが見上げると、マリアはため息をついた。

 ふしぎだ。

 いつもならため息をつくのはノクトの方なのに。


「足元を見てきますねー。でも、正論ですー。わかりましたー。この隠れ家を続けて使えるように掛け合いますからー」

『それと報酬もね』

「先立つものも必要ですからねえ。トントロの魔導装備やピートロの霊薬に必要な物を揃えるのにお金はかかりますよ?」


 ノクトとシアンがイイ笑顔だ。

 とてもイキイキしている。

 反対にマリアはヘトヘトになっていく。


「わかったよー。素材の買い取りに色を付けるからー。それでいいでしょうー? 後は成功報酬ー。これが精一杯の譲歩よー」

『ええ。それで手を打ちましょうか』

「いやあ、楽しくなってきました。まずはアルトからいただいた倉庫を見に行きましょうかね。それから必要な物を買い揃えて。あ、女将さんにも挨拶しないと」


 シアンはこれからの事を楽しそうに話している。

 それを聞いていてふと思った。


 僕、衣食住がそろったんじゃないかな?


 服はトントロが作ってくれる。

 食べ物はシアンとピートロが作ってくれる。

 家を買うためにお金が必要だったけど、アルトが倉庫っていうのをくれた。


 ノクトが教えてくれた最初の目標を達成できたんだ。


 人間としての生活。

 その一歩目。

 たしかにそれが進んでいるのを感じて、僕は満たされた気持ちになって、ゆっくりとベッドに寝ころがった。

皆様、本年はお世話になりました。

久しぶりの連載で色々と思い出し思い出し続けてこれました。

来年の目標はとりあえず『ドラゴンさん』を完結させる事。

次の章で終わりの予定ですが、最後まで書ききりたいと思いますので、もう少々お付き合いいただければ幸いです。

来年もよろしくお願いいたします。

では、よいお年を!

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