100 ドラゴンさん、告白される
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「ぐうっ、この、化け物があっ! 魔導装備が全滅だ!」
雪が煙みたいに上がる中、アルトが立ち上がった。
本当は立派でキラキラしている鎧だったんだろうけど、なんだか汚れてへこんで壊れてかわいそうな感じになっている。
自分が飛んできた方をにらみつけて、それからようやく僕たちに気づく。
「冒険者か? ……シアン・セルシウス・ブリューナク!?」
目を大きく開いてびっくりしている。
うん。
僕たちもびっくりだ。
弓聖に人たちが来ているっていうのは聞いていたけど、その中にアルトがいるとは思っていなかった。
「なぜ、ここに。外に逃げたと……そうか。また、裏をかいて内側に入り込んでいたわけか。つくづく、我々の裏をかいてくれるな」
なんだか一人で納得していた。
むずかしそうな顔をしてぶつぶつとつぶやいている
シアンはとても苦い顔だ。
「アルト・エルグラド。戦士団を率いていたのはあなたでしたか」
「そうだ。エルグラド家が迷宮を制し、ギルドの独占を止める。この街に頭は二つもいらないからな」
アルトが腰から剣を抜いて、その先を僕たちに向けてきた。
「偶然とはいえ、ここで会ったのも運命だろう。これ以上、無駄なあがきはやめて我らと共に来い。すぐにダンジョンを出るぞ」
「我らという割に一人のようですが? 百人の戦士団はどうしましたか?」
シアンが僕の後ろにかくれながら聞く。
そうだった。
弓聖の人たちは大勢で来ているんだよね。
なのに、ここにはアルトしかいない。
それに、アルトは飛んできたけど、自分で飛んだわけじゃないみたいだった。
あれは吹き飛ばされた、のかな?
「何に吹き飛ばされたの?」
「……問答している時間はない! 我に従え! すぐに奴が来る――」
「誰が、来るって?」
いきなりだ。
本当にいきなり声がした。
ふりかえると、雪の中に人間が立っている。
「冷たい大将だな。部下を見殺しに一人撤退か?」
人間だ。
さっきまでいなかったのに、いつのまにかそこにいた。
最初に思ったのは『赤い』だ。
赤い服。
赤い唇。
赤い爪。
赤い瞳。
赤い魔力。
とっても濃い赤でいっぱいだ。
そんなに大きい人間じゃないけど、体よりも大きく見える。
すごい量の魔力のせいか。
それとも、そう見えるふんいきのせいか。
「オレの知っている大将は、先陣も殿も自分から引き受ける奴だったんだがな。お前は違うのか?」
「ぬかせ! 我が部下をどうした!?」
赤い人はみじかい金色の髪をらんぼうに持ち上げながら、怖い笑顔でアルトを見下している。
それからにんまりと口を曲げて、手を広げた。
けものみたいな危険な顔だ。
「大将の周りに誰もついてこれなかった。それでわかるってもんだろ、なあ?」
「このっ」
言い返そうとしてアルトはだまった。
くやしそうに唇をかんでいる。
赤い人は急につまらそうに息を吐いた。
「つまらん。オレに挑んだくせにこの程度で折れるとはな。失せろ」
赤い光が飛んだ。
小さな球に見える。
アルトに向かって飛ぶそれは魔力だ。
ただ、その魔力にはびっくりするぐらいの『壊す』という気持ちが入っていて、ぶつかったものを粉々にしてしまうのが僕にはわかる。
だれも動けないまま赤い魔力球がアルトに近づいて――。
「えいっ!」
僕がドラゴンシャフトでなぐりとばした。
魔力球はひゅんと遠くに飛んでいって、大きな爆発を起こす。
雪が噴き上がる姿はさっきと同じだ。
きっと、さっきのも赤い人が今みたいにしたんだと思う。
「あぶない事したらダメだよ」
アルトは見てると変な気持ちになるけど、あのままだったら死んじゃっていた。
「貴様――」
「今のはなんですか? 魔導の気配なんてありませんでした。それに、点に爆発の効果を加えるなんて……」
シアンがおどろいている。
でも、今のは魔導じゃない。
これは僕が知っている魔法だ。
『あの人』が使ったりしていたやつだ。
けど、赤い人はそんなシアンを見ないで僕だけを見ている。
もうアルトも目に入っていないみたいだ。
「はっ、おいおい。なんだ、これは。どういう流れだ。誰が糸を引いた。こんな場所で、こんなタイミングで、こんな形での再会とは、傑作じゃないか。この連中がちょっかいかけてきたところからか? オレの試練をジャマするとわかってか? そもそも、オレに気づいていたのか? それとも全てが偶然なのか? なあ、お前はどう思う? 最後の最強のドラゴン!」
ドラゴン。
どうして、この人は僕がドラゴンだって知って?
何を言っているか、まるでわからない。
ふしぎに思っている間に、赤い人は近づいてくる。
僕を見る目。
それはとっても熱くて、熱くて、熱くて――今にも溶けてしまいそうだ。
この目の感じ、似ている。
川の部屋と、滝の部屋で感じたあれと。
とっても似ている。
「会いたかった。ああ、会いたかった。この時を待ち続けていた」
「君、だれ?」
「わからないか? ふっ、ははっ、そうか……」
手が届きそうな位置。
とろけるような笑顔の赤い人。
「愛しているぞ、ドラゴン」
赤い人は両手にいっぱいの魔力を放ってきた。