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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第三章 衣食住を整えるドラゴン
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100 ドラゴンさん、告白される

 100


「ぐうっ、この、化け物があっ! 魔導装備が全滅だ!」


 雪が煙みたいに上がる中、アルトが立ち上がった。

 本当は立派でキラキラしている鎧だったんだろうけど、なんだか汚れてへこんで壊れてかわいそうな感じになっている。

 自分が飛んできた方をにらみつけて、それからようやく僕たちに気づく。


「冒険者か? ……シアン・セルシウス・ブリューナク!?」


 目を大きく開いてびっくりしている。

 うん。

 僕たちもびっくりだ。


 弓聖に人たちが来ているっていうのは聞いていたけど、その中にアルトがいるとは思っていなかった。


「なぜ、ここに。外に逃げたと……そうか。また、裏をかいて内側に入り込んでいたわけか。つくづく、我々の裏をかいてくれるな」


 なんだか一人で納得していた。

 むずかしそうな顔をしてぶつぶつとつぶやいている

 シアンはとても苦い顔だ。


「アルト・エルグラド。戦士団を率いていたのはあなたでしたか」

「そうだ。エルグラド家が迷宮を制し、ギルドの独占を止める。この街に頭は二つもいらないからな」


 アルトが腰から剣を抜いて、その先を僕たちに向けてきた。


「偶然とはいえ、ここで会ったのも運命だろう。これ以上、無駄なあがきはやめて我らと共に来い。すぐにダンジョンを出るぞ」

「我らという割に一人のようですが? 百人の戦士団はどうしましたか?」


 シアンが僕の後ろにかくれながら聞く。

 そうだった。

 弓聖の人たちは大勢で来ているんだよね。

 なのに、ここにはアルトしかいない。

 それに、アルトは飛んできたけど、自分で飛んだわけじゃないみたいだった。

 あれは吹き飛ばされた、のかな?


「何に吹き飛ばされたの?」

「……問答している時間はない! 我に従え! すぐに奴が来る――」

「誰が、来るって?」


 いきなりだ。

 本当にいきなり声がした。


 ふりかえると、雪の中に人間が立っている。


「冷たい大将だな。部下を見殺しに一人撤退か?」


 人間だ。

 さっきまでいなかったのに、いつのまにかそこにいた。


 最初に思ったのは『赤い』だ。


 赤い服。

 赤い唇。

 赤い爪。

 赤い瞳。

 赤い魔力。


 とっても濃い赤でいっぱいだ。


 そんなに大きい人間じゃないけど、体よりも大きく見える。

 すごい量の魔力のせいか。

 それとも、そう見えるふんいきのせいか。


「オレの知っている大将は、先陣も殿も自分から引き受ける奴だったんだがな。お前は違うのか?」

「ぬかせ! 我が部下をどうした!?」


 赤い人はみじかい金色の髪をらんぼうに持ち上げながら、怖い笑顔でアルトを見下している。

 それからにんまりと口を曲げて、手を広げた。

 けものみたいな危険な顔だ。


「大将の周りに誰もついてこれなかった。それでわかるってもんだろ、なあ?」

「このっ」


 言い返そうとしてアルトはだまった。

 くやしそうに唇をかんでいる。

 赤い人は急につまらそうに息を吐いた。


「つまらん。オレに挑んだくせにこの程度で折れるとはな。失せろ」


 赤い光が飛んだ。


 小さな球に見える。

 アルトに向かって飛ぶそれは魔力だ。

 ただ、その魔力にはびっくりするぐらいの『壊す』という気持ちが入っていて、ぶつかったものを粉々にしてしまうのが僕にはわかる。


 だれも動けないまま赤い魔力球がアルトに近づいて――。


「えいっ!」


 僕がドラゴンシャフトでなぐりとばした。

 魔力球はひゅんと遠くに飛んでいって、大きな爆発を起こす。

 雪が噴き上がる姿はさっきと同じだ。

 きっと、さっきのも赤い人が今みたいにしたんだと思う。


「あぶない事したらダメだよ」


 アルトは見てると変な気持ちになるけど、あのままだったら死んじゃっていた。


「貴様――」

「今のはなんですか? 魔導の気配なんてありませんでした。それに、ポイントに爆発の効果を加えるなんて……」


 シアンがおどろいている。


 でも、今のは魔導じゃない。

 これは僕が知っている魔法だ。

『あの人』が使ったりしていたやつだ。


 けど、赤い人はそんなシアンを見ないで僕だけを見ている。

 もうアルトも目に入っていないみたいだ。


「はっ、おいおい。なんだ、これは。どういう流れだ。誰が糸を引いた。こんな場所で、こんなタイミングで、こんな形での再会とは、傑作じゃないか。この連中がちょっかいかけてきたところからか? オレの試練をジャマするとわかってか? そもそも、オレに気づいていたのか? それとも全てが偶然なのか? なあ、お前はどう思う? 最後の最強のドラゴン!」


 ドラゴン。

 どうして、この人は僕がドラゴンだって知って?

 何を言っているか、まるでわからない。


 ふしぎに思っている間に、赤い人は近づいてくる。


 僕を見る目。

 それはとっても熱くて、熱くて、熱くて――今にも溶けてしまいそうだ。


 この目の感じ、似ている。

 川の部屋と、滝の部屋で感じたあれと。

 とっても似ている。


「会いたかった。ああ、会いたかった。この時を待ち続けていた」

「君、だれ?」

「わからないか? ふっ、ははっ、そうか……」


 手が届きそうな位置。

 とろけるような笑顔の赤い人。


「愛しているぞ、ドラゴン」


 赤い人は両手にいっぱいの魔力を放ってきた。

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