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ドラゴンさんのセカンドライフ  作者: いくさや
第三章 衣食住を整えるドラゴン
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99 ドラゴンさん、異常事態に遭う

 99


「……くっ、んっ、あっ、ぅう……」


 シアンがうめいている。

 苦しそうに、何度も頭を振って、寒いはずなのにおでこには汗が浮いていた。

 少しでも楽にしてあげたいけど、今の僕にできるのは背中を支えてあげるぐらい。


『難航しているようね』

「……雪、が、霧を、邪魔します、ね」


 滝の部屋で使った霧の魔導。

 あれがうまくいかないみたいだ。

 シアンの杖から広がる霧は、あまり遠くまでいかないで止まっている。

 どうも雪がジャマみたいだ。


「わかる範囲は百メトルぐらいですね。この中に扉の反応はありませんでしたよ。それと、モンスターも」


 杖を振って霧を消しながらシアンが教えてくれた。

 百メトル。

 ええっと、川の部屋の時の雨が二百メトル、だったような?

 じゃあ、百と二百だから……なんか少ない感じだと思う! たぶん!


『レオン、あなた……』


 なんだか、ノクトは僕が考えている事がわかるみたいだ。

 じとっとした目で見られてしまった。

 あわてて、元のお話を続ける。


「ねえ。この雪、吹き飛ばす?」

「選択肢にそれが出てくるのがレオンらしいし、実際にできてしまうのでしょうけど」


 できると思う。

 かなり思いっきり生命力を大きな声にのせてもいいし、ヘビ女を倒した時みたいに魔力でやってもいい。


「ただ、それだと扉まで巻き込みかねないですね」

「あと、部屋自体が壊れてしまうかもしれないです」


 シアンとピートロに言われてうんとうなずく。


 できると思う。

 ダンジョンって壊れづらいみたいだけど、もう何度も壊しているからね。


「アニキ、すげえっす! オイラもダンジョンをこわせるようになりたいっす!」

「お兄ちゃん、ならなくていいから。ダンジョン、壊しちゃったらダメだから」


 トントロがピートロに止められている。

 そういえば、ダンジョンをこわしたらたくさんの人が困っちゃうんだっけ。

 ……あぶない。


「レオン、忘れていませんでしたか?」

「ごめんなさい」

『素直に謝るのよねえ。ただ、その反省が長続きしないのがもう……』


 ノクトが深く、深くため息をついている。

 もともと、ダンジョンにいやな思い出があるからかなあ。

 こわしちゃえって考えてしまう。


「ともあれ、レオンに頼り切らないというのがわたしたちの課題ですからね。ここは小まめに探知を続けながら進みましょう」

『そうね。幸い近くにモンスターもいないみたいだし、この様子なら次の扉もすぐに見つかるかもしれないわね』


 シアンも言っていたけど、ノクトもモンスターの魂魄を感じないんだ。

 僕もさっきから周りをよく見ているんだけど、モンスターがぜんぜん見つからない。

 かなり遠くにいるんだと思う。


「では、とりあえず扉を背中に向けて進みましょうか。いつもと同じ陣形でいいですね」

「うっす! 特攻するっす!」

「お兄ちゃん、ダメだよ! 一匹で行っちゃダメだから!」

『もう……』


 はりきったトントロが雪の積もった原っぱを歩き出す。

 僕の足首ぐらいまである雪は、背の低いトントロにはつらいんじゃないかなって心配だったけど、へいきみたいだ。


 トントロは最初から生命力が多かったけど、ここ数日でたくさんモンスターを倒したからもっと強くなっていた。

 雪を蹴っ飛ばして進んでいる。

 おかげでトントロの後には道ができていて、後ろを歩くピートロとシアンは歩きやすそうだ。


「トントロ、ありがとうね」

「? よくわからないっすけど、うっす! ほめられたっす! もっとガンバルっす!」


 道ができたのはたまたまだったみたいだ。

 でも、トントロのやる気がいっぱいになったからいいかな。


 そうやって、トントロが道を作って、シアンが探知の魔導を使って、雪の中を進み続けてしばらく経った。


 ふりかえると、ずいぶんと遠くに扉が見える。

 僕でもしっかり見ないとわからないぐらい。

 うっすらと僕たちが進んできた道ができているけど、その上にも雪がつもっているせいで、少しずつ元に戻りだしていた。


「おかしいですね」

『ええ。異常事態ね』


 シアンとノクトが足を止めた。

 ここで少し休むのかなって思ったけど、ちがうみたいだ。

 いつもみたいに座る場所を出さないし、むずかしい顔で周りを見ている。


「どうしたの?」

「わからないっす。お腹、いたいっすか?」

「お兄ちゃん。足を止めるの、お腹が痛い時だけじゃないから。アネゴ様たちはモンスターが出てこないのを不思議に思っているんです」


 ピートロが教えてくれた。

 そっか。

 そういえば、ぜんぜんモンスターが出てこないな。

 川の部屋も滝の部屋も、何もしなくてもモンスターがやってきたのに、この部屋に来てからは一度も見ていない。


 もう一度、辺りをしっかりと見てみるけど、いない。

 かくれているんじゃないよね。

 それならしっかり見たら、見えている。

 だから、本当にいない。


「……引き返しましょう」

『それがいいわね。冒険と無謀を間違えたら身を滅ぼすわ』


 シアンが決めたならそれがいい。

 僕たちは来た道を戻り始める。

 今度は僕が一番前だけど、道がまだ残っているからまっすぐ歩けばだいじょうぶだ。


「ダンジョンにモンスターが出ないなんて、何が考えられますか?」

『想像もできないわね。モンスターだって生き物なんだから、数に限りだってあるでしょうけど……』

「あの、例のエルグラド家の方が関係しているのでしょうか? 先にこの部屋に来ていて、モンスターを狩りつくしてしまった、とか……」


 弓聖の人たちだっけ。

 いっぱい来ているみたいだから、モンスターを倒してしまっているかもしれない。

 でも、ノクトは首を振った。


『連中はダンジョン攻略を優先しているわ。道中のモンスター退治は最低限にして、先に進むはずよ』

「ですね。それに辺りはこの通りの雪景色です。大勢が行軍した様子は見えません」


 たしかに。

 周りはまっ白な雪が積もっている。

 モンスターをいっぱい倒したなら、そのあとも残っているよね。


「じゃあ、ここのモンスターはどうしたんだろう?」

「他の部屋に移動したのかもしれませんね……」


 ああ。

 そういえば、濫喰い獣王種キマイラロードは中層から上層に上がってきたんだから、そういう事もあるのかも。


 僕がなるほどとうなずいていると、ノクトが首を振った。


『この環境に適合したモンスターが集団で?』

「考えられません、か」

『それなら、濫喰い獣王種キマイラロードに食い尽くされた方が納得できるわね。それにしたって、戦闘跡がないから違うのでしょうけど……』


 なんか、ちがったらしい。

 シアンとノクトがあれこれと話しては、あれもこれもちがうと言っている。

 それを聞きながら歩いていると、ようやくここに来た時の扉が見え始めた。


「あ、見えたよ。あれだよね?」

「ええ。そうですね。今日はこのまま隠れ家に戻って、明日来るマリアさんを通してギルドに報告しましょう」

『攻略は別ルートを考えるしかないわね。とりあえずは、滝の部屋の上側かしら?』


 シアンとノクトは先の事を考えているみたいだ。

 そちらを振り返ったところで気づいた。


 トントロが止まっている。


「トントロ?」


 なにがあったんだろう。

 ずっと遠くの方を見て、しっぽをピンと立てて、がくがくと体を震わせていた。

 声をかけても、動かない。

 いや、動けない?


「やばいっす。なんか、やばいっす。わからないっすけど、やばいっす」


 小さな声でつぶやいている。


 よく聞き取ろうとしたところで、僕も気づいた。


 遠く。

 トントロが見ている方。

 そっちから何かが近づいてきている。


 見えない。

 聞こえない。

 そもそも、そいつはこの部屋にまだいない。

 きっと、この部屋に続いている他の部屋にいる。


 ただ、その気配があまりに強すぎて、近づいてきているのが感じられるんだ。


 トントロはそれに一番最初に気づいた。

 きっとみんなの中で近い場所にいたのもあるけど、本能で感じたんだと思う。


「みんな! 何か来る!」


 僕が言ったのと同じだった。


 白いしぶきが噴き上がる。


 まるで地面の下から何かが勢いよく飛び出したみたいだ。

 雪が高く高く舞い上がっていく。


 遅れて音と揺れがやってくる。

 ぐらぐらと地面が動いて、僕は倒れそうになっているシアンを支えながら、白いしぶきを見つめ続けた。


「今のは、爆発ですか!?」

『――っ、魂魄の反応! 数は……人間? 多いわね。十、二十、三……十二? この感じは戦う人間の……』


 猫耳を動かしていたノクトがカチンと体をこおらせた。

 全身の毛がぶわっと立ちあがって、目をいっぱいに開いている。

 いつも落ち着いているノクトの始めている姿にびっくりしてしまった。

 それはシアンもいっしょだったみたいだ、肩の上にいるノクトをゆすりながら声をかける。


「ノクト? ノクト、どうしたんですか!? 何がいたんですか!?」

『……これ、こんなの、まずい。全員、急ぎなさい! すぐに扉に入って――』


 ノクトの叫びは途中で止められた。


 何かがすごい勢いでこっちに飛んできたから。


 それは僕たちのすぐ横で乱暴に地面にぶつかって、雪の中を転がって、ようやく止まる。


「……あれは」


 シアンがつぶやく。

 僕も飛んできたのを知っていた。


「アルト・エルグラド?」

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