やる事
勇者は六十体のゴブリンを仲間にした!
そんな事を考えてやめた。
現実逃避は此処までにしておこう。実際問題これからをどうしようか悩んでいる。
オレの中で確定している事が三つある。
一つ、今回の落とし前の件。
今回の集落への攻撃に対して、然るべき行動をする。けど、実行するにしても強いゴブリンが少ないのが躊躇う原因になっている。森の中で多対一なら勝てる可能性はあるが、犠牲が多くでるのは必然。ゴブリンの上位陣があと十は、いたならば実行に移すが数は七と少ない。
それに機動力がないのもダメである。オレだけなら音を軽く越せるが、他はまずムリ。
魔法の転移も考えたが、適性がない者――空属性を持たない者――を運ぶと負荷がかかる。
なので今の所保留にしている。
二つ、魔王に会いに行く。
レイディーネに言われていた事を考えてみて決めた。
魔王に会いに行くとたぶん……いや、絶対戦いになるはずだ。
この集落から北西方向にある魔都に行く必要がある。ゴブリンの足で一ヶ月はかかるという。
友好的な関係を築いて人間に立ち向かう為に必要だ。
三つ、先代勇者をぶちのめす事。
オレの直感が指し示すのは、先代勇者が国家の中枢にいて人の意識を変えている可能性。
オレは、この争いを止めたいと思っている。言っている事はキレイ事だが、綺麗とは程遠い道だ。
歯向かってくる連中は返り討ちにする。常に危険が付きまとう筈、魔王に会ったら戦うが魔王とは手を取り合っていきたいと思う。
……が、先代勇者は災厄の種。その魂を完全に滅ぼさなければまた誰かに取り付いて争いを起こす。
色々と考えているが、選択肢の幅が狭くて迂闊に選べないこの状況。
全てに歯車が足りない。足りない歯車をどうやって集めるかを考え…。
……足りない物を集める?
そうだ!足りないなら集めればいい。これは相談した方がいいな。
「ヴァイク、ゴブリンが乗れる狼を集める事は可能か?」
集落の広場で会議中だったのが幸いだった。
「ふむ……。可能…で、あるだろうな。だが、そこそこ知恵のある奴に限られる」
何故?と理由を訊いてみると。
「知恵がなければ本能で生きている。強い者に合うと逃げ出す可能性がある。連れてくるにしても隙を見せると逃げ出すだろうな。移動手段としてなら、餌を与え従わせた方がいいかもな。一応、我が言えば大抵なら従うだろう」
「んじゃあ、ヴァイク頼んでいいか?」
「任せておけ、今回の件ではあまり役に立っていなかったから働かせてもらおう」
機動力確保はこれで解決として、ヴァイクが狼を集めるまでにゴブリン達を使えるように鍛えておかないとな。
「ドゥーイ、戦えるゴブリンはどのくらいだ?」
「精々、二十五といった所でさぁ。もう少しいましたが、先の戦いで減って残りは年老いたのと女子供で戦力として数えれないでさぁ…」
「分かった。ヴァイクが狼を集めるまでの間、戦えるように鍛えるぞ。ドゥーイはその事を戦える奴らに言ってくれ」
「了解でさぁ、ボス」
さて、次は……。
「キュード、お前は斥候に出てくれ。森から出ず敵の情報を集めてくれ。相手の規模や位置なんかを調べてオレに報告してくれ。因みに戦うのはなしで頼む、見つからないように慎重にな」
「その御命令…遂行してみせます、我が主」
そこいらの騎士よりも忠誠心高いのではなかろうか?そんなことを頭を過ぎる。
「皆に言っておくけど、この集落は破棄する予定だからそのつもりで動いてくれ」
ザワっと、ゴブリン達からざわめきが上がる。
「どうしてでさぁ、ボス」
代表してドゥーイが訊いてくる。本当に気の利くヤツだな。
「お前らは、オレに付いて来るんだろ?オレは魔王に会いに行くから此処を離れる。オレが居ない時にまた、人間が来るかもしれない。そうなったら今回のようにオレが来れるとは限らない、だったら皆で魔王の所まで行こうと思うが……皆はどうだ?一緒に来るか?」
少しの沈黙の後、またもドゥーイが代表して言う。
「我らはアナタに付いて征くと決めた。何処へだろうと付いて行き、役に立ってみせますでさぁ!」
ゴブリン達全員の眼が覚悟した眼をしている。
なんだろう?
魔王と戦うような雰囲気をしている。
別に戦いに行くのではなく、話し合いをしに行くだけのつもりなんだが…。
「んじゃあ、そうゆー感じで頼むぞオメーら!」
「「オオーーー!!」」
轟く位のゴブリン達の咆哮。そして近いて来る者の気配。
手を挙げて静止させる。
背中の片手剣に手を掛け、備える。
「敵意がないのは判るが、こちらはつい先程襲われたばかりで気が立っている。姿を見せないなら敵とみなすぞ」
誰もいない森に話しかける。それぞれ戦闘準備を調える。
姿を見せる者達を一睨し相手の正体を知る。
耳長の美男美女、色は少ないが褐色の者も混じっているが、その者達の名はエルフだと理解する。
「エルフがゴブリンに何の用だ」
一番前にいたエルフの美女が答える。
「光輝の力を持つ御身に願いを聴き届けて貰いたく参上しました」
跪いて真剣な顔でこちらを、オレを見た。
こうしてエルフとの邂逅を果たす。