どうしてそうなった
人間達を返り討ちして数分、集落の生き残ったゴブリン達から感謝の言葉を際限なくもらっていた。
ゴブリン達からの言葉が終わった。
終わったのを見計らったように木刀を纏っていた光が離れ、前のように鳥の姿に変わる。
「一段落…とは言えないね。それよりも、一人逃げたのを見逃してよかったのかい?」
オレらが集落に着いて光属性を持つ説明した後に、空魔法の転移をした者がいた。
おそらく後方にいる部隊に報せに行ったのだろう。
そいつがどんな報告をするかは知らないが、慌ただしくなるのは必然だろう。
「逃げた奴を追うのは疲れる。追うよりも先にコッチを優先すべきだ」
そう言って兵士の武器と荷物を漁る。
「趣味が悪いよ、リィール」
レイディーネが、何か言ったけど気にしない。
使える物は貰う。勘違いしないでほしい、これは戦利品というヤツだ、文句を言われる筋合いなどないのだ。
ベルトと片刃の片手剣、短剣を取って装備する。木刀で充分と思ったが用心して持っていく。
木刀を好むのは、力を浸透させやすいからだ。
木刀は持ち手を含めて全てが木材で、出来ているために可能な方法だ。
通常の剣では、ムラができてしまい重い一撃を受けると根元が折れてしまう。
ゴルに剣を、ゾルに槍を渡して使えるようになってもらう。
この二人は、集落では強い方だからさらに強くなってもらいたい。これからを考慮するなら当然だろう。
「これ貰って」
「良いんでヤスか?」
交互に話すのは癖のようだ。
「もちろん。せっかくの戦利品なんだ、持って使えるようになってみせろ!」
その言葉を受けて、二人は衝撃を受けたような顔をする。
「このゾル」
「このゴル」
「ボスの期待に応えられるように!」
「精進することを誓わせてもらいヤす!」
「お、おう……ガンバってくれ」
あれ?
なんだろう……気のせいかな?
盛大な勘違いされたような気がする。
…まぁ、大丈夫だろう。……たぶん。
「そういえば、弓を使うヤツは?」
「ああ、それはキュードのことでさぁ。アイツ隠れるのが上手くて、自分から出てきてもらわないと見つからないんでさぁ…」
「うん?そこに隠れてるのがそうか?」
オレが指差す方向、真後ろの木を指す。
「「「「え?」」」」
周りにいた者達の声が重なる。
「……よく分かりましたね…」
出てきたゴブリンは、分かりにくいが驚いた様子だった。
アームグリズリーの剥製を被っていて如何にもな狩人が現れた。
熊の被り物で顔の上半分が見えない。それにしても隠れるのに自信があったと見える。
「キュードって言ったか?お前さっきの戦いの時、オレを一瞬狙ったろ、それだけで判ったし、殺気は出ていなかったから放って置いたんだけどな」
「…それだけで気付いたのですか、すみませんでした。自分は、勇者であるあなたが信用出来なかった……裏切るかもしれないと思っていました。ですが、あなたは自分らを見捨てず、助けてくれた…それだけで充分です」
律儀というか義理堅いというか、なんだか羨望の眼差しを向けられている気がする。
「おいおい、そんだけで信用するのは、浅慮じゃあねぇか?」
「いいえ、そんなことありません。矢を放とうとしたら、自分は死んでいたはずです。気づいた上で自分を見逃した…あの状況下で、そんな判断を下せる事が出来るのは、心を冷静に保つ事が出来る強者のみ…」
キュードは誤解しているので訂正しておく。
「それは買い被りだよ、あの時のオレは少し怒ってた。冷静とは言い難い…。お前が無事だったのは、オレに対して殺気を込めていなかった、それだけのとるに足らない理由だ」
「そう……、ですか。あの、一つお願いがあるのですが聴いてもらえるでしょうか?」
改まった言い方だな、どうしたのだろうか?
「ん?ああ、なんだ言ってみてくれ」
大したことではないだろうと思ったオレ自身が恨めしいと感じる。
「自分をどうか、勇者様の配下の末席に加えてもらえないでしょうか?」
「はぁ?」
思わず間抜けた声を出してしまった。
いや、本当に何言ってんだこのゴブリンは……。
勇者だと分かった上で配下になりたいってことか?
これ容認したら、名実とともに魔物の勇者になるのではなかろうか?
そんなことを考えていると………。
「このドゥーイも、アナタ様の配下にさせてもらえないでしょうか」
「ゴルも!」
「ゾルも!」
芋ヅルのようにゾロゾロと…これは生き残っているゴブリン全員か?
跪いて臣下の礼をとる。
困って助けてもらおうと周りを見ると、レイディーネ、ヴァイク、パームがそれぞれ他人事だと思ってか笑っていやがる。
「わーった、わーったよ。配下にしてやるから落ち着け」
ゴブリン達全員感激のあまり声を出して喜ぶ。
人の話しを聴かない奴らだな、と思ったがドゥーイが皆を静かにさせる。
ドゥーイは気が利く。オレの副官にしてみようかと考えてしまった。
少し現実逃避したがどうしよう。
総勢六十のゴブリンが、勇者の配下になった。
こんな筈じゃあなかったんだけどなぁ。……と考えながら今日が終わる。