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勇者ゴブリンが征く!  作者: 啄木鳥 小鳥
一章
7/17

邂逅

 レイディーネとの話から六日。

 まだ考えが纏まっていない。

 そんな折に、ヴァイクの提案に乗り森のゴブリンの集落を回っていた。

 生まれた集落に未練はない。あまり溶け込めていなかったのだ仕方がない事ではあるのだが…。

 それでも仲良くなった者もいる。ゴルとゾルという双子のゴブリンと、ドゥーイという精霊使いのゴブリン。突然変異という訳ではないが、三人とも魔族レベルの知恵を持っている。

 付いていきたいと言われたがこの三人は、集落の狩猟の要だから断った。


「ボス~、戻って来たら他の集落の話を聴かせて下さいっさぁ」


 ドゥーイ、ゴルとゾルはパームを真似てかボスと呼ぶようになった。

 ドゥーイからの言葉を背に受けて、パームとヴァイクと伴に出発した。


「ヴァイク、次の集落までどのくらいだ?」


「ふむ、日が沈む前には着くだろう」


「ま、走ってないからそんなもんか」


 今の状態はヴァイクにとっては、駆け足程度でしかないだろう。頼めば跳ばしてくれるだろうが…あんなのは二度とゴメンだ。


「それでボスは、これからどーすんの?」


「どうって言われてもな」


「夜に精霊と話してたでしょ?」


「パーム、おまっ、聞いてたのか」


「フッフッフッ、スライムは睡眠しなくても大丈夫だからネ」


 マジかよ…。

 そんなの聴かないとわからないじゃねーか。

 ヴァイクも反応していたから聞いていたようだ。二人とも、寝た振りがうまいな。

 というよりは、オレが気づかなかっただけだな。考え込んでしまって周りが見えてなかった。気をつけなければ…。


「ふぅ~…。まだまだ考え中かな」


「そうなんだ。ボクとしては、このままボスと一緒がいいな~」


「我としても、そうなるのも良いと思うぞ」


 これは、二人なりの激励なのだろう。

 死ぬ前は魔物は悪と決めつけてたが、決めつけていた自分がバカバカしく思う。この二人の優しさは、心地好ささえ感じる。

 オレを魔物側に着くようにするための言葉かもしれない。

 だが二人は一度も嘘を吐いてはいない。嘘を吐けば波が出て感じる事が出来る。

 一緒か……。ああ、それはとても楽しいだろう。

 色々と考え続けていたがオレの心はすでに……。


 ザザーッとヴァイクが止まる。


「どうした?魔獣か?それなら……」


「違う。これは……血の臭い…だ」


 急に湧き出てくる嫌な予感。

 頭がまさかの判断に行き着いた。


「ヴァイク、パーム‼行くぞ!」


 オレの声に応じて、パームがオレの足をヴァイクに固定し、ヴァイクの全力疾走が風を切るかの如くで、臭いの元に急ぐ。



 ああ……嫌な予感とは当たってしまうもののようだ。


 臭いの元である集落に着いてすぐにそう感じてしまった。

 物の見事に集落のゴブリンは全員殺されていた。まだ生まれたばかりのゴブリンも殺られていた。

 この惨状を眼にして、すぐさま次の嫌な予感が出てきた。まだ間に合うだろうか?この集落は、攻められた地域に近かったのもあるだろうが……。

 死体はまだ固くなってはいないが時間は経っているだろう。


 元の集落にヴァイクの最速で急いで戻る。


 遠くで爆発音が聞こえた。時間にして二十分で集落から集落へとか抜けることができた。

 集落に到着すると、ドゥーイとゴルとゾル、他にも若いゴブリン達が人間の戦士と対峙していた。





  ■□■□■□





 リィールらが、集落に戻るまでの十五分前、全滅した集落を襲った者とは別の部隊の戦士から攻撃を受けていた。


 ドゥーイを中心に張った、地、水、風、鋼の属性を織り混ぜた高度の魔法結界で被害を最低に留めていた。

 しかし高度の魔法だけあって発動に時間をかけてしまい、犠牲は少なからずいる。

 結界を張ったが、安心はできていない。

 魔力切れの心配は少しあるが相手に四属性以上を使える者がいたら、結界は破られてしまう。


 魔法と精霊の属性は、基本となる地、水、火、風があり。その上に、鋼、氷、雷、空の上位があり。さらにその上にある光、闇の全部で十の属性がある。


 誰だろうと一種類だけでも持っている物だが、二種類以上になると数が激減する。

 そんな中で、四属性以上になると大魔法使いと呼ばれる。

 ……が、それは人間の話である。

 エルフ、魔族のデーモン、呪術士のドルイド、精霊に愛されている精霊使い、ドゥーイなどの奇跡的に持って生まれた者は、大魔法使いを超える強さになる。


 ドゥーイの結界も自身が元々持っている属性─地、鋼、水─だけでなく、精霊に足りない力─風─を借りて発動している。


 ドゥーイは結界を維持しながら考えている。


(どうする、このままだと魔力切れになった瞬間に終わってしまうっさぁ…。結界を抜けてボスを呼びに行きたいが、出たら狙い打ちされるっさぁ……。狩りに行った者が無事に戻るとも限らない、どうするっさぁ…)


 戦力的に絶望的なこの状況を打破しようと、考えるが良い案が浮かばない。


 一人の敵が結界の前に立ち、詠唱しだした。

 高度の結界だが、それを破るには色々あるが、早いのは、同数の属性の魔法をぶつけること、そして一種類による力のゴリ押し。


 力技で結界を破ってくると悟ったが、横に二人付いていて攻撃しようとしても返り討ちにされてしまう為に対処出来ない。


 嗤いながら見下す人間を忌々しく思いながら、防御に徹するドゥーイ。

 詠唱していた人間が突然崩れ落ちた。

 理由は簡単だ、鎧の隙間……露出していた首を矢で射ぬかれたからだ。

 ドゥーイは、すぐに誰が矢で射ぬいたかを理解する。


(キュードが、狩りに出ていた者が戻ってきたっさぁ!)


 キュードは、この集落の中で一の弓の使い手であり、ドゥーイ、ゴル、ゾルに続く実力者。無口で影が薄く常に音を出さず生活している為、本気で隠れると本人が出てこない限り見つからない。


 キュードの攻撃で前に出ていた者が倒れたのを見て動揺した所に、ゴルとゾルが先頭に立って他の狩りに行った者とともに突撃する。

 


 これが、リィールらが、戻って来る二分前に起きたことだ。




  ■□■□■□



「大丈夫か、お前ら!」


 大丈夫ではないのは分かっていたことだが、言わずにはいられない。


「ボ、ボス!戻ってきてくれたんっさぁ……ワイがいながら申し訳ないっさぁ…」


「そういうのは後だ、気を抜くな!」


 その言葉に気を引き締めるゴブリン達。


 ヴァイクに乗ったまま結界の前に移動してヴァイクから降りて、鎧を着た人間の戦士と対峙する。


「ゴブリン…か?…にしては肌の色が違うな。貴様、何者だ!」


 リーダーらしき男が問いかけてきた。


「ゴブリンだよ、突然変異しているけど。それで?これは、どういう訳だ……」


「なるほど変異種か…、訳?訳などない、魔物は悪。悪を倒すのに訳や理由が必要だとでも?」


 やっぱりか……聴いたオレがバカみたいだ。


「…光は、常に我が心に……」


「おい、そのゴブリンを殺ってとっとと帰るぞ」


 近くにいた兵士に命令して、終わらせようとする。

 命令された兵士は、袈裟斬りしようとして嗤って向かって来る。


「…我が征く道を、阻むモノを斬り結ぶ力を…レイディーネ!」


 聖句を詠み、力を引き出す。

 抜いた木刀に光を纏わせて斬られるより先に、兵士の体に木刀を横斬り一閃する。

 次の瞬間、兵士の体が二つに別れた。それを見た兵士の手足が止まる。止まった一瞬をついたゴブリンの攻撃にその数を減らす。


「バ、バカな!ひ、光属性だと?!魔物が、悪が、あ、ありえん…勇者は死んだ筈…きき、貴様!貴様は、何者だ?!」


「さっきも言ったけど、ゴブリンだよ」


「ふざけるな‼魔物が光を持つなど…」


「オレは、突然変異したゴブリン。生まれながら光属性を持っている、稀有なゴブリン。勘違いされても困るから言っておくけど、光属性を持つには光精霊の祝福が無ければ持つことは無い、オレが言ったこと理解できてるか?」


 兵士のリーダーは、困惑していた。


(そ、そそ、それが本当なら、目の前にいるゴ、ゴブリンは、勇、勇者ーー?!)


 答えに行き着いたリーダーは、半狂乱になりかけた。

 だが、そうなる前に、リィールに切り捨てられていた。


 残った兵士は、ヴァイクとパームによって全滅した。


 これが、ゴブリンになって初めての人間との邂逅となった。

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