光は、常に…
美味しいはずの肉を食べ終わったが、頭の中は考え続けていて終わらない。
焚き火に当たりながらアームグリズリーの腕の毛皮を適当な大きさにし腰巻きに変える。今まで、大きい葉を重ねて蔓で縛っていたが、これで見映えだけはほんの少し良くなった……はず。予備の腰巻きも作って余った大きい部分で、ローブのような物も作った。
贅沢を言うなら服の方が欲しいのだが。
日が沈み夜になった。
集落の者が寝静まったのを感じ、声を抑えて精霊を喚び出す。
「光は、常に我が心に…レイディーネ」
レイディーネを喚び出す聖句。
聖句が長ければ長いほど、その権能を自由に扱え、詠む種類によって技や魔法に変える事も出来る。
が、今回は話をするだけだから、短く纏める。
「そろそろ喚ぶと思っていたよ」
三対の翼を持つ小さい光の鳥の姿で現れたレイディーネ。普段なら光の珠だが、姿を出すことで今からの話が重要な事であるとの意思表示なのかもしれない。
「訊くけど、ヴァイクが言ってたこと…あれ本当か?これからオレはどうしたらいいんだ…」
「落ち着きな。そんな状態で考えても何も出ないよ。先ず、ヴァイクの言は本当だ」
やっぱり本当だったか。疑った訳ではないが信じ難かった。
「これからの事はキミが決める。そんな当たり前の事を聴かないでくれ。これからワタシが話をするがそれはただの独り言だ」
独り言?一体何の話だ?
「今から五十年位昔…先代の勇者がいた。その先代勇者は、体力や剣術などは、才能がないと言ってよかった。だがそいつは、魔法のセンスと天才的な頭の持ち主だった。奴は、光の勇者で在りながらその心と魂を腐らせ本当の魔に堕ちた最悪最低の糞野郎だ。ワタシは奴に封じられかけたがなんとか出し抜いた。オマケで奴に付いていた加護などもろもろを引っ剥がして殺した筈と思ったが、奴め魂と記憶を別のものに憑依させて、今も生きている」
先代勇者が魔に堕ちた?
そして何て言った?生きてるだと!?
さらに話がややこしくなった。
「そしてワタシは、奴の手が届かないところで力と才能そして何より何者にも負けない強い魂を持つ者を探した。そして、キミを見つけた」
「ならオレはレイディーネの期待を裏切ったな」
「フフッ、ワタシはそんなこと思っていないよ。何故ならキミの魂はその輝きを失ってはいないのだから」
「だったらオレは……」
「さっきも言ったけど、キミが、キミの魂と心に従うんだ。その輝きを失わず、魔に堕ちる事がない限りワタシはキミの傍に居るよ」
「なぁ、訊いていいか?」
「ん?なんだい」
「魔物に転生させる必要性あったのか?」
今までの話を聴くだけなら魔物になる必要性って何処にもないよな?
おい、今視線反らしたぞ‼
やっぱり必要性なかったのかよ。
良い話をしているかのようにしやがって、思い詰めてたのがバカバカしくなった。
「あ、あるに決まってるだろ!奴は、人間しかも男なら憑依出来るんだぞ。魔物なら憑依される事はないから大丈夫」
「だからってゴブリンはないだろ。他にも魔物の選択肢有ったろ」
「選択肢なんてなかったの。別にいいでしょ、奴はワタシの力を少し奪ったから光魔法使えるから好都合でしょ」
確かにオレは突然変異して光属性は効かないから、都合の良い話だけども、憑依先の力使えるなら意味ねーよな。
「だったら、魔王に声かけてみたら?協力してくれるかもしれないよ?」
「レイディーネは、協力してくれると思うのか?」
「今の状態が戦争なら魔王は攻められているんだよ。それに対し黙っているとは思えないからね」
大陸の中心辺りが人と魔物の境界、二年前にその付近に住む魔物は、討たれたか奴隷にされている可能性がある。奴隷といっても、亜人か魔族に限られる。亜人は手先が器用だから反抗しないなら殺されず、働かされているだろう。魔族は知恵をつけたといっても魔物だから容赦なく殺されているかもしれない。
動きがないのは、一度の侵略でかなり消耗しているかもな。決め付けはよくないが、準備期間ならそろそろ攻めて来る筈。
一年以上準備しているなら兵の練度が上がるのは必然。
いくら魔物の個々の力強くても数で敗ける。
このまま見過ごすようなマネは……。
「色々と言ったけど、決めるのはキミだ。のんびり過ごすも、戦うも、キミの……リィールの意志。ワタシは力を貸そうリィールが、その意志を貫く為に……」
「…初めて、だな。名前で呼んだの…」
「フフッ、そうだったかな?長話をしちゃったね。そろそろ戻るね、ちゃんと寝ないといい考えは浮かばないよ」
そう言ってレイディーネは、オレの魂の中に戻っていった。
まだモヤモヤが全て消えた訳ではないが、モヤが晴れた気分になる。
レイディーネの忠言に従い、草のベッドに身を預けて目を閉じる。良い考えが浮かぶように…。