プロローグ~勇者はポックリと~
オレは勇者だ。
そんな勇者なオレは、相棒の狼の背に跨り森の中を駆け抜けている。一時間近く森を駆けて目的地の近くまで来ていた。
「ボス~。近くに沢山いる~」
後ろにいた幼なじみ兼戦友が、小声で教えてくれた。
小声で、「分かった」っと、返す。
息を潜め、足音を殺し目的に近づく。
木々が開けた場所で人間の戦士の集団が屯していた。
戦友に合図を送りタイミングを見計らう。背中にある片刃の片手剣に手を伸ばして、掴む。
十人以上の戦士の集団が休憩中だったのは、ラッキーだ。
相棒狼の腹を足で軽く突き、跳びだせ!っと合図を出す。
人間では追えない速さで、無防備な戦士の集団に突撃した。
相棒は、腰を下ろしていた者の喉を噛み砕く。戦友は、戦士の一人の口から侵入して体を操り、同士討ちを演じている。オレは、抜いた片手剣に光を纏わせ相手を両断する。
「ひ、退けー⁉あの光は、光精霊の輝きだ。や、奴が、あのゴブリンが裏切りの勇者…」
隊長と思われる男が撤退指示を出し、背を向けて逃げようとして最後の言葉を紡ぐ前に、その裏切りの勇者に首を切り落とされて絶命した。
強襲のおかげで一分も掛からずに戦闘と言うなの蹂躙が終わった。
そう、オレは勇者。
死んでゴブリンの身体に生まれ変わった。光の勇者、その人なのである。
まず、ゴブリンになる前の段階。
まだ人間だった頃の話…。
■□■□■
エルラント大陸。
その広大な土地の東方の農村で生まれたオレは、生まれてすぐに光精霊の祝福を受けて勇者として生きることを運命付けられた。
光精霊は、属性を持つ精霊の中で最上位に位置し、精霊の主とも呼ばれる。その力を振るうには祝福を受けた者のみ。
そして、祝福を受けるのは一人だけ。祝福を受けたものが死なない限り次が選ばれることはない。
選ばれてしまったオレは、一流の戦士として鍛え抜かれ一騎当千の強者になった。
十五歳を迎え、大陸の西方にいる魔物、あるいは魔族と呼ばれる者たちの王、魔王。
魔王は光精霊と対となる精霊、闇精霊の祝福を受けた者。
自分と同じく祝福を受け、運命に縛られた似た者同士、を倒すのだと幼いころからウンザリするほど聞かされていた。
顔も知らない奴を倒しに行くのは、どうなのだろうか?、と疑問に思ったこともあった。
魔王が表立って悪さをしている、なんて聞いたことがないのも理由でもあった。
そんな事を言えることもなくオレは旅立った。
旅立って五日ほどたった時、オレは流行り病に罹ってしまった。
精霊の祝福や加護に病気が適応外だったことに呆れた。
そして勇者として何一つ果たすことが出来なかった事に心を悔しさで覆いながらこの世をポックリと去ることになった。