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1弟馬鹿と妹馬鹿

一話が長かったり短かったりします。

 時は昔。舞台は西方。

 王が国を治め、臣が職務に陰謀にと王宮を忙しく立ち回り。

 そして彼らの傍らで華やぐ美しい貴婦人達に、名高い騎士達が決闘の勝利を誓う。

 そんな古き良き騎士物語の中で空騒ぐ――馬鹿二人の一幕。



 レームブルック王国、ヴェルナー騎士家女主人名代シルヴィアは、六つ年下の弟ルイスを、自分の息子のようにとても――否。

 とてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとてもとても愛している。


「――まぁ、騎士ヘクター様」

「っ! ヴェルナー家の女狐!」


 ヴェルナー家の嫡子であった両親が流行病で亡くなってしまって以来、シルヴィアは祖父母と共に残されてしまった幼いルイスを育て、そして愛してきた。

 当然その幸せを望む気持ちは、この世の誰よりも強いものだと自負している。


「このような所――我が愛する弟ルイスと、その愛しき方マリアンさんが散策をなさっているすぐ傍の木の陰に、完全武装でお隠れになっておられるなんて、何事でしょうか? わたくし、もしや暴漢か痴漢かと思ってしまいましたわ」

「誰が!!」

「声が大きい」

「ぐぐっ――誰が痴漢かっ。私は愛するマリアンが泣く事の無いよう、密かに守っているのだっ」

「あら、マリアンさんに脅威が迫るなど考えられません。何しろマリアンさんと今ご一緒している我が弟ルイスは、この国一、いいえ、この世界一の騎士となる素質十分の、眉目秀麗文武両道性格明朗の、どんな絵物語の主役も敵わない、素晴らしき素晴らしき素晴らしき素晴らしき王宮騎士ですもの。覗き痴漢まがいの熊顔親父とは、比べ物にならないほど頼りになりますわ」

「誰が熊親父か! ――ああっ、お前の妄言に足を止めたせいで、マリアン達が行ってしまった!」

「ほほほ、足止め成功ですわね」


 それゆえシルヴィアは、ルイスの幸せを邪魔する者と戦う。


「覗き親父は、とっととお仕事におもどりあそばせ」

「だから私は覗きではない! そして今日は非番だ! 大体お前に人の事が言えるかシルヴィア・ヴェルナー! お前とて弟の逢瀬を覗いているではないか!」

「あら、わたしくは偶々ですわ。本日偶・々、王妃様のお召しで登城した帰りに、我が愛しいルイスとマリアンさん、そしてその二人を引き裂かんとする熊親父を馬車の中から見かけましたの。どうせマリアンさんを家から付けて来た、貴方様と一緒にしないで下さいませ」

「ぬぐぐっ!!」

「大体わたくし、貴方様にお前、などとぞんざいに呼びかけられる筋合いはございませんのよ。年増の行き遅れとはいえ、これでも淑女(レディ)ですの。それとも誉れ高きレームブルック王国の英雄様は、未婚女性への礼儀などどうでも良いとお思いかしら? ――戦場に長く居過ぎて礼儀もお忘れになったのかしら? 本当に野蛮人ですわね?」

「っ!! っ!! っ!! ~~~~し、失礼したっ!! そこは、詫びようっ!!」

「まぁわたくしも、ルイスの幸せを邪魔する貴方様にはらう礼儀など、一片たりとも持ち合わせてはございませんけどね」

「こ~~~~っの!! あ・い・か・わ・ら・ず、無駄口に毒を含ませるのが好きだなこの女狐!」

「ほほほほ」


 そんなシルヴィアの現在の天敵は、目の前で歯噛みする熊男。

 ――否。黒目黒髪を持つ熊のような大男にして、レームブルックの英雄と謳われる――否、恐れられる歴戦の騎士、ヘクター・ブランドンだった。

 

「ルイスの幸せを邪魔する熊男などに、このシルヴィア容赦はいたしませぬ」

「私とてマリアンの幸せを考えている! マリアンは結婚などせず、実家にいるのが幸せなのだ!」


 シルヴィアは、ルイスがマリアンを恋人として紹介するために屋敷に連れて来た際、ヘクターとも出会った。

 ヘクターがマリアンを連れ戻そうと、突然ヴェルナー家の屋敷に乗り込んで来たからだ。


「それではルイスが失恋してしまうではありませんか。わたくしのかわいいかわいいかわいいかわいいルイスを泣かせるような真似は、断じて許しませんわよ」

「私とて、かわいいかわいいかわいいかわいいマリアンの笑顔を守るためならばなんでもする!」

「今笑顔を曇らせるような真似を、なさっておられるではございませぬか」

「お前! ――いや、貴女に何が判る!」


 それ以来シルヴィアとヘクターは、若い恋人達を挟んで不倶戴天の敵となった。

 ルイスの幸せを願うシルヴィアは、ルイスとマリアンの恋路を全力で応援し。

 マリアンの幸せを願うヘクターは、逆にルイスとマリアンの恋路を全力で邪魔しようとしていたからだ。


「……」

「……」


 ――そこに多少の事情がある、という事は、既にシルヴィアは掴んでいる。

 王宮に出入りを許された、淑女の情報網は伊達ではない。


「……ほほほほ。貴方様のお気持ちなんて、ルイスの幸せに比べたら焼き過ぎて消炭になったパン以上に、どうでも良いお話ですわ」

「~~~~~~~そうだな! 貴女ならそう言うと思った!!」


 だがシルヴィアは退かない。

 シルヴィアにとって最優先されるべきは愛する(ルイス)の幸せであり、それ以外はどうでも良いからだ。


「わたくしは全力で、ルイスの恋を応援しますわ。ルイスの幸せのために!」

「私は全力で、マリアンの恋を阻止させてもらう! それがマリアンのためだ!」


 そういう訳で今日も、愛する弟と妹のため、シルヴィアとヘクターは戦うのだった。

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