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撮影2

 面通りの挨拶と雑談が終わり、いよいよ撮影を始めるとのことで俺たちは外に出た。

 この絢爛高校は異常に広いので撮影する所も多いとのことだ。


「では、この辺りから始めましょうか」


 そう言って事務員さんが立ち止まった。

 そして何やらカメラマンさんに、こしょこしょと耳打ちをしている。


 ……とても怪しい。俺に聞かれたくない事でもあるのか?

 事務員さんの不審な行動に疑問を抱いて見ていると、その視線に気づいたのか事務員さんはコホンと一つ咳払いをして撮影の開始を告げた。


「で、では始めましょうか。一応レイアウトは既にこちらで考えていますのでポーズ等の指示はこちらで出しますので。もちろん更に良いポーズや構図が有れば言ってください。そちらの写真を採用する事もありますので」


 どうやら基本的な構図は決められているようで、俺はその構図に従ってポーズを取ったり、笑顔を振り撒いたりするらしい。

 ……笑顔か、引きつらないといいな。

 そして事務員さんの指示のもと撮影が始まった。


「では秦野さん、くるっと回って笑顔をお願いします」

「……くるっと?」

「はい、くるっと」

「回る?」

「回って下さい」


 ……えっ? 何のために?


「回る必要ないんじゃ……」

「あります! すごくあります!」


 俺が疑問を言うと事務員さんは勢い良く、回る必要性と重要性を言ってきた。


「こう……、くるっと回るじゃ無いですか?」


 事務員さんがお手本を見せるようにその場でくるりと回って見せる。


「はぁ……」

「そうするとスカートが回った勢いで広がるじゃないですか?」

「…………」

「躍動感が出た上に、見えそうで見えないチラリズムの効果が加わり最強じゃないですか?」


 ……最強?


 俺が、この人何言っているんだろうと考えていると、事務員さんは俺に"ねぇ、そう思いますよね?"と同意を求める笑顔を向けてくる。カメラマンさんに顔を向けると少し困った顔をしていた。

 おそらく、アイドルの写真集等では良いけど学校案内のパンフレットにはどうだろうと思っているんだろう。


 今回の様な場合だったら、パンフレットのコンセプトやデザインなんかは学校側が決めるからカメラマンさんはとやかく言う事を控えているんだろう、くそぅ……、せっかくの常識人が……。


「さぁ元気良く回りましょう!」


 まだ回る意味がわかってないが、取り敢えず回って見せる。


「良い! ビューティフォーですよ!」


 ……最後に笑顔か。

 回った後にニッコリと笑顔を作る。


「良い笑顔ですが、もっと輝くような笑顔お願いします! もう一度!」


 リテイク入りました。

 どうしよう一枚目で既に疲れて来たんだが……。

 その後、数度のリテイクを経て一枚目の写真を撮り終えた。

 これ、もしかしたら時間がすごくかかるかもしれない……。

 頑張ろう……。


「今度はここで撮りましょう」


 事務員さんが指定した場所は大きな噴水がある場所だった。


「では富樫さん、今度はこの噴水と後ろにある第一校舎を背景に撮影をお願いします。秦野さんも宜しくお願いしますね」

「……また回るんですか?」

「えっ? 大丈夫ですよ今度は回りませんから」


 俺はその言葉を聞きホッと息を吐いた。

 別に撮る度に回る訳じゃないらしい。


「もしかして回りたかったですか? やっぱり回っときますか?」

「さ! 早く撮影しましょう」

「えっ、あの……?」

「早くポーズの指定お願いします」

「はぁ、それでは……、今度はウインクしながら横ピースお願いします」


 …………おかしいな、又変な指定が来たような。


「秦野さん、ウインクしながら横ピースですよ」

「横ピース……」

「はい、横ピースです」


 そう言いながら手本を見せる様に事務員さんはウインクをしながらビシッと横ピースを決める。

 すごい決まっている、……では無く。


「あの、これって学校のパンフレットなんですよね?」


 正気を問う声が聞こえて来た。


 そうそれだ! 度々沸き上がる避けて通れない疑問だ。何度スルーしてもまた出会う驚異のエンカウント率である。

 俺と同じその疑問を抱いていたカメラマンさんが的確な質問をしてくれた。


「そうですよ、何もおかしな事はありませんが……」


 しかし事務員は当たり前だろうと返事を返してきた。まるでこちらがおかしいと言わんばかりである。

 その返事を聞きカメラマンの富樫さんは納得したように頷きポツリと呟いた。


「そうですか……、最近の学校案内は変わりましたね……」

「去年の学校案内は普通でしたけどね!」


 思春期から大分と年が離れたせいか、事務員の言葉に容易く納得したカメラマンに思わず突っ込んでしまった。

 と言うか簡単に信じ過ぎだ!


「まぁ良いじゃ無いですか。秦野さんお願いします」

「え〜」

「大丈夫です! みんな喜びます!」


 そんな所は誰も心配していない。

 しかしながら仕方がないので渋々ポーズをとる。

 俺のポーズに合わせて事務員さんが元気良く声を出す。


「横ピース!」

「……」

「秦野さん! 横ピース!」


 ……俺に言えと!

 再度、要求するように言葉が放たれる。


「横ピース!」


 くっ、まさか言うまで終わらないのか……。


「よ、よこピ〜ス」


 俺がウインクしながらポーズを取った時、シャッターを切る音が聞こえた。

 何故だかその音がとても虚しく聞こえた。

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