混浴2
奇声をあげた後、舞澄さんはズズズッとお湯の中にゆっくり沈んでいった。
まぁ、裸を見られていたんだから恥ずかしいのもわかる。
濁り湯ではないのでその姿は見えてはいるんだが……。
泡が出てきた、と思ったら舞澄さんがお湯から顔を出してきた。
「……見た?」
「何を?」
「えっ?」
「俺が何を見たかハッキリと言って貰わないとわからないんだけど」
「何をって……、その……私のはだ……ブクブク」
そこまで言って舞澄さんは再度お湯の中に沈んでいく。どうやら耐えきれなかったらしい。
……いや、違うよ? 別に言葉責めして恥ずかしがる舞澄さんを見たいとかそう言う事じゃ無いんだよ。
ただ何を見たか言って貰わないと、言葉のすれ違いが起こっちゃうから確かめる必要があると思っただけだよ。他意は無いよ?
少ししてから舞澄さんの顔が上がってくる。しかしそんな入り方していたら逆上せないか?
舞澄さんはどことなく恨みがましい目でこちらを見てくる。
「なんで声を掛けてくれなかったのぉ……」
なんで? ……なんでと言われても、ねぇ?
「気づかなかったんだよ」
「絶対嘘だぁー、あんなに冷静に挨拶してきたくせに絶対気づいてたよー」
「ははっ、まさか」
「うぅー」
「まぁまぁ、でも舞澄さん今結構貴重な時間過ごしてると思うよ」
「え?」
「自分で言うのも何だけど、男と一緒に温泉に入る事なんてめったに無いよ」
「そ、そう言えば私男の子とお風呂入ってる!」
ようやく落ち着いてきて事態を把握した舞澄さんだったが俺の言葉でまた慌てだして”あわわ はわわ”と
変な動きをし始めた。お湯の中で動いているので水飛沫が飛んでくるので正直鬱陶しいのだが……、慌てる舞澄さんは可愛らしいのでプラマイゼロである。しかも舞澄さんが動く度にそこはかとなく色々な部分がチラリチラリと見えるので少しエロイ……、おそらくコレがチラリズムというヤツであろう。名付けた人は凄いと思う。
しかし残念な事にここは温泉である。温泉という物は静かに入る物だ……。
「舞澄さんあんまり暴れたらダメだよ」
「えっ? あっ! ごめんなさい……」
「ホラ、こっちに来てゆっくり入ろう」
俺はそう言い舞澄さんを自分の隣に呼ぶ。
決して若い女の子を侍らせて温泉に浸かりたいと言う思惑は無い。
「そ、そんな……、でも……うぅ……」
舞澄さんの口からは躊躇いの言葉が少しだけ出てくるが、本当に少しだけだった。
その少しの言葉を言い終わる前に身体は行動を起こし、おずおずとこちらに近寄ってきていた。
当然だろう、前世的に考えると美少女に隣で一緒に浸かろうと誘いを受けているのだ、行かない手は無い!
しかしここで俺が”口では拒んでも身体は正直だな”とか言ったらセクハラになるんだろうか……?
まぁ俺は紳士だから言わないけどね!
隣に来た舞澄さんはモジモジとしているが視線だけはチラチラと俺の身体を見ている。
気づかれていないと思っているのかも知れないが案外わかるものである。
もちろん俺が気づいている事は教えるがな!
「舞澄さーんどこ見てるのかなー」
「ひゃっ! なななな何のことかな?」
「いやーチラチラとこっちを見てくるからどこ見てるのかなーと」
「違うよ! 別に琥珀さんの身体を見てたんじゃないよ! 景色を見てたんだよ! 別に綺麗な肌してるなーとか思ってないよ!」
……見てなかったら肌の綺麗さなんかわからないよね? と追い打ちを掛けようとした所で入り口の付近から声がしてきた。どうやら他のお客さんが入ってきたみたいだ。舞澄さんもその声に気づいたみたいで少し移動して入り口の方を確認していた。
「うわぁー凄い景色ねー」
「はい、昨日のお風呂から見える景色も素晴らしかったですがこちらから見える景色は格別ですね」
「すすすごい」
「ふふっ、そうでしょう。ここから見える景色はこの宿の一番の見所ですから」
……入ってきたのは顔見知りだった。さてどうするかなと俺が考えていると横から波紋が広がっていることに気がついた。なんだろうと横、舞澄さんの方を見ると、そこには暖かいお湯に浸かっているはずなのに顔を真っ青にした舞澄さんが小刻みに震えて小声で何かを呟いていた。その呟きを聞いてみると
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ」
……ヤバイと言うことはとてもわかった。
「ま、舞澄さん落ち着いて……」
俺が声を掛けると、舞澄さんは青くした顔をし目に涙を溜めていた。
……どんだけトラウマ植え付けられてるんだ。
「わ、私今日が命日になるかもしれない……」
「いやいや! 取り敢えず落ち着いて」
「で、でもこんな所見つかったら命無いよ!」
「取り敢えず、この場所は入口から死角になってるから顔を出さなかったらわからないよ」
俺はオブジェクトとして拝聴されている岩をポンポンと叩きながら舞澄さんに言う。
「この岩で舞澄さんも俺に気付かなかったでしょ」
「それは……、そうだけど」
「一応、舞澄さんはマリアにばれない様に俺の後ろにいて」
「う、うん。ありがとう」
そう言うと舞澄さんは俺の後ろに隠れるように移動した。
さて、向こうの様子はどうかなと耳をすまして会話を聞く。
「誰もいないわね」
「まぁプレオープンで本格的に始まってはいませんので空いているんですよ」
俺の母親と舞澄母の会話だ。これを聞く限り大丈夫そうだ。
俺は少し安心したがその安心もマリアの言葉を聞く迄だった。
「洋子様、あちらの岩の向こうにお二人ほどいらっしゃるみたいですよ。気配を感じます」
……ちょっとあの人おかしいな。




