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温泉

 部屋で一休みした後に、俺達は早速とばかりに温泉を堪能しようと、着替えの浴衣を持って部屋を出た。今から入ろうとしているのは混浴では無く、男女で別れている方の温泉である。母親達は温泉の効用に美容や若返りが有ると聞いて受かれているが、俺からすれば驚異の若作りなのでこれ以上若く見えてどうするのか? と思わなくも無いのだが、前世の世界にしろ、こちらの世界にしろ女性と言うものは美を求めるものなのだと深く思い知った。


 しかし温泉って大概、美容とか若返りの効用持つな。……ここの温泉で俺のお肌が更に美しくなったらどうなってしまうのか? そう! さらにちやほやされることになる! とても良い事である。


 と言うわけでメンバー揃って浴場に来た。そこで男女分かれるときに注意を促された。


「琥珀様」

「うん? 何」

「覗かれないようにお気をつけ下さい」

「え、ああ、うん。でもそんな人いないんじゃないかな?」


 確かに結構お客さんが居たから気になるかも知らないけど、プレオープンだからほとんど招待客だろうから旅館に迷惑を掛けるような事はしないんじゃないかな?


「確かにいないかも知れません、しかし! いるかも知れないのです!」

「そうよー、琥珀君。どんな立派な人でも魔が差すってことが有るんだから、気を付けるに超したこと無いんだから」

「き、気を付けてください」


 マリアに続いて母親と菊水さんからも気をつけるように言われてしまった。


「あー、うん。わかった、気を付けるよ」


 ……なんだろう覗かれそうなポイントに行かないようにしたら良いのだろうか? それとも覗きカメラに注意すればいいんだろうか?


 俺は頭を悩ませながら、一人男湯の方へ入って行く。

 脱衣所は新築なだけあって、とても綺麗で大きかった。おもわず、”うおっ! 大きい”と独り言を言ってしまうぐらいである。……しかし、この世界の男子の比率から言ってこの規模の脱衣所がフルに活躍する時が有るのだろうか? 


 うーむ、良い旅館だと広まれば国中から集まってくるかな? 観光地だし……。


 とは言え、今のところは俺一人らしく誰の姿も見えない。俺は適当な棚の前に行き服を脱いでいく。

 上の服を脱いで改めて自分の身体を見てみる。……なんというか華奢(きゃしゃ)である。全体的に細く、筋肉が付いている様には見えない。


 毎日ランニングと筋トレしているのにな……。少し落ち込んでしまう、しかし筋肉は付いていないように見えるのだが、確かに力は以前よりも付いているのは、日々の生活で実感できている。だから良いと言えば良いのだが……、個人的にはもう少し筋肉が付いて欲しいと思ってしまう。


 着ている物を全て脱ぎ終えると、二の腕の辺りをさすりながら洗面所の方へ歩いていく。洗面所には大きめの鏡が有るので、そこでポーズを取ってみる。


「むっ」


 ポーズを変える。


「むむっ」


 うーむ、なんだろうか? 男がポーズを決めていると言うよりも、少女がポーズを決めているように見えてしまう……。

 ……俺の男らしさは何処にいったのだろうか? 少しで良いので戻ってきて欲しい……。


 その後も色々とポーズを取ってみるが、勇ましいポーズよりも、グラビアアイドルが取るポーズをした方が似合っていた事に気づいて止めることにした……。なんでそんなポーズを取ってしまったのかは謎だが、これも温泉の魔力という物だろう……、恐ろしいな……。


 俺が気を取り直し、さあ温泉に入ろうと歩き出そうとしたときである。入り口のドアが開いた。

 おや、他の男性客もいたんだと俺が思い、入り口の方へ目を向けるとちょうど脱衣所に入ってくる客と目があった。


 目が合った相手、……その相手はサイドテールにしているのだが、いつもは巻髪にでもしているのか緩やかなロールが掛かっている髪を持っており、その髪色は金色だった。

 加えて言うなら、オホホと笑いそうな人でもある。さらに言うならエセお嬢様っぽい感じの人である。


 …………いや、うん。まぁなんだ、舞澄さんなんだけど。


 その舞澄さんは、俺と目が合うと何が起こっているのかわかっていないみたいに固まっている。

 そして視線が下に動くと、瞬間真っ赤になり、酸欠みたいに口をパクパクと開け閉めした。


 うん、そりゃそうだよね。俺さっきまでマッパでポーズとってたんだから、視線を下げると当然の如くあるよね……。どうしよう、ラッキースケベをされてしまった……。ここはいっちょ覗かれたから、様式美としてキャーとでも叫ぶべきなのか?


「キャーーーーーーーー!!!」


 等と考えていると、お先にとばかりに舞澄さんが叫んでしまった。


 ……なんでだよ! ここは俺が叫ぶ所だろ!


「どうしました!」


 その叫び声が男湯から聞こえたせいなのか、バスタオルを身体に巻き付けたマリアが駆けつけてきた。

 そして俺と舞澄さんを見て、状況を理解したのか舞澄さんへ無表情でありながら怒りを感じさせる言葉で言い放った。


「この覗き魔が……!」

「わきゃあ!」


 そして一瞬で舞澄さんを制圧した。

 まぁ、舞澄さんも覗いたと言うよりも間違えて入って来たみたいだし、大事にすることも無いだろう。

 そんなことを思いながら、俺はいそいそと服を着た。

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