旅行2
車を走らせ数時間、途中高速のサービスエリアで休憩を取りながら旅行先に着いた。
取り敢えず、旅館に行く前に観光をする予定なので、あらかじめ雑誌で調べていたこの地方の名所に向かった。
今回の旅行では、珍しいことにズボンを履いている人率が高く、マリアもパンツスーツ、菊水さんはジーパンにロングTシャツ、そして俺も菊水さんと同じ様にジーパンにロングカットソーという出で立ちである。旅行用にズボンを買ったのである。ようやくな! その俺達の格好が珍しいのか、もしくは女三人に男一人が珍しいのかどうにも人目を集めてしまう。
……観光名所以上に。
周りの人も名所に来ているんだから、名所を見ろよ! 何で観光に来て観光されなければいけないのか……、悲しくなるわ!
「ほらー、琥珀君もあんまり気にしないで、あっちに名物の玉こんにゃくが売ってるよ」
「よし食べよう!」
「それでは私が買ってきます。こんにゃく以外にも簡単に食べられる物も買ってきますね」
「おおおお手伝いします……」
マリアと菊水さんが軽食を買いに行くと、母親もそれじゃあと動き出した。
「私は飲み物を買ってくるわね……、主にアルコールを!」
そう言い放ち走っていった。
…………もう少し落ち着いた行動を取ってくれないだろうか? 年相応に。 うん無理だね知ってた。
まぁ見た目は若いし行けるか? いやしかし……、うーん。
俺がそんなくだらないことを考えている間に、マリアと菊水さんがご当地グルメをいくつか手に入れて戻って来た。
手には玉こんにゃくに、メンチカツ、手羽先に焼きそば等があった。結構な量かなとも思ったが一つ一つがそれほど大きく無いので軽くお腹がふくれる位か。いつの間にか飲み物を手に入れて戻って来ていた母親は、既に旨そうに食べながら一杯やっていた。オノレ……。
そう言えば、以前菊水さんから貰った小説の中で、男があーんをしてあげる場面が有ったな……、と思い出しちょっとしたイタズラ気分で菊水さんにやってみた。
「菊水さん菊水さん」
「ひゃ! ええと、な、何でしょうか?」
俺の呼び掛けにビクリと身体を震わせ、こちらを向く菊水さんに串に刺さった玉こんにゃくを菊水さんの口元に差し出し、
「あーん」
と言ってみた。
菊水さんは突然の俺の行動に少し固まっていたが、直ぐに気を取り直し、初めて見るキリッとした顔をして、
「いただきます」
と言った。
……どもっていない? 俺が予想外の反応に驚いている間に菊水さんは玉こんにゃくを食べるために口を少し開き近づけて来た。開いた口から、赤く形の良い舌を出し串の一番先にある玉こんにゃくをその舌の上に乗せ、その後にカプリとかじりつき半分ほどを口の中に入れた。
「う……、ん、ふぁ……」
どこか悩ましげな声を出しながら食べ、残りの半分を再度口に入れる。
「はむ、んんっ……、あん」
……おかしいな? 玉こんにゃく食べてるだけなのになんだかエロイ。
そうして菊水さんは玉こんにゃくを食べ終えると、いつも目線を合わせないのに、今回は妙にトロンとした目をこちらに向けてきた。しかしその体は力が入らないのかぐったりとしている。
「ごひそうしゃまです〜、とっひぇもおいしかったです〜」
呂律が回っていない。
……おかしいな? では無く、明らかにおかしい。こんにゃく食べただけなのに。この世界のあーんにはこんな威力があるのか、初めてやったから知らなかったな……。菊水さんの小説でもこんな事になっていなかったはずなんだけど。
まぁ取り敢えず俺も食べるかな、と思った時に肩をトントンとつつかれた。そこには当然マリアと母親がおり、マリアは無表情、母親は期待に満ちた表情でこちらにご当地グルメを渡してきた。当然の事ながら二人にもあーんをした。凄く評判が良かった。
三人にあーんをした後、観光を再開しこの地方でしか咲かない七色に変化する花をつける木などを見に行った。そんな花が満開に咲いている状況は圧巻の一言で、雑誌に書いてあった風光明媚と言う言葉に嘘は無かった。
しかしこの幻想的な場所でさえ、花よりもこちらを見ている人が結構な割合でいた。……いや、確かに前世でもお花見やっても花を見ずに食べたり飲んだりしていたけど……。
まぁいいか、別に今に始まった事じゃないし。
そんな観光を終え、今日泊まる旅館に向かった。
着いた旅館はニューオープンなだけあって綺麗で大きい。
「おー良い旅館ぽいわね」
「そうだね、これは温泉も楽しみ」
母親と旅館の評価をしながら入ると中居さんが迎えてくれた。受付でチェックインを済ませると部屋に案内され、温泉や旅館の説明をしてくれた。
温泉は男女別に別れており内風呂と露天風呂があるとの事だった。しかしそれとは別に一番良い景色が眺める露天風呂は混浴になっているとの事で、気を付けて下さいとの事だった。
そう言えば、部屋に向かう途中で他の宿泊客と会ったな……。
プレオープンだから、おそらく招待客だろう。すれ違ったお客さんは大柄な女性で百九十センチ近かったので印象深かった。
説明を受けていると、別の中居さんがお茶とお菓子を持ってきてくれたので、皆で一息つきゆっくりした。
さあ温泉だ!




