お礼の品
「ああ、ここにいる理由でしたね。お昼休みでご飯を食べた帰りでして、秦野さんを偶然見つけたのでちょっと尾行を……、では無くお礼を言おうと思いまして」
「お礼?」
「お店が有名になったのは秦野さんが通ってくれたおかげですので」
「いや、そんなパンが美味しいからですよ」
「勿論パンの味は誇れる物ですが、それだけで有名店になれるわけじゃありません。話題性がいるんです。秦野さんはそれをお店にもたらしてくれました」
そこまで言って貰えるのは嬉しいが、パン買ってただけなので大変心苦しい……、お店の宣伝なんかしてないし……。
そんな俺の心中を知らないとばかりに店員さんは話を続ける。
「それで少しばかりのお礼として、これを……」
店員さんはそう言い、封筒にを渡してくる。
「今度会った時にでもお渡ししようと思って、持っていたんです」
「そんな! 悪いですよ……」
「いえいえ、本当に気持ちだけの品ですので」
まぁくれると言うならありがたく戴きますが、ありがとうございます! 態度は恐縮してる風を装うけど貰える物は貰いますよ。そんな俺に店員さんは封筒を渡してくる。
「ではでは、私はお店に戻らなければいけませんので」
店員さんは封筒を渡した後、そう言い顔で去って行った。
俺はそれを見送ると、渡された封筒を見る。
ペラッペラである。一体何が入っているのだろう、この薄さでこのペラペラ具合だから素材は紙だと思う。
ドキドキしながら封をあける。
商品券なら嬉しいな、パン屋の割引券でもありがたい、意表をついて映画のチケットなんて物だったり……。
色々な物を思い浮かべ、想いを馳せながら中身を取り出す。
取り出した物は白い紙で、どうやら裏側の様だ。しかし裏側から見ても切り取り線が有るのがわかる。……どうやら五枚綴りの物が三セット入っている様だ。俺の頭に少し嫌な予感がよぎりながら、表側を確認する。確認した紙には、こう書かれていた。
"商店街福引券五枚で一回できます"と……。
…………福引券渡してんじゃねぇよ!
思わず叫び出しそうになったが、今いる場所を思い出して何とか踏みとどまる。
……くっ、少し期待してしまった分、ガッカリだった時の落差が凄い。あのパン屋はなぜお礼に福引券を渡そうと考えたのか……、余ってたとかじゃ無いよな、お店にあったもの適当に持って来たのか。
いや、物がどうあれ貰った物だし、ありがたく感謝して福引しに行くか……。そう自分に言い聞かせ俺は公園を出て福引きをしに商店街へ向かった。
やって来ました商店街。
この商店街はわりかし賑わっており、食べ歩きできる美味しい物が一杯ある。俺は福引会場まで歩いて行く途中で、飲み物やから揚げ等、ついつい引き寄せられ買ってしまった。
……とても美味しかった。
福引会場に着くと、想像しているよりも大きな会場で人も大勢いた。俺は一先ず景品が何か確認して見た。大きなパネルにはこれまた大きく景品の一覧が載っており、その中でも三位からは一際目立つ様に書かれていた。
ちなみに三位は商店街の人気和菓子店から高級和菓子の詰め合わせ、二位も商店街にある中華料理店のお食事券一万ジェニー、そして一位は今度新規開業する旅館のプレオープン宿泊券ご家族四名様分。
ほうほう、と景品の一覧を見ながら福引をするために列に並ぶ。
結構な人数がいるのだが、まだ大当たりが出ていないらしく、ほとんどの人がポケットティッシュや、駄菓子を貰っていた。
俺も特に当たるとは思っていないが、できる事なら高級和菓子詰め合わせやお食事券が戴きたい! 一万ジェニーって結構食べれるよね。
そして、とうとう俺の番が来た。受付の人前に行き券を渡す。
「あらあら、珍しくかわい子ちゃんが来たね」
受付のおばさんは俺を見て、そんな感想を漏らしながら券を受け取った。そして券を確認し、
「十五枚で三回だね、頑張って」
と激励してくれた。応援はありがたいが福引きに俺の頑張りが介入する余地は無いだろう……。受付の人は他にも何人かいたのだが、男が福引をするのが珍しいのか、こちらを注目していた。
……いや、まぁ慣れているから良いんだけどね。俺はその視線の中、抽選器に手を掛け一回目を回す。
ガラガラと音を鳴らして抽選器から玉が出てくる。その色は真っ白であり、意味する所は残念賞ポケットティッシュである。まぁ当然だなと思っていたら、何処からかアァーと言う残念そうな声が聞こえてきた、受付のおばさん達かと思ったが違うようだったので、後ろを振り返ってみたらいつの間にか、人だかりが出来ており全員が俺の抽選に注目していた。
……なんだコレ? 福引きしていたら人だかりが出来ていた……、その思わぬ現象と視線の多さから顔から一筋の汗が流れ落ちる。とは言え注目されているのだから二回目を早く引こう……、そう思い再度抽選器に手を掛け回す。
軽快な音を鳴らし出てきた玉は、水色。
「九等だね、お菓子だよ」
その色を見たおばちゃんは駄菓子を渡してくれる。渡された駄菓子は”うまいんだ棒”と言い安いがおいしいお菓子で結構好きだったりする。
「最後の一回だね、頑張って」
また、おばさんが応援してくれる。その声に触発されたのか、最後だからなのかわからないが後ろに出来ていた人だかりからも、ぽつぽつと頑張れと言う声が聞こえてきた。
「がんばれ!」
「がんばって!」
「がんばれー!」
「大丈夫一等当たるよ! 頑張って!」
そして、その声がまた新たな声を呼び、がんばれの大合唱が起こった、起こってしまった。
応援に背中を押されるように、抽選器に手を掛ける俺が思っていたのは、
どこを頑張れば良いのだろうか? と言うことだった。




