本について
それは春の中頃、クラスのみんながそれなりに打ち解けた頃に起きました……。その日は曇天で朝なのに薄暗く、なんとなく不吉な感じの印象を受ける日でした。
とは言うものの、別に天気事態は特に珍しい訳でもなく、俺は雨が降るかなと天気予報を確認して見ると、予想どおり雨が降るとの事でした。俺はその天気予報を見てから家を出る準備を終え、いつもの通りマリアに見送られて家を出ました。その後といつも通りです。パン屋の前で店員さんと少し雑談をして、駅に向かい電車に乗りました。駅に着き学校への道のりを春の風景を楽しみながら歩き学校へたどり着きました。
異変を感じたのは教室かが近くなってからでした。女三人寄ればかしましいとの言葉通り、多くの女子がいるこの世界の学校はそれはもう賑やかです。当然ながら俺の在籍しているクラスでも朝、皆が集まって来たら途端に賑やかになります。
しかし、この日に限ってはそうでは無かったのです。教室のドアの前に着いても少しも騒がしくありません。俺は今日はいやに静かだなと思いながらドアを開けて、いつも通りにおはようと言いながら入りました。いつもの日なら、教室にいる人達が朝の挨拶を返してくれるのですが、その日は一切返って来ませんでした。
何故か? その疑問は直ぐにわかりました。教室にいた生徒が俺が来たことに一切気がついていなかったのです。決して俺がいじめにあった訳ではありませんでした。
教室にいた生徒は皆一ヶ所に集まっていました。教室を見渡すと男子はまだ誰も来ていません。俺は女子たちが集まって何をしているんだろうと疑問に思いました。その疑問は当然でしょう、むしろ疑問に思わない方がおかしいです。教室にいる女子全員が一ヶ所に集まり、その集まっていた全員が真剣な表情をしながら何かを見ているのですから。
俺はソロリソロリと女子の一団に近づいて行きました。静かに忍びよった理由は特に理由はありませんでした。強いて挙げるならば、真剣な眼差しで何かを見ている少女たちの邪魔をしない様にとの思いでしょうか。
彼女たちが集まっている場所は一人の生徒の席でした。誰の席かと思い起こしてみると、頭に浮かんできたのはおとなしめの感じを受ける少女でした。それを思い出すとより不思議でした。彼女の今までの行動を振り返ってみても、目立つタイプではなかったので、こんなにも人が集まる理由が思い浮かばなかったからです。集まっている人達の中には舞澄さん、八千草さんそれに三島さんと言った仲良くしている人達もいました。
他の仲良くなった人達、詩乃さんや柚香さんはまだ来ていないのかいませんでした。みのりさんも部活の朝練でしょうか? まだ教室にはいませんでした。その場所に近づくと何やらペラリと音が聞こえました。聞こえた感じでは紙を捲っている様な音でした。もしかしたらみんなで集まって占いでもしているのかと思いました。女性は占いがすきですからそう思っても不思議では無いでしょう。
集まっている人達の真剣な表情も占いの結果を気にしての事と思うと少し微笑ましい気がしてきます。よく当たる占いならば俺も占って欲しいなと思いながら集まっている人達の隙間からそっと覗いて見ました。どうやら占いの本を見ている訳でも、実際にやっている訳でも無いみたいです。彼女たちは一心不乱に一つの本を凝視していました。隙間からだったのでよく見えなかったので少し動いて見える位置を探しそこから覗き見をしました。
その本の内容がハッキリと見えた時の衝撃は自分に取って計り知れない物でした。知らずに後ずさっており並んでいる机にぶつかり、ガタガタッ! と音が鳴りました。普段の賑やかな教室ではさして気になるような音では無かったのですが、今朝の教室の中はとても静かだったのでその音は酷く大きな音に聞こえました。
その音でようやく気がついたのか一心不乱に本を見ていた女子達は一斉にこちらに向き、全員が目を大きく見開いた後スッと集まっていた場所から去っていきました。そして、いつものように近くの友達とおしゃべりを始めました。……まるで今までの事が無かったことの様に。
後に残ったのはおそらく本の持ち主である女子生徒でその顔はとても青くなっていました。そして手元には開かれた一冊の本。見開かれたページには男性の裸体が載っていました。それもタダの裸体ではありません。筋肉美の美しい中年のおじさんでポージングを見事に決めておりました。ちなみにそのページでは”アブドミナル アンド サイ”と呼ばれるポーズを取っていました。……いえポーズの話はどうでもいいのです。彼女の持っていた本……。
ええ……。俗に言うエロ本です……。
いえ、わかります。仲良くなってきた時にそう言う本を持ってきて馬鹿話で盛り上がる。一種のコミュニケーションツールとしての物だと言うことは……。そしてこの世界においてエロ本がどれだけ貴重な物なのかと言うことも凄くわかります。
彼女が青い顔をしているのはこれが男子に知られたら蛇蝎の如く嫌われるからでしょう。そう言う事で言えば他の男子が居ず俺にだけ知られたと言う現状は比較的マシだと言えましょう。なぜなら俺はこういう事においては他の男子よりも理解があります。
……ありますが、すいませんその本はちょっと駄目です。
縋るような目でこちらを見ていた少女から、スッと目をそらして自分の席へと向かいました。その瞬間その少女は机に突っ伏しました。
ごめんなさい、慰めてあげたいがその本は少し俺の許容範囲をこえていました。できれば焼却処理をして欲しいです……。




