ある朝の日3
目の前には悲痛な顔をした美少女が一人、普通なら慰めるのが当然なのだろうが……。正直、何を悲しんでいるのかわからない。
言葉から察するに俺と会話が無かった事を悲しんでいるらしいが……。
「あっ……」
「わかっているの……」
俺が話しかけようとしたら、先に元委員長が話しかけてきた。
「な……」
「秦野君は私の物じゃないって事ぐらい……」
いや、……うん。それは当然の事だね。
さらに元委員長の独白は続く。
「でも他の人達が、次々とあなたに話しかけ、段々と仲良くなっていく光景を見ると不安になるの!」
元委員長は下に向けていた顔をバッと、勢いよくこちらに向ける。
……まるで恋人同士の会話のようだがそんな事実は全くない。
「あ……」
「この前、新しい女の人と会っていたわよね?」
「だ……」
「違うの……、責めているんじゃないの」
元委員長はふるふると首を横に振る。
そして、悲しそうに言葉を紡ぐ。
「でも、もう少し私ともお話して欲しいなって……」
元委員長は悲しげな表情の中に、少しの照れが入った表情で俺に言ってきた。
……そう思うんなら会話のキャッチボールをしろ!
さっきから俺の言葉、冒頭で潰してたよな! 話をする気本当にあるのかよ!
……て言うか、新しい女の人って誰だろうか? ここ数日を思い出す。……もしかして生徒会の二人か? 確かに新しいけど。何で元委員長がその事知ってるんだ? 会った場所は第一武道場の近くで特に用事がなかったら行く必要の無い場所なのに……。
「えー、新しい女って誰ですかー」
不満そうな声を出したのは、一緒に登校してきた八千草さんである。むーむーと不満ですと言うような顔をしている。
もう一人一緒に登校してきた舞澄さんは静かだな、と思い見てみると、そこには目に溢れんばかりの涙を溜めてなんとか泣き出すのを堪えている舞澄さんがいた。
舞澄さんは俺の視線に気がつくと、誤魔化すように言葉を発した。
「ないでっ! 泣いてなんかないでずわ!」
……どうしよう。俺何にも悪いことしてないのに罪悪感が出てくるわ。
改めて周りを見てみる。正面に少し恥ずかしげな顔をしている元委員長。左には不満そうに頬を膨らませてる八千草さん。右に今にも泣きそうな舞澄さん。
……なんだこれ?
どうしていいかわからないんだが……。
「……と、取り敢えず今は席につこう。もうチャイム鳴るから。」
俺はホラッと教室にある時計を指差す。指差した先の時計はそろそろチャイムが鳴る時間を指していた。
時計を見た三人は揃って息を吐き、それぞれが了解の言葉を言い。自分の席に向かって行った。
なんとか助かった。後は時間が三人を冷静にしてくれるだろう。
俺は心の中で時間が解決してくれる事を祈りながら、自分の席に向かった。
しかし先程も疑問を感じたが、元委員長は何で生徒会の人達と会ってた事を知ってるんだろう? 元委員長も部活見学してたのか? ……でも格闘技をするとは思えないが。
まぁいくら考えても答えは出ないか。直接聞くか、
……放課後ぐらいに。
あんまり早く聞きすぎても、時間が解決してくれてないかも知れないしな!
席に向かう途中、詩乃さんからジトーとした目が向けられた。おそらく先程の話が聞こえていたんだろう。
そりゃそうだろう教室の入口で話していたんだから。
クラスメイトの皆さん通行の邪魔をしてごめんなさい。
相方の柚香さんの方を見ると、こちらはニコッと笑顔を向けてくれ軽く手を振ってくれた。
ビバ天使! 疲れきった心の癒しである!
あれ? おかしいな朝起きた時点では疲れる様なことは微塵も無かったんだが……。
俺は柚香さんに手を振り返して席につく。それと同時にチャイムが鳴り、少ししてから先生がやってきた。
その後は平穏に過ぎて放課後になった。
俺は生徒会の人達の事を聞かれると思っていたが、どうやら無理に聞くのは良くないと思ってくれたらしく何も聞かれなかった。
そうだよな、他の男に彼女面して聞き出そうとしたら、その時点で嫌われる可能性があるからな。それに一夫多妻制だしあまり気にしないのかも知れない。不満そうだったのは自分よりも仲がいいかもと思ったんだろう。
そうすると、柚香さんの態度は大御所の風格があったな……。
さて、そろそろ元委員長に気になった事を聞くか。……時間が解決してくれてますように。
俺は元委員長の席に向かう。ここから見る分には何やら項垂れている様に見える。
そう言えば、おしゃべりをしたいと言っていたな……。でも放課後まで放置してたな……。
………………悪化してないだろうな。
俺は少し怖じ気づいたが、意を決して話しかける。
「あ、あの三島さん」
委員長呼び以外は初めてだが、ご機嫌を取るためにはしょうがない。それに元委員長と呼ぶ訳にもいかない。
三島さんは俺の言葉を聞くと、ゆっくりと顔を上げた。
上げられた顔はいつもどおりの、泣きボクロがチャームポイントの綺麗な顔である。
がしかし瞳に光がない! まるで全ての希望がなくなったかの様な……。
……事故に遭った俺もこんな目をしていたんだろうか?
しかし、その目が俺を捉えると、途端に光が戻り希望に満ちた表情になった。




