食事
服を確認すると、次に本棚を見ると、興味深い本を発見する。本のタイトルは。
”漫画でわかる古代の歴史”
いつからあったのか思い出せないが、読んだ記憶は無い。おそらく小さい頃に貰って、読まずに本棚にしまっていたんだと思うが。
本を手に取り、部屋にあるソファーに座り本を開く、本の中にはコミカルにデフォルメされた歴史上の人物が描かれている。
それを読み進めていくと、どうやら、古代の男性は、数の少なさから来る希少さと、何人もの女性に子供を授ける事から、神の使い、もしくは神そのものとして崇められていたらしい。時代が進むと神に仕える巫女的な役割を果たすようになり、祭事や占い等に携わっていたらしい。
争乱の時代には、大国の女王が一人の男性を手に入れるために、ある国に攻め込んだが、しかし攻め込んだは良いが、手に入れる寸前に、その男性が女王の周りに控えていた部下達に向かって、
”この者を殺しなさい”
と女王に向かって指を差し命じると、周りの部下達が一斉に女王に剣を向け斬り殺したというエピソードが載っていた。
……おそらく、古代における、男性の権威の高さを表すエピソードだろうけど、ポッと出の男の命令をきき王を弑逆するなんて家臣達の忠誠心の無さに驚くばかりだよ!
でも俺も、こんな風に女性を手玉にとれるような男になることを目指すときめたんだ。
目標としては、良い人生を送ることだ、その為に顔が良くて、金持ちで性格が良い上に貢いでくれる、そんな女性を何人か惚れさせる事、それが重要だ。それに加えて、向こうからの、あくまで! あくまでの! の善意として貢いで貰う事が肝心だな……。
そんなことを頭に思い浮かべる。
……
…………
………………ゲスすぎないですか?
いや! そんな男に成るためには、俺自身、誰にでも誇れる人間に成る必要があるんだ。この女性に厳しい世界で、女性に優しい希少な男。そんな絶滅危惧種の様な男と付き合えるんだから、女の人も嬉しいはずだ。
そうだ! WIN・WINの関係なはずだ。たぶん、おそらく、……そうであって欲しいなぁ。
そんなことを考えていると、下から母親の声が聞こえてくる。どうやら蕎麦が届いたらしい。
ソファーから立ち上がると、部屋の電気を消し下におりる。
リビングのテーブルには注文した料理が並んでおり、良い匂いをさせている。
「あっ、来たわね、じゃあいただきましょう。」
「うん、美味しそうだね。」
「ええ、ここはおいしいって評判なのよ。グルメラーの点も高いらしいわよ。」
グルメラーとはお店の点数を、食べに行った人が独自に付けるとサイトのことだ。
「そうなんだ、それじゃあ、いただきます。」
「いただきます。」
まず、天丼に箸を付ける、丼にのっているのは野菜が数種類、海老にキス、イカ、穴子とオーソドックスに加えて、卵のてんぶらがのっていて、賑やかな丼になっている。海老を口に入れるとサクッといい音が衣からし、中にはぷりぷりの海老がお目見えする。卵を箸で割ると、とろりとした黄身が流れてき、御飯と一緒に口に入れると何とも言えない味になる。
やるな、このお店! などと戦きつつ蕎麦にも箸を付ける。こちらも蕎麦ののど越しがよく、汁も美味しい。
「ふふっ。」
食事に舌鼓を打っていると、前に座っている母親がこちらを見て笑っている。
「えと、どうかして?」
「ううん、こうして一緒にご飯食べることが出来て、幸せだなって思って。前は、一緒にご飯食べること嫌がられてたから……。」
そういえば、前はロクに口も聞かず、会うこともしなかったな……、まぁあれだな、若さ故の過ちって言う奴だな。
……反省しよう。
「ごめん、お母さん、これからは出来るだけ一緒にご飯たべよう。」
「本当、嬉しい。お母さん仕事早く終わらせて帰ってくるからね。」
「じゃあ、料理の勉強して、美味しいご飯作って待ってるね。」
「期待してるね。」
そう言って母は、微笑んだ。しかし、次の言葉で顔が引きつる。
「その為には、冷蔵庫のスペースを空ける為に、あの大量のビール処分しないとね。」
「う゛ぇ! いや、そんなこと無いんじゃないかな、なんならもう一個冷蔵庫買っても良いし……」
俺はその言葉に、クスリと笑い、冗談だと言う。
「そうよね! あれぐらい、三日もあればなくなるもんね!」
「……ビールは多くても一日、三本までで、お母さんには健康で、長生きして欲しいし」
「なん……だと……」
俺の言葉を聞き、絶望した顔を浮かべる。
「でも、お酒は百薬の長っていうし、飲んでも大丈夫だよ!」
「飲み過ぎなければね」
「ぐっ! でも飲まなかったら、手の震えが……」
アル中はいってんじゃねえか! この女!
「とにかく、飲み過ぎには注意してね」
「うぅ……、わかった」
うなだれるようにしながら、返事をする。
「あっ、そう言えば、来週からハウスキーパーの人変わるから」
「へっ、そうなんだ」
確か前は、結構、年がいっていた人だったな。
「琥珀君、念の為に言っておくけど、もし襲われたりしたら、ちゃんと反撃しなきゃ駄目だよ」
「あっ、はい」
「心配だよ、琥珀君すっごいかわいいから……、思わずってこともあるし」
「大丈夫だよ、男が居る家に派遣されるんだから、審査に合格してる人でしょ?」
この世界は、女性が仕事で男性のプライベート空間に入るには、会社側で厳格な審査をし、基準を満たした人物で無ければ、その仕事に派遣出来ないように、国が法律で定めているのだ。
「そうだけどね……」
母は心配そうに溜め息をつきながら言う。
そんな心配をされながら、記憶を取り戻してからの母親との最初の食事は過ぎていった。