告白
『本日の清明絢爛合同文化祭は終了となります。ご来場の皆様お気をつけてお帰りください。繰り返し申し上げます。本日の清明絢爛合同文化祭は終了となります』
アナウンスが流れ、来ていたお客さんたちが足早に門へと歩いていく。
どのお客さんも笑顔でいることから、非常に楽しめたのだと思われる。確かにこの学校の敷地面積を考えると、有名テーパマークを凌いでいるし、高校生の文化祭といえど、作っているのが非常にバイタリティ溢れる絢爛の生徒と、一目見るだけでも癒されると噂の清明の男子達なのだから満足できたのだろう。
実際、出店で出ていた物を食べてみたが、オーソドックな物から普段では食べることのない物まで、どれも美味しく食べられた。
やはり生徒数が多く、自主性を大事にしているからか頭を捻る様な催し物もあったが……。
何を考えて文化祭でタランチュラの踊り食いを出そうと思ったり、非常にリアルな質感を感じさせるVR技術を持ち出して『体験! 癌の摘出手術』などやろうと思ったのか? 作った本人たちに手術経験無いくせに。しかし現役の医師監修で作られたそれはテレビの食いつきが良く、そのVR技術の高さも相まって時間を取って取材されていた。……なんか大金が動きそうな匂いがする。
とは言えそれらの催し物と比べても、絢爛・清明の執事喫茶は盛況だった。やはりどんな単純な物でも希少性と欲を刺激するものは人気があると言うことだろう。
そしてその執事喫茶では現在、後片付けと初日の売り上げの処理で女子たちが慌ただしく動いている。
そして本日の主役たる執事達は席に座りクラスの女子にジュースを注文してたり、マッサージするように要求をしている。
「はぁー、今日は良く働いたなー。ホラ早くジュース持ってきてよ」
「僕はマッサージをお願い。特別に素手で触ることを許してあげるから」
「ポテチとチョコ」
「リブロースステーキ。ミディアムレアで」
なんて態度のでかい執事達だ。いや確かにこいつらの存在があってこそなんだが、ステーキの要求はおかしいだろ。しかしウチの女子たちはそんな男子たちをしょうがないぁなどと言い甘やかしている。……ステーキあんの?
「はいお待たせ。リブロースが無かったから、豆腐で代用したよ」
「なっ! 無かったら買いに行くべきだろう!?」
「いやいや豆腐ステーキも美味しいから食べてみて。ホラこの特製和風ダレで召し上がれ」
「口に合わなかったら許さないからな! あっ美味い」
「でしょー」
……なんか女子達の男子への扱いが雑になっているような?
そんな疑問を浮かべていると、どうやら売上の精算が終わったらしく、みんなが集まってきた。
「えっと……。皆さん初日お疲れ様でした。取り敢えず初日の売上を発表するね」
「いや、そんな事よりも大事な事があるだろう!」
「へっ?」
文化委員の女子がそう言い、売上を発表しようとしたがそれに男子達が待ったを掛けた。
「指名数だよ指名数! 俺は今日すごい頑張った! だから指名数が一番でも不思議じゃない!」
「俺も――」
「指名数一位は秦野君です。後はどんぐりの背比べです。お疲れ様でした。じゃあ次行きますね」
「…………」
一瞬で男子達が黙ってしまった。やはり扱いが雑に……。
しかしこの後は待ち合わせか……、チラリと詩乃さんを見るがその表情はいつもと変わりがない。聞きたいこともあったが、待ち合わせ場所に行ってから聞くか。
そうして文化委員の子が終了の合図を出すと、各々帰り支度をして帰路について行った。
俺も荷物を持ち、同じように体育館を出ると、言われた場所に足を向けた。
歩きながら空を見上げる。スッカリと暗くなった夜空は季節が変わり冬が近づいて来ているのことを実感させる。これまでの事を振り返って見る。前世を思い出していなかったら自分は今この場にはいなかったと確信できる。おそらく清明に行って一年生を支配し、上級生もこの手に収めようと行動していただろう。
そう考えてみると、現状のなんと穏やかな事か。
ただ思っているよりも働いている気がするのが不思議だ。
やはり前世でハードワークしていた影響だろうか? 何かしら働かないと落ち着かないという感じの。
そんな事をつらつらと考えていると、言われていた場所に到着する。人影が既にあるので、俺よりも先についていたのだろう。俺は少し歩調を早める。
「ごめん待った?」
「「「「「「全然」」」」」」
待ち合わせの場所。そこには詩乃さんだけでは無く、手紙をくれた柚香さんやみのりさん、八千草さんに舞澄さん。そして三島さんが居た。
なんで全員が同じ場所に同じ時を選んで別々に呼び出したのか疑問だったが、それは彼女達にとっても予想外だったようだ。なんせ全員が全員、女の子がしていい表情じゃないくらい顰めっ面をしている。
「……ねぇ皆、私琥珀君に用事があるから帰ってくれないかな?」
「無理、私は急ぎだから。今日は譲って」
「駄目です。私が一番最初です」
「なんで皆がこの場所知ってるんですかぁ! 帰ってください!」
「はうぅはうぅ」
「なんで私の邪魔をするかな! どっか行って!」
「詩乃こそ邪魔だから!」
「もう今日は日が悪いので、私が琥珀さんを送ってきます」
「みのりさんは一歩も動かないでくださーい」
「はうぅはうぅ」
なんかギャーギャーワーワーとすごい揉めている。普段仲が良いだけに非常み珍しい光景だ。そんな中、三島さんだけが静かにこっちに歩いてきた。どうやら他の子は喧嘩に忙しく、そのことに気がついていないらしい。
そうして俺の目の前に来ると、大きく息を吸い言い放った。
「秦野君、私と結婚を前提にお付き合いしてください!!!」
その大きな声に、揉めていた他の子達がようやく事態を認識したのか、呆然とした表情を浮かべていた。
……なるほど。もしかして全員、三島さんと同じ要件で。
いやしかしそうかー。とうとうこの日が来たか。……いやちょっと待て結婚てなんだ!? 高校生の付き合いなんてもっと緩い感じだろ! 落ち着け三島さん!
「私は他の子よりも影が薄いし、なんか地味だけど将来は稼げる女になって必ず秦野君を幸せにするから! お願いします!」
やばいこれは本気だ。どうしよう。
「「「「「ちょちょちょっと待ったー!!!」」」」」
……俺がどう答えるか迷っていると、喧嘩していた詩乃さん達が急いで寄ってきた。
「わ、私だって幸せにする! 現時点でも資産はあるし絶対に将来苦労させないからぁ! 私と結婚を前提に付き合って!」
「他の子には負けません! 資産だって東華院に負けないし、好きな気持ちだって負けません! 私と結婚を前提に付き合ってください!」
「今は何者でも無いですが、必ずスーパーアーツでチャンピオンになって稼ぎます。そう約束します。私と結婚を前提に付き合ってください」
「美羽……美羽は体が貧相だけど絶対に一流女優になるから! 信じられないかもだけど……信じて私と結婚を前提に付き合ってください!」
「えと、えと。好きです! 大好きです! 私と結婚を前提に付き合ってください!」
そして三島さんに負けじと次々に告白をしてくれる。
……なんで皆『結婚を前提』を入れるんだ。どうするか? どう答えるべきか?
俺は真っ暗になった空を見上げる。ここでYESと答えたら必ず結婚することになる。それだけの気迫を感じる。この若い時分に六人もの女の子と結婚。幾ら一夫多妻が認められているとはいえ、大変だろう。
……しかし、そうしかし俺は彼女達の事が好きではある。ハッキリ言って好意は間違いなくある。とは言え結婚とは今の段階では考えていなかった。
………
……………
………………
年貢の納め時かも知れない。……ヨシ!
俺は覚悟を決める。
「よろしくお願いします」
俺はそう言って笑顔で頭を下げた。
長かった……。




