休憩
「それではお嬢様、行ってらっしゃいませ」
俺はそう言って頭を下げ、接客が終わったお嬢様に挨拶をする。
既に何組ものお嬢様を接客し、こうして送り出している。
「ええ、とても良い時間を過ごせたわ」
そう言うとお嬢様は、頭を下げていた俺を起こし、俺の頬に手を当て撫でる。
……お嬢様、手つきが艶かしいですよ?
「でも残念。私はこれから重要な仕事が待ってるの。貴方はまだ私と過ごしたいと思っているだろうけど、ごめんなさいそれはできないの」
「それは……本当に残念です」
「フフッ、可愛いことを言うのね」
お嬢様は頬を撫でていた手をスススッと、下げていき胸の辺りを人差し指でクルクルとさする。
……お嬢様セクハラになりますよ?
「すいませんお客様それ以上は……」
ちょうどそこで女性スタッフから静止がかかった。
それを聞いたお嬢様はスッと俺から離れると。
妖艶な笑顔を浮かべた。
「あら残念。じゃあねまた来るわ」
「はいお待ちしております」
そう言って去って行くお嬢様を見送った後、一緒にそれを見ていた女性スタッフが小さな声で聞いてきた。
「あの人、受付じゃあガチガチに緊張して声も吃りまくってたのに……。秦野君、一体何したの?」
「丁寧な執事接客です」
「……この短時間で人格が豹変してるんだけど」
不思議だね。
「あっ。そうそう秦野君、そろそろ生徒会の仕事の時間だよね? もう休憩の札掛けとくからこっち抜けて良いよ。お昼も食べて来てね」
「うん、ありがとう」
「まぁ、この時間に店に来た人は少し残念だけどね」
「まぁ、楽しみ来て貰えるのはありがたいことだけど。申し訳ないね」
そう言って俺は休憩を取るためにバックヤードへと戻って行った。
「お疲れ様です。サンドイッチとか食べますか?」
「貰う貰う。ありがとう」
バックヤードに戻ると西華宮さんがニコニコと優しい笑顔でそう声を掛けてくれる。
しかしその優しい笑顔とは裏腹に、その手は高速で動いており次々に注文を捌いている。
その手際の良さを凄いと思っている内に、俺へ綺麗に盛られたBLTサンドと紅茶が提供された。
「どうぞ」
「……ありがとう」
出されたサンドイッチを一口食べる。シャキシャキとしたレタスに、瑞々しいトマト。そして分厚くそしてジューシーに焼かれたベーコンがこれまた旨い。
どう考えても文化祭で出てくるレベルを越えてる気がする。
このレベルの料理を難なく提供できるクラスメイト達は凄いと思う。
「どうですか?」
「凄く美味しい」
そう言った俺に、西華宮さんはありがとうと言い笑顔を浮かべる。
「サンドイッチもそうですけど執事の方の感想はどうかな?」
「んー。そんなに横柄な人はいないから、今のところはスムーズに進んでると思うよ」
「まぁそれは……下手したら警察沙汰になるかもですからね……」
「なるほど」
「それよりも。琥珀君言い寄られて、そのまま流されたらですよ……」
「は、はい」
何故だろう。笑顔なのに目が凄く笑っていない。
「柚香ちゃーん! 仕事戻ってきてー!」
「あっ、ごめんなさーい。じゃあ琥珀君、私戻りますね」
「うん、サンドイッチありがとう」
「どういたしまして」
そう言った仕事に戻ろうとした西華宮さんだったが、すぐに立ち止まりこちらへ戻って来た。
「どうかした?」
「ちょっと言い忘れてたことがあって、今日の文化祭が終わった後、ここに来て欲しいんです」
柚香さんはそう言って、俺に折り畳まれたメモを渡してきた。
「何かあるの?」
「まぁ、それは……まだ内緒です。じゃあ私行きますね」
「うん頑張って」
そうして柚香さんを見送った後、俺は渡されたメモを開こうとした。
「おや、琥珀さん休憩ですか?」
「うん、みのりさんは今から仕事?」
「はい、今までは部活の方を手伝ってたので、今からはこっちをお手伝いです」
「俺も今から生徒会の仕事で見回りしなきゃだよ」
「生徒会のお手伝いも大変ですね。そう言えば、こっちに戻って来る時に見たんですが、執事喫茶人気凄いですね。こっちもそうですけど清明の喫茶店も凄い人気でしたよ」
「そうだろうね」
なんたって国一番のお坊っちゃま学校だ。ブランド力が違う。それに加えて、客に対応できる執事の数もこちらとは比較にならない。単純な回転数では負けるだろう。
だからこそこっちはこんな形態になってるんだが……。
しかしそう考えると、バックヤードが白銀会長だけと言うのは大丈夫なのだろうか? 少し様子を見に行こう。
位置的にバックヤードから出たら、清明のバックヤードも覗ける様になってるので、様子を見るのにそう手間ではない。
「ちょっと向こうの様子を見てくるよ」
「あっ、じゃあ私もお供します」
こうして俺とみのりさんは清明の執事喫茶その裏側を偵察することにした。




