王様
ガチャガチャと音を立てて、筒の中に入れた棒を動かす。
「よし、じゃあ今度こそ始めよう!」
詩乃さんのその声にみんなが頷く。それを確認し、詩乃さんはゲームを進めていく。
「みんな、棒を取りやすいように近くに来てね……よし、じゃあ、いっせーのーで、でみんな好きな棒を掴むこと! これは早い者勝ちだからみんな気合い入れてね」
ゴクリと誰かが喉を鳴らす音が聞こえた。
「行くよー、いっせーのーで!」
その瞬間を俺は見た、みのりさんが閃光のような貫手を放った。そして狙っていた棒が同じだったのか、南方院さんがその手を横から払い。その二人が争っている隙に八千草さんが棒を確保したことを。
「えっえっ?」
その一連の出来事に三島さんは、呆気に取られていた。八千草さんは不敵に笑い、棒を取られた二人は舌打ちし余った棒を手に取った。しかし争いはここだけではない。
「詩乃……その手を離してくれない?」
「柚香こそ、私の方が早かったよね?」
「詩乃、目が悪くなった? どう考えても私の方が早かったよ」
キシリと棒が悲鳴をあげるが、二人は握っている手を緩めない。
「あー、二人でじゃんけんしたら?」
どちらも譲る気配が無いので、俺がそう提案すると、二人は渋々ながら、じゃんけんをし、勝った詩乃さんがあ目当ての棒を手にした。
「グスン……」
負けた柚香さんは目に涙を浮かべ、違う棒を選んでいた。
舞澄さんはゆっくりと余った棒を選んで、三島さんも恐る恐る棒を手に取った。そして俺が手にしたのは最後まで残った棒をだ。
何故一回のゲームでこれほど迄に色々起こるのか疑問だが。割合スムーズに進んでいるのではなかろうか?
「みんな用意は良い? じゃあ行くよー! 王様だーれだ!」
みんなが一斉に自分の棒を確認する。そしてわかりやすいぐらい苦々しい顔を浮かべる。それもそのはず王様は俺だったのだから。
「王様は俺だね」
俺がそういうと、みんなは"むぅ"というような顔をした。恐らく、自分では無かったことには不満だが、他の娘取られ無かったことに安心したと言ったところかな?
まぁ、今は何を命令するかだ。ぶっちゃけた話、エロいことを命令したら喜ぶのは彼女達で、その場合俺の紳士的立ち位置が揺らぐことになる。かなり嫌である。俺はいつだって気高い存在でいたいのだ。
俺は少し考え、無難な命令することにした。
「えーと、四番が腕立て伏せ三十回で」
俺がそう命令すると、彼女達はお互いに顔を見合せた。体育会系の命令だが、力自慢の彼女達からすれば片手間にできることだろう。
「四番だれ?」
「ふむ……私じゃないな」
「私でもないです」
「わ、わたし……」
そう言っておずおずと手をあげたのは三島さんだった。
……何故この場で唯一のか弱い女子である彼女に当たるのか?
「えと、えと腕立て伏せだよね。うん……大丈夫……」
三島さんはそろそろと動くと、床に手をつき腕立て伏せを始めた。
「い~ち……に~…………」
……三十回が終わったそこにはぐったりとした三島さんがいた。そんな光景を見たら、いつもの詩乃さん達なら心配しているはずだが、今日ばかりは違うらしい。
「百合ちゃん百合ちゃん。大丈夫かな? 駄目だったら部屋で休んでて良いよ」
「そうですよ百合。私が部屋へ運んであげましょうか?」
にっこにっこな笑顔で詩乃さんとみのりさんが声を掛けている。他の娘もそれが良いと頷いている。競争相手を減らそうと思っているな。
「だ、大丈夫……」
ヨロヨロと元の場所へ戻って来る三島さんが戻って来る。……体力がもう無さげだが、そこまでして俺にエロい事をしたいのか?
「よし、じゃあ二回目!」
棒を元に戻して、第二回目。今度も争いながら全員が棒を引き、やはり俺が最後に棒を引く。
「「「王様だーれだ!」」」
「あ、また俺だ……」
全員がまた悔しそうな顔をする。欲望センサーに反応しているのではなかろうか?
「えーと、今度は二番がスクワット三十回で」
「に、二番……」
俺の命令を聞いて、三島さんが愕然とした表情を浮かべた。
「えーと、もしかしてまた三島さん?」
そう聞くと、泣きそうな目で頷かれた。……いや、そんな目で見られても……。
「ううっ……」
しかし王様の命令は絶対である。三島さんはヘロヘロになりながらスクワットをやり終えた。
「ぜっ、絶対、私が勝つんだからぁ」
悲壮な決意で三島さんがそう言った。
第三回、王様はまたしても俺だ……。しかし、ここまできたら命令は同系統だろう。
「今度は五番が、腹筋三十回で」
その瞬間、詩乃さん達の顔が三島さんへと向く。
「負けない……私は負けない……」
そう言い三島さんは腹筋を始めた。それを見た、詩乃さん達は俺へ何とも言えない顔を向けてくる。俺はソッとその視線から目を逸らす。するとみのりさんが遠慮がちに言う。
「あの、琥珀さん。ブートキャンプはそのへんで……」
いや、別に狙ってる訳じゃないんだが。
11/30日に書籍版が発売してます。
web版とは結構違いますが両方とも
宜しくお願いします。




