水着研究
詩乃はベッドに寝転びながらペラリペラリと本をめくる。学校から帰ってくるなり、制服を脱ぎ散らかし、そのままベッドに直行し、今の状態になっている。その様子を見て、従者であるメイドは大きく溜め息を吐くと、詩乃へと小言を言う。
「お嬢様だらしがないですよ! 何ですか! 学校から帰るなりずっと本を読んで! お勉強はどうしたのですか!」
「後でするからー」
「今しなさい!」
「だってー」
「だって、では無いです。どうしたのですか? いつもならキチンと予習も復習も終わらせているではないですか?」
「ある意味、戦の準備をね……」
「戦……?」
首を傾げるメイドへ詩乃は読んでいた本のタイトルを見せる。
「ああ、なるほど……」
詩乃が見せた本は、一般的なティーンズファッションの雑誌であったが、そこに踊っていた文字を見てメイドは詩乃が何を真剣に読んでいるのかを理解した。
『この夏、男子をイチコロにできる可愛い水着特集!』
「今度の夏休みの事ですか……」
「うん。今日みんなに言ったら、他の子もすごく気合い入ってた。私も負ける訳にはいかない!」
詩乃は思わず拳を握ってしまい、グシャリと本を握り潰してしまった。
「わわっ! せっかく買ってきたのに!」
慌てて拳を開き、本のシワを伸ばす。詩乃が一生懸命シワを伸ばしていると、詩乃のスマートフォンに着信が入る。画面には『南方院 雅』と表示されていた。詩乃は一旦手を止め、スマートフォンを手に取る。
「もしもし雅さん?」
「こんばんは詩乃ちゃん」
「こんばんは。何かあった」
「うん。実は詩乃ちゃん達が琥珀君と旅行に行くって話を聞いてね」
「……うん。男子王に出た子達で慰労会みたいな感じで企画してるんだ」
取り敢えず、これ以上ライバルが増えるのは避けたい。詩乃はそう思い牽制の言葉を放つ。
「そうなんだ、私も行きたいな。だって私達、同盟結んでるし大丈夫だよね。あっお金の件だったら私が全額負担しても良いよ」
しかし往々にして出来る女と言うのは、都合の悪い言葉をスルーして、自分の要求を叩きつけると言う技能を持つ。詩乃としては突っ張る事も可能なのだが、ここで仲を拗れさせた場合、もし彼女が同様の事をした時につけ込め無くなる。……詩乃は少し悩んだ結果、答えを出す。
「あはは、そんなの気にしなくて良いよ。私はもちろん雅さんも誘うつもりだったし」
「えっ、そうなんだ。ありがとう! こうして頼まなかったら、誘われないと思ったから、電話しちゃった」
「そんなこと無いよー」
実際はそんな事あった。もし雅がこうして電話を掛けてこなかった場合。これ幸いとライバルを一人脱落させていた。もちろん旅行のお土産は買ってくるつもりではあったが。
そうして、雅との電話を切り、詩乃は最新の水着トレンドを把握する作業に戻る。流行と自分に合った水着で他の子をリードするために……。
◆◆◆◆◆
三枝みのりは悩んでいた。
今度の休日に皆で水着を買いに行くことになったからである。
部活も終え、夕食も食べ、そして食後の鍛錬も終えた今、みのりは部屋で正座をし、姿勢良くファッション雑誌を見ていた。タイトルには『この夏、男子をイチコロにできる可愛い水着特集!』と書かれており、コレしかないと思い帰り道に購入した物だ。
みのりはそれをゆっくりと見ていく。確かに紹介されている物はどれも可愛い物だ。
「ビキニ、フリルにスカート、オフショルダー……」
みのりはパタリと本を机に置く。そしてゆっくりと自分の腹筋に手を当てる。そして次に腕をさすり、続いて足を触る。
……とても固い。そして服越しからでもわかるハッキリとした凹凸。正確には固さの中に柔らかさをも備えている筋肉ではあり、鍛え上げられた素晴らしいものであると言えよう。
……ではあるが、果たして腹筋が割れている女子に琥珀はときめいてくれるのか……? 柔らかいといっても、固い中での柔らかさだ。一般的な柔らかさでは無い。
どう考えても望み薄だ。自分が男性だったと仮定し、考えた場合でも、腹筋が割れており固い女の子よりも、ホッソリとした柔らかい印象の女の子の方が魅力的だと思ってしまうからだ。
そうするとワンピース一択になるわけだが、おそらく他の子よりも地味な印象を与えると思われる。
……悩ましい。あえて琥珀が筋肉フェチである可能性に賭けるか。無難にワンピースを着るか。
しかしどちらにせよ、腕や足の筋肉は見えるのだからどうしようも無い。
みのりは、この時初めて、夏という季節が自分に優しく無いと気づいた。しかし勝負の時は待ってはくれない。ただでさえ他の子は魅力的な女の子だ。引いたら負ける。そう思いながらみのりはページを捲っていく。




