夏休みの予定は?
俺は待っていろと言われた部屋でメイドさんの世話を受けながら、ひたすらお菓子とお茶を飲む作業に従事していた。恐ろしい事にここで出されるお菓子もお茶も止めるタイミングが分からないほど美味しい。
「お口に合いましたでしょうか?」
「はい、すごく美味しいです」
「それは良かったです。実はそれ私が作ったんです」
「えっ本当ですか? お姉さんここでは料理を作っているんですか?」
俺はお姉さんと言うには少しばかり歳が行った女性のメイドさんにそう尋ねた。
「いいえいいえ。料理はちゃんとシェフが作っておりますよ。ただそのお菓子に関しては、以前いたパティシエから直々に教えて頂いた特別なお菓子で、今のところ私が一番うまく作れるので私が作っているんです」
「なるほど確かに美味しい。自然ともう一つ手に取ってしまう」
「お嬢様も好きなんですよ。いつも一杯食べてはカロリーがっ! と大騒ぎしてます」
痛ましい事件だ。俺も気をつけなければ。そう思いながら、お菓子を味わっていると扉がノックされた。自然でいて素早い動作でメイドさんが応対し、扉を開けてくれる。
「……」
「……」
部屋に入ってきた詩乃さんと目が合った。しばしお互いに無言で見つめ合う。詩乃さんの格好はビシッと決まっており、化粧もいつもはナチュラルメイクだが、今は少し大人な印象を受けるようなメイクになっている。
「! ……!?」
「こんにちは」
「わひゃあ!」
変な叫び声をあげて、詩乃さんは部屋から逃げ出しそうになった所で、メイドさんに首根っこをひっ捕まられていた。
「お嬢様。お客様を目の前に何処へ行こうと言うのですか?」
「な、なんで琥珀君がいるのぉ?」
「大旦那様が連れてきたからです」
その通りだ。そしてその理由は俺も知らない。
メイドさんは、「不意打ちすぎる」と嘆いている詩乃さんを離すと
「何か御用があればお呼びください」
と頭を下げ部屋を出て行った。そして残されたのは事態を把握していない。俺と詩乃さんだけになった。
「こ、こんにちは琥珀君」
「こんにちは詩乃さん」
「あ、あの私お祖父様にお客様の相手をしろって言われて……」
「うん」
「えと……人生ゲームとかあるけど出そうか?」
二人で人生ゲームとか地獄かな? なぜそのチョイスをしたのか……
「人生ゲームはいいや。なんか凄い美味しいおやつ出して貰ったから、一緒に食べようよ」
「あっそれ美味しいよね。私も大好きなんだよ!」
「カロリー気になるんだよね?」
「なっ! 何で知ってるの!?」
「メイドさんが教えてくれた」
「ひどい! 乙女のプライバシーをなんだと思ってるのかな!?」
頬を膨らませながら詩乃さんは抗議の声を上げる。しかし俺がしたことでは無いのでどうしようも無い。
「琥珀君って最近ひどいよね」
「? なにが?」
「いっつもこっちをヤキモキさせて。他の子にばっかり優しくしてー」
「詩乃さんにも優しくしてると思うけど」
「もっとしてー」
詩乃さんはそう言いテーブルに上半身をもたれさせる。上品な服を着ているのになんてだらしない姿をさらすのか。詩乃さんはその体勢のまま話を続ける。
「琥珀君てアタフタとかオロオロとか慌てる事なんて事無いでしょう?」
「めっちゃあるよ!」
まさに今日アタフタしたよ! 君のお祖父さんに遭遇してだよ! そもそも途中からかき氷の味しなくなったぐらい緊張したよ! 詳細言ったら豊成さんに伝わる可能性があるから言わないけど!
「そ、そうなの?」
「うん!」
「どんなことで?」
「……絶対に言わない」
「ええーなにそれー意地悪だ」
そのまま少し静かになる。
「琥珀君。もうすぐ夏休みだね」
「そうだね。今日もすごく暑くて大変だったよ」
「そうだよね。もう夏なんですよ。 お休みがやってくるんですよ」
「う、うん」
なんかだらけた姿勢で言っている割には言葉に意思を感じる。
「でさ、夏休みの予定って決まってるかな?」
「取り敢えず海に行く予定だけは決まってる」
「神は死んだー!」
詩乃さんはガバッと立ち上がり。詰め寄ってくる。
「なんで? そこは『まだ決まってないよ』って言う場面だよね? 私、頑張って誘ったよね!?」
「ええっ……そう言われても……」
予定を聞かれただけで誘われてはいないと思う。むしろ誘ったのは君のお祖父さんだ。
「柚香や雅さんばっかりずるい。私も琥珀君とデートしたい! ひどいよー。私も絶対一緒に海に行くんだからー!」
駄々をこねる詩乃さんは、メイドさんにその姿を見られ怒られていた。




