屋敷にドナドナ
豊成さん達と俺は店を出ると、近くに止めてあった車に乗り、東華院の家へと向った。同意の上でのお宅訪問だが、何故だか俺は売られていく子牛の気分が良くわかった。
車に揺られる事、十分ほどで東華院のお屋敷に到着した。
「ここの屋敷は住みやすさを考慮して、それ程広く作ってはおらんが、部屋に関しては満足して貰えると思う。何か要望が有れば言ってくれれば対応させて貰うので、遠慮無く言ってくれ」
……何故ディナーを一緒するだけで部屋の話が出るのか? と突っ込んで良い場面なのでしょうか?
「ハハハ、ありがとうございます。……でも広くは無いと仰りますが、僕からしたら凄い大きいお屋敷だと思います」
なんせ門に入ってからも車移動だ。
「庭は子供が自由に遊ぶことが出来るようにと広めに作ったからな。しかし大きさで言えばこの屋敷は下から数えた方が小さいのだよ。東華院の所有する別荘には敷地が山ごとの物もあるし、プライベートビーチを含んだ物もある」
「それは凄いですね! 山も海も人混みとか気にしないで楽しめますね」
「ウム、人の目も気にしないで休養できる。おおっそうだ。もうすぐ夏休みだろう? 君をその別荘に招待させて貰おう」
……早くも夏休みの予定が埋まってしまった。いかん、話の主導権を握られっぱなしだ。これだから能力がある権力者ってのは嫌なんだ!
「あ、ありがとうございます……」
俺の言葉を聞いて豊成さんは、満足そうに頷いた。
「それでは手配しておくとしよう。何、気にすることは無い。旅費や交通手段などはこちらで手配しておく。何なら身一つで来てくれても問題無い様にしておくからな。ハハハ」
「ハハハ……」
乾いた笑いしか出てこない。
「ちなみに山と海ではどちらが良いか?」
「山と海……ですか?」
「ああどちらも魅力的な場所だが、やはり好みがあるからな。海だと先程言ったようにプライベートビーチで人混みや人の目を気にせず存分に海水浴を楽しめる。山なら天文台が有るので夜に星を楽しむ事も出来るし温泉も湧いているので、そこでゆっくりも出来る。君も男子王などと言う称号が有るのだから、人から注目される身だろう? そう言った意味どちらもゆっくりできるのでオススメではある」
「両方魅力的で悩みますね。……でもどちらかと言うと海ですかね」
俺は苦笑しながらそう答えた。選んだ理由は単純に夏と言えば海のイメージが強いからだ。海で水着の女の子とキャッキャッウフフするのは、ある意味男の夢だろう。……アレ? その旅行ってこの人来るのかな? 俺はお爺さんとキャッキャッウフフする趣味は微塵も無いのだが。
「……フム、海か」
アレ何か悩んでる? 豊成さんは俺の言葉を聞くと少し眉を動かすと少し考え込んだ。
「どうかしましたか?」
「いや何でも無い。それではその様に手配をして置こう。詳細が決まったら詩乃の方から連絡させよう。ああ、君の友人も誘っても構わない。しかし連れてくる人数が百を超える場合には前もって連絡をして欲しい」
そう言って笑う豊成さん。これはギャグなのか本気で言ってるのかどっちなのか?
「それと申し訳ないが、私は仕事があるので同行する事が出来ない。なので何か入用があれば詩乃に言うと良い」
「はい、ありがとうございます」
話がひと段落した所で車が止まり、ドアが開かれた。
「お待たせしました」
「ご苦労」
「ありがとうございます」
運転手さんにお礼を言って、俺たちはお屋敷に入るとすぐに、使用人の方がやって来た。
「お帰りなさいませ」
「客人だ。彼を客室でもてなしてくれ、夕食も共にするのでその準備も頼む」
「かしこまりました」
「秦野君、何か食べたい物があれば彼女に言ってくれれば良い。後ほど詩乃を行かすので相手をしてやってくれ」
「はい、ありがとうございます」
「では秦野様こちらへどうぞ」
俺はその言葉に従い、使用人の女性についていく。
◆◆◆◆◆
豊成は去っていく琥珀をジッと見ている。その姿を不思議に思った従者の一人が質問した。
「大旦那様どうかされましたか?」
「……ウム。今回、私が手を出してしまったが余計な世話だったか、と思ってな……」
「その様な事は無いのでは? お嬢様も随分お悩みでしたので、今日の事はお喜びになるのでは?」
しかし豊成はその言葉に納得はしていないようだった。
「さっき彼に山か海、どちらが良いかと聞いた時、彼は海と言った」
「はぁ……?」
「海と言えば水着を着る。年頃の少年だったら心を許していない相手にそんな姿を見せるのは嫌だろう?」
「……それは」
「しかし彼はその事よりも純粋な旅行先として山と海を比較していただけに見えた。それに私が誘ったと言うことは詩乃が来る事は確定だ。だがそれに関しても嫌がるそぶりも無かった。……どうやら私が思っているよりも仲が深かったらしい」
豊成はそこまで言うと歩き出した。
「とは言え、彼を手に入れるにはライバルは多い。限りあるチャンスを逃している暇はないぞ」
そう孫への言葉を呟いた。




