デートの結果
……娘がゾンビの様な顔をして帰って来た。顔だけでは無く、歩き方もフラフラと頼りなく、これもまたゾンビの様だ。いや、もうゾンビ娘と呼んでも良いのでは無いだろうか? 四大貴族の一つであり、貴族界のNo.1リア充と言う異名をとる西華宮 柚木は愛すべき娘を見て端的にそう思った。
取り敢えず柚木は口に運んでいたお煎餅をキチンと咀嚼し、煎茶で口をさっぱりさせる。その間に柚香は近くの椅子に座り、テーブルに体を投げ出す様に突っ伏したまま動かない。普段ならしない行動にメイドも明らかに戸惑っている。一緒にお煎餅を食べていた弟の憂が心配そうにしているが、姉の余りの態度に声を掛けられず、オロオロとしている。
その微動だにしない娘を見て、デートで何か失敗をしたのだろうと柚木は当たりをつけるが。途中経過を考えるに、少し失敗した位では秦野 琥珀と言う少年は怒る事は無いだろうと考える。実際、そう思ったからこそ、園内に配置した西華宮の手の者は早々に引き上げさせたし、二人のデートの経過を報告させるのも止めさせた。
と言う事は、とんでもない失敗をしでかしたのだろう。まぁ結局の所、話を聞くしかないのだが。
「……で一体何したの?」
その問いかけに、柚香はビクリと大きく体を震わせたが、体を起こさなかった。
「もう……話さなかったら私もアドバイス出来ないでしょう。失敗したのはしょうがないけど、その後のケアをしたら琥珀君なら大丈夫よ」
「そ、そうだよ! 姉様が何を言ったのか分からないけど、きっとお兄さんは許してくれると思うよ!」
大丈夫との言葉に反応したのか、柚香はノロノロと体を起こした。
「本当に……?」
「ええ、だから早く話しなさいな」
「う、うん……」
柚香は姿勢を正して、今日のデートの事を話し始める。
「えとね、今日のデートは本当に上手く行ってたと思う。まぁ他の人とデートした事が無いから多分だけど……」
「そうね、途中まで報告を受けてたから知ってるわ。上手く行っていると思ったから、途中でサポート要員も戻したんだけど」
「うん。スムーズに進んでたと思うの。お昼は屋台で色んな物を買って食べ比べしたり、アーンとかもしたの! 楽しかったぁー。それにねそれにね! 私の口にソースが付いちゃったんだけど、琥珀君が付いてるよって、自分のハンカチで優しく拭いてくれたの? 凄く優しいよね! うん優しい!」
柚木は楽しそうに今日のデートの事を話し始める娘に対して、本当に落ち込んでいたのかと呆れた顔を向ける。憂は憂で柚香の話を聞いて、デートに憧れを抱いたのかキラキラした顔をしている。しかし憂の相手は祭殿下なので、こんなデートは難しい事は分かっているのだろうか。……まぁ憧れるのは自由なので止めはしないが。……しかしノンストップで楽しげにデートの感想を言う娘を見て、その後にどれだけ酷い事があったのかと疑問に思う。
「柚香、デートが楽しかったのは分かったから、貴方は一体何を失敗したの?」
柚木が話を本題に戻すため、そう言うと先程までのポワポワとした緩んでいた表情が一気に暗く落ち込んだ。柚木はコロコロと変わる娘の表情を見て内心で少し驚いていた。娘の柚香は、手間が掛からない娘であった。西華宮の厳しい教育も文句を言わずにこなし、穏やかに優しい性格に育ってくれ、加えて運動に勉強、その他諸々高い水準でそつなくこなし、およそ失敗らしい失敗などした事は無かった。そんな出来が良い可愛い娘を柚木は自慢に思っていた。だからこそこうして失敗をし、弱音を吐く娘を見て、驚くと共にどこか微笑ましく思ってしまう。
「い……」
「い?」
「息をしてすいません……私という矮小な存在がつい調子に乗ってしまいました」
「……本当にあなたは何をしてきたの?」
「ち、違うんです。つい雰囲気にながされて言っちゃっただけなの!」
「だから何を言ったの? 順序立てて話しなさいな」
「う、うん……。えと、遊園地で色んな乗り物に乗ったり、パレード見たりして楽しかったの」
「そう良かったわね、で?」
またポワポワとした雰囲気になりそうだったので柚木は話を進めるように催促した。
「遊園地を楽しんで、最後にレストランでも、って、夜景が綺麗な所で夕食を食べてたんだけど」
「フムフム」
「でね人気のレストランだけあって、景色も良かったし、お料理も良かったの。私達の他にもいくつものカップルがデートしていて雰囲気がもうピンク色だったの」
「ん?」
雰囲気が良いのはわかる。……しかしピンク色? 一緒に聞いている憂も疑問を顔に浮かべている。
「だから私言っちゃったの……」
「……」
「スゥイートを取っているんです。って」
「バカじゃ無いの?」
「わ、わかってるもん! つい言っちゃっただけだもん!」
「大体ホテルの予約なんていつ取ったのよ!」
「お、お昼の後……一応、一応! 部屋が空いてるか確認しただけなの!」
確認だけじゃ無くしっかりと押さえているじゃ無いか。柚木は必死で弁明する娘を見てそう思った。
「でもちょうど一室キャンセルが出たって聞いたら予約するじゃ無い!」
「しないわよ! 初デートで貴方どこまでいくつもりだったのよ!」
「違うもん! 雰囲気に流されただけだもん!」
「流された所か自分で荒波に飛び込んでるじゃ無い! 大体それを聞いた琥珀君のどんな様子だったのよ!」
「……名状しがたい生物を見る目で見られました」
ええそうよね! だって今、憂も柚香をそんな目で見ているもの!
「あんな顔をしている琥珀君を見るのは初めてでした。……なんでタイムマシンって、まだ開発されてないんですかねぇ?」
吐き捨てる様にそう言い、再度テーブルに突っ伏した娘を見て、もしかして家の娘は案外バカなのかも知れないと柚木はそう思った。




