デートの始まり
窓からはライトアップされた夜景が綺麗に見える。落ち着ける個室に加え、派手過ぎない、しかしお洒落であり高級感をしっかりと感じさせる内装。アミューズとして出された紫芋のスープにチーズのマドレーヌは絶品で、この分だと後に出てくるコース料理も期待が出来る。
個室なので他の人の目も気にならず、マナーにも気を配らなくても良いのが高得点だ。この辺りの配慮は流石、南方院 雅と言うべきか。実際ここへ向かう途中でマナーは気にしなくて楽しんで食べて欲しいと言われている。それでいてこの雰囲気を味わわせるのだから、遊び慣れていると言われてもしょうがないのでは無いだろうか?
しかし俺は今、この状況に戸惑っている。……いや、だからこそと言うべきか。
「さっきのアミューズ美味しかったね」
「うん。流石有名なコウディオシェフだね。」
そう言って詩乃さんと柚香さんが楽しげに話をしている。二人とも美しくドレスアップしており、学校で見せる姿とは違い気品や優美さが一段と高まっている。この雰囲気で迫られたら、いくら傲慢な一組の男子でもコロリと落とされるかも知れない。いつもとは違う雰囲気……いわゆるギャップを感じさせると言うやつだ。しかし俺はその辺の男子とは違いチョロく無いので、そんな簡単に落とせると思ったら大間違いである。
ドレスアップしている二人だが、別段緊張している様子は無く、この高級感フレンチでも非常にリラックスしている。おそらく、このお店にも何度か足を運んだ事があるのだろう。
だが、俺が戸惑っているのはこのお店の雰囲気でも、いつもと違う同級生の姿でも無い。
「琥珀君、ここの料理長は有名なコンテストでいくつもの賞を取った事のある有名なシェフなんです」
「どんな料理が出て来ても美味しいし、盛り付けも美しくて、文字通り目でも楽しめると思うよ」
「へ、へぇ~」
二人はこれから出てくる料理に思いを馳せて、とても楽しそうだ。……でも一つだけ言わせて貰いたい。
なんで居るんだよ!?
俺はテーブルをバンバン叩いてそう叫んだ。……もちろん心の中で、である。
今日は南方院さんとのデートである。この日を迎えるにあたって家のメイドからは雰囲気に流されるな、二人っきりになる時は常に注意を怠るな、と口を酸っぱくして言われた。だがここに至ってはその心配は無用となった。
なんか知らんけど二人っきりのデートでは無くなったのだから。ロマンチックな雰囲気なんか到底出せまいよ。よしんば出せたとしても二人っきりには絶対なれないと思う。
事実、南方院さんのその美しい顔が崩れかかっている。おそらく、ぶちギレそうになっているのだろう。……一体なんでこうなったのか? 俺は原因を探るべく今日の出来事を思い返して見る。
◆◆◆◆◆
「琥珀様、そろそろお時間です」
「うん大丈夫。準備できてるから」
マリアは俺の姿を見て、納得するように頷いた。
「琥珀様、何度も申し上げますが雰囲気に流されては行けません。相手は常に琥珀様のお体を狙っています。くれぐれも気を抜かない様に」
「わかってる。何度も言わなくても大丈夫だよ」
「……やはり心配です。これをお持ち下さい。危険を感じたら相手に投げ掛けて下さい」
そう言ってマリアは小さな容器に入った液体を渡して来た。
「? 何これ?」
「……ちょっとした」
「ちょっとした?」
俺が聞き直すと、マリアは人差し指と親指を少し開け、"ちょっと"のジェスチャーを取って言った。
「毒です」
こいつヤベェ。俺は再度認識した。
戦く俺をマリアはコテンと首を傾げ不思議そうに見る 。いくら心配だからと言って毒を渡してくるメイドと言う存在に少しは疑問を抱いて欲しい。
「……なるほど。ご懸念はわかります。安心して下さい。それは対象者に当てる事で発揮し、周囲への被害は一切ありません。琥珀様の運動能力なら南方院相手でもぶつける事は可能だと思われます」
誰もそんな事は心配してない。
「大丈夫です死にません。ちょっと麻痺して高熱でうなされる位です。よしんば事件になったとしても後から検出されない優れものです」
「……そ、そう。でも毒なんて持って歩きたく無いから、置いていくかな?」
「……そうですか」
露骨にガッカリしている。
そんなやり取りをしていると、時間になり家のチャイムが鳴った。
「……どうやらお見えになった様ですね」
マリアはインターフォンを取り、応対する。やはり相手は南方院さんだったらしく。俺は玄関へと向かう。
「やぁ、今日は一段と美しいね」
玄関の扉を開けると、早速の挨拶とばかりにお褒めの言葉を頂いた。
「ありがとうございます。南方院さんも凄く綺麗です」
「フフッ、そう言って貰えると嬉しいよ。君に見劣りしない様に頑張ってみたんだ」
今日の南方院さんは、以前見たパンツスタイルでは無く、美しく着飾った淑女であった。




