恋愛相談
……学校がおかしい。いや正確に言えば一年一組がおかしい。もっと言うなら一組の男子がおかしい。何故か、ほとんどの男子が恋愛や結婚と言う言葉がついた本を読んでいる。雑誌や漫画、小説など様々なジャンルに分かれているが、今までそう言った事に興味が無かったはずの男子が急にそう言った本を読んでいる異常。しかも何故か俺の周りに集まって読んでいる。……なんだこれ?
かなり鬱陶しいが、その中でもとりわけ邪魔なのが、俺の前に陣取って座り、本の表紙を見せびらかすように読んでいる福島だ。ちなみに読んでいる本は『結婚と育児について、旦那さんとのラブラブ生活~私達はこうして幸せになりました~』である。高校一年の俺達に育児の情報は必要なのだろうか? ……もしかして既に育児をしている?
「はぁー結婚って良いよなー」
福島が何か言い出した。パタリと読んでいた本を倒すと福島は思わず本の感想が出てしまったかの様な言葉を吐いた。そして周りもそれに同調するかの様に話に華が咲き始める。
「本当本当。もし俺が今、結婚するとしたら学校やめて主夫業に専念するね」
「いいねー。嫁がいない家を守り。嫁が帰ってきたら癒やす。素晴らしい生活じゃ無いか」
「そのうち可愛い子供ができたりしたら、俺、絶対構い過ぎる気がするー」
「「「「ありえるー!」」」」
キャッキャッ、キャッキャッと楽しげに話をしているが、大変気持ちが悪い。しかも何故か分からないが、コイツらの眼が一ミリたりとも笑っていない。超怖い。俺が内心、恐れおののいていると、福島がポンと手を打ち、思い出したかのように俺へと話を振ってきた。
「そう言えば秦野、お前この間、南方院雅に告白されたんだよな? どうするんだ?」
「いや別に……」
「別にじゃ無いだろう! お前の将来に関することなんだぞ! 親友である俺にぐらい相談してくれよ!」
……いつから福島が親友になったんだ?
「そうだぞ秦野。俺達だってクラスメイトで友達だ。悩んでいるんだったら相談しろよ」
「俺達だって力になるぜ!」
「恋愛関係だったら俺達も他人事じゃ無いからな」
他の男子もそんな声に同調するように頷いている。コイツらはいつから人の気持ちが分かるくらいに進化したんだ。もしや人類の進化は突然起こるのだろうか? ……ダーウィンは間違っていた?
「まぁ秦野が悩むのもわかる。いくら傍若無人、我田引水、放佚無慙なお前でも恋愛については門外漢だろう。その点俺は、既に恋愛に関する書物を十冊は読破したからな。遠慮無く聞いてくれ!」
福島が自信満々に胸をたたく。それを見た周囲の男子は感嘆し拍手までしている。……今、俺さりげなくディスられていたんだが、先ずそこの所の説明をするべきだろう。
「察するに、お前は南方院 雅に告白されて食事も喉を通らない状態だろう」
昨日は江藤さんに鉄板焼きに連れて行って貰い、お腹一杯になるまで食べました。
「お前は南方院 雅を好きか嫌いか、自分の心が分かっていないんだ」
「じゃあどうすれば良いんだ?」
「そうだぞ。自分の心が分かっていないなら答えなんて出せないじゃないか」
周囲の男子の疑問に、福島はフフンと得意気に答える。
「その答えは簡単だ」
「な、なんだって!」
「……ゴクリ、さすが福島、恋愛マスターなだけあるぜ……」
「十冊は読破の実績は伊達ではありませんね」
「こ、答えを早く!?」
……さっきから俺無しで話が進んでいるんだが、コイツら一体。
福島は周りの熱狂を押さえるように慌てるなとジェスチャーをする。
「さっきも言ったが答えは簡単なんだ。告白されて悩んでいる時点で答えは出ているんだ。付き合ってしまえ」
その断言に周囲は驚く。
「簡単な話だ。悩んでいる時点で相手の事は悪く思っていない。本当にどうでも良かったら何も悩まないからな!」
「そ、そうか。なるほど一理ある」
「言われてみれば……だな」
「……盲点だ」
尊敬の眼差しを受け、福島はフッとニヒルに笑う。そして俺の肩にポンと手を乗せ優しげに言う。
「だからさ秦野。お前も意地張ってないで早く付き合うべきだと思うぞ。……そうだな学生結婚なんて今風で格好いいと思うぞ!」
あまりにウザい顔してるので、思わず地獄に落としたいと思った俺は悪くないだろう。
「……で、でも付き合ったらこう言う事するんだよな?」
恋愛漫画を読んでいた一人の男子がプルプルと震えながら本を向けてきた。そこには男女が朝ちゅんを迎えている場面が描かれていた。そのページを見た男子達はヒャーと顔を隠し、恥ずかしがる。とても気持ち悪い。あっ、この漫画の原作、菊水さんだ。
そんな盛り上がる男子達を女子達は見守る様な暖かい眼で見ていた。




