勝利
不貞の現場が見つかった様な感じだが、別にそんな事はない。むしろ、みのりさんが来るまでの時間稼ぎをしていたのだから、喜ぶべき状況のはずだが驚くほど気まずい空気が流れている。
みのりさんはこちらを確認してニッコリとした笑顔を浮かべている。うん大丈夫大丈夫怒っていない。俺の下にいる彼女は顔を真っ青にして、今にも死にそうな程、呼吸を荒くしている。まったく何をそんなに怖がっているのだろうか? みのりさんはやさしい笑顔を浮かべているのに。
しかし今は戦闘中である、いくら事情があろうとも敵とベッドを共にしているのは些か風聞が悪い。俺は押し倒していた彼女からスッと体を離し、みのりさんに状況を聞く。
「やあ、状況はどうなっているのかな?」
「はい、立ち塞がっていた敵は倒して来ました。直ぐには目は覚めないでしょう。……残るはそこにいる外道のみです」
みのりさんは笑顔を深くして未だベッドから起き上がってもいない少女を見た。
「成る程、早々に離脱をしたのは己の王を守る為では無く、こちらの王を獲る為だったのですね。申し訳ありませんでした琥珀さん。早く駆けつけたかったのですが、やはり相手も手練れでしたので遅くなりました。そのせいでこんな……」
みのりさんは肩を震わせ、手を目元にあて拭うような仕草をした。……まるで泣いている様であるが絶対泣いていない。なぜならその体から溢れ出ている怒気は垂れ流しだからである。
「こんな……無理矢理ベッドに連れられ、力づくで押し倒され体を淫らになで回される……! そんな屈辱的な羽目に琥珀さんがあっているなんて!」
「…………ん?」
「怖かったですよね大丈夫です。今始末しますからね。この刀、刃は落としていますけど問題ありませんから」
「ひっ!」
ギラリと光るみのりさんの睨まれた少女はその体をガタガタと振るわせる。……どうやらみのりさんの中では俺は彼女によって無理矢理手込めにされそうになったらしい。どう解釈したらそうなったのかは置いておくとして、このままみのりさんを放置するとお茶の間に映せないオブジェができそうなので、キチンと説明をする。
「いやいや、安心して欲しい。俺は何もされていないから」
「……何も……ですか。本当に?」
「うん。彼女はさっきまでは敵だったけどちゃんと話をしたらわかってくれたんだ。もう俺達の敵じゃないよ」
ねぇ? とベッドの上で震えている少女に聞く。少女はガクガクと勢い良く首を縦に振って肯定する。
「……そう、ですか。しかし彼女も自分の王を守る必要があるのですから虚言ぐらい吐いてもおかしくは……。やはりここは虎徹で叩いておくべきでは……?」
「フフン。彼女が矛を収めてくれたのは……ホラ、あそこ」
俺が示した先には簀巻きになった男子の姿があった。
「……なるほど。既に決着はついていたから彼女は敗けを認めたと」
「そうそう。だから虎徹で殴らなくても問題はないよ」
「……で、でも宝石を嵌めるまでが戦いです! ここはやっぱり安全を考慮して殺っておくべきでは!」
……この娘、取り敢えず彼女を叩きのめしたいだけでは……?
その後、なんとかみのりさんを説得し俺達は詩乃さん達と合流する事にした。詩乃さん達がみのりさんの所にも来ていないと言うことは、まだ戦っている最中なんだろう。敵も粘っている様だが、男子を仕留めた上に残りは自分一人だとわかったら、流石に敗けを認めるだろう。簀巻きにした男子を引き摺りながら俺達はリビングへと向かった。
「ハァハァハァ……」
リビングでは予想通り、まだ戦闘が行われていた。しかしそこで行われていたのは死闘では無く、一方的な蹂躙であった。装置の前で頑張っている少女は満身創痍で疲れきっている。それに対して詩乃さん達は油断無く相手を追い詰める様に、それでいて自分達は傷を負わない様に慎重に相手を削っている。
「流石ですね。東華院さん達は、先の事も考えて安全第一に戦っています」
フムフムと冷静に感想を述べるみのりさん。……いや、まぁ安全は良いのだが、傍から見ると必死に頑張っている少女を痛ぶっている様に見え、こちらが悪役な印象を受ける。これはいけないと俺は急いで声を掛けた。
「無駄な争いは止めよう! もう誰も傷つく必要は無いんだ!」
俺がそう言った瞬間、リビングで戦っていた詩乃さん達の視線が一斉にこちらへと向いた。
「あっ、琥珀くん。終わったんだね」
「無事で良かったです」
詩乃さんと柚香さんが喜びの歓喜の声を挙げて迎えてくれるが、ガスマスクをしたままなので超怖い。俺はまだ戦闘体勢をとかない少女に安心感を与える様にゆっくりと話し掛ける。
「もう決着はついた。戦いは終わりだ」
話し掛けられた少女は、俺を見て、次に俺に寄り添う仲間の少女、そして最後に簀巻きにされた彼女達の王様を見ると大きく溜め息を吐き、その両手を挙げた。
「……降参、じゃの」
俺達は勝利した。




