応募した?
週末が明けいつもの様に登校するが、
「……見られている」
いつもと違い……いや、いつも登校するときは周りの人に注目されながら登校しているが、今日はいつも以上に周囲の人の注目を集めている。もしかして、これもテレビの影響なのかも知れない。あそこで歩いている子もテレビに出るのかもと言う単純な好奇心だろう。多分学校ではもっと注目されるのだろう。……困ったな、俺は特別待遇とか優遇措置とかは大好きだけど目立つのはそれ程好きじゃ無いんだけど、いや本当。
その俺の考え通り学校が近づき絢爛の生徒が増えていくにつれ、俺への視線の数も増えていく。それは女子だけでは無く男子の視線も同じである。参加するかと言う興味ならば他の男子にも視線が行くはずなのに何故か俺に集中している。俺としては男子達はあの番組の文句を言いながら登校しているものとばかり思っていたので今のこの状況は大変不思議である。とは言え”こっち見んじゃねえ!”と怒鳴る程、狭量でも短気でもない俺は甘んじてこの視線の雨にさらされながら教室に向った。
一年一組の教室はいつも女子達が元気よく喋っていて活気があるのだが、今日はその女子達の声の他に男子達の声も良く聞こえて来る。
「おはよう」
そう言って教室に入ると、次々とおはようとの声が返ってくる。俺が席に着くと取り囲む様にクラスメイトが集まってきた。
「琥珀さん琥珀さん男子王決定戦の放送見ましたか?」
「秦野さんは出るんですかー?」
「もちろん出るよね出るよね?」
「琥珀さんでしたら間違いなく優勝ですね!」
「私もちゃんと応援するね」
……言葉を聞くとクラスメイトは俺が出ることを疑っていない様だ。
「男子王の事知ってるけど応募はしてないよ」
俺がそう言った瞬間、教室のいたる所からガタリ! と大きな音が鳴った。そちらを見ると男子達が揃って立ち上がっていた。男子達の表情は揃って驚愕であり、信じられないと言う気持ちがその表情から窺う事ができた。何をそんなに驚いているんだろうと思っていたら、男子達が女子達を押しのけて俺の席を囲んできた。……何か最近、男子に囲まれる事が増えてきた気がするな。なんだろうこれは男子にも人気が出てきたと言う事で良いのだろうか? さすが俺であると言って良いのだろうか?
「やあ、みんなおはよう。血相抱えてどうしたの?」
「そんな事はどうでも良い!」
どうでも良くねえよ。挨拶したんだからキチンと返せよ、悲しくなるだろうが!
「お前出ないつもりか!」
「えっ、ああ男子王ね。出るつもりは無いけど」
「貴様! 絢爛の王と名乗っておきながら……!」
「そうだ! 情けないぞ! あの仮面の男を許しておくのかよ!」
「まぁ過激な発言だったけどね。俺が出るほどでも無いと思ってね」
「君が出ると思っていたから、遠慮していたんだがね……遠慮はいらない、そう取っていらないと言う事かな?」
「遠慮? 俺に? そんな事考えなくて良いよ。君達が男子王になれるんだったらなってきたら良いんじゃ無い?」
番組を盛り上げて欲しいとの思いから俺の事を気にせず頑張って欲しいと伝えたつもりだったが……うん、少し言い方間違えたかも知れない。この言い方だったろお前達がなれる筈無いだろうと聞こえるかも。やはり、と言うか俺の言葉を聞いた男子達の顔が憤怒に染まった。その逆に事態の推移を見守っていた女子達は目がキラキラしている。恐らく滅多に見ることが出来ない男子達の真剣なやり取りに喜んでいるのだろう。その証拠に……
「男子達の真剣な議論……動画に撮ったら再生数稼げるわ」
「いや、こんな貴重なシーンは私達だけの思い出としてとっておくべきだわ」
「学生時代の思い出……素晴らしい……」
何だろう少し悲しくなる言動だ。男子達は俺に集中しているのかそんな女子達には気づいていない。
「良いだろう……このクラスだけでは無く。この学校の男子の殆どがお前に気を使って応募を控えていたが、お前の事は気にしなくて良いと伝達しておこう」
こいつら俺の知らないところでネットワークを構築してやがるのか……。しかし王と言えばあいつはどうしたんだろう? 囲んでいる男子の中にその顔が見当たらない。彼こそ俺がいない時に王様を目指して頑張っていたんだから、絶好の機会とやる気を漲らせていると思っていたんだけど……あっ見つけた。彼……福島は何故か汗をダラダラ流しながら顔を青くしていた。俺はそんな彼の態度にピンと来た。
「ねぇ福島? 君、顔色悪いけど何かあった?」
「べべべべ別に! なに……も……」
尻すぼみに声が小さくなる福島。明らかに何かやっている。俺がそのままじっと福島を見ていると他のクラスメイトも福島に注目しだした。その視線に我慢できなくなったか。彼は懺悔するようにポツリポツリと声にする。
「いや、本当に違うんだ……その……良かれと思って……」
「ああ、何かをしたんだ。大丈夫怒らないから言うと良い」
俺が優しく語りかけるように言う。
「そ、そうか! 本当だな! じゃ、じゃあ言うぞ。その……秦野だったら確実に出ると思ったから……代わりに応募しておいたんだ男子王決定戦!」
……なるほど前世で言うところの”友達が勝手に応募しちゃって”枠か……。
「取り敢えず、校庭十周してこいお前」
「怒らないっていったのにー!」
福島は涙ぐみながら教室を出て行った。




