大混乱2
さてどうしよう、まさに大混乱である。いやそれ以上に俺への風評被害が広がらないか心配である。言葉だけ聞くと、キスをした、裸で抱き合った、挙げ句の果てには顔をペロペロしたである。しかも全員違う女の子と言う始末である。これではまるで俺が見境の無いビッチ……いや、この場合はヤリチンとでも言えば良いのか? ……いけない、これはいけない。……魔性の男だと宝石の如く高貴な印象を与えるが、ヤリチンと言うと途端に駄菓子位のお求め安さになってしまう。
取り敢えず説明できる程度に落ち着いて欲しいが、一向に落ち着く気配が見えない。女子は雄叫びをあげているし、男子は"俺達も経験するべきか"等と相談している。
「どうしたの外までうるさ――ってええっ!」
おおっ! 誰が来たのかと思えば西華宮のお嬢様が登校してきた。柚香さんは今まで見せた事の無い程の驚愕した表情で教室の惨状を見ている。それもそうだろう、今や一年一組は狂気の坩堝と化している。この状況を見て引かない人はいないだろう。柚香さんの驚愕と言う大変レアな物を見たが、俺がお願いしたいのは、控え目に言って助けて欲しいと言うことだ。どうぞお願いします。
柚香さんは状況を把握する為か、教室を見渡していたが俺と眼があって何か納得したのか軽く頷いた。まるでこの状況の原因が俺にあるとでも言わんとばかりの態度に物申したい。柚香さんは両手を広げ勢いをつけて手を打った。パァン! と大きな音を立てた拍手は不思議と教室に響き渡った。その清浄な響きは教室に漂っていた不穏な空気を払ったらしく、教室は一瞬静かになった。
「あっ、お早う西華宮さん」
「おはよー」
「おはよう、今日はちょっと遅かったね?」
とは言え、今までの狂騒が無かったかの如く、にこやかに挨拶を始める一組の生徒はどっかおかしいと思う。
「おはようございます。それでどうしたの? 教室の外まで騒ぎが聞こえてたよ?」
「そうだ! 聞いてよ西華宮さん! そこの三人が秦野君の何か色々奪ったんだよ!」
「……ごめん、全くわからない」
西華宮さんは困った顔をして、三人……八千草さん、みのりさん、舞澄さんに顔を向けた。
「えっと……何をしたのかな?」
「キスをしました」
「顔を舐めて貰いました」
「一緒にお風呂に入って、抱き締め合いました」
三人は"それが何か?" と言わんばかりに堂々と返事をした。その返答に柚香さんは少し驚いた顔をした後、優しく微笑み……
「ギルティ」
三人に有罪を言い渡した。
「バカな!」
「そんな! 愛し合う二人を裂くと言うのですか!」
「メイドさんに殺られる恐怖を既に味わったのに!」
三人は抗議の声をあげるがクラスの女子は既に刑を考えている。
「よし有罪が出た、どうする?」
「一週間パンの耳だけで生活とか」
「いや、逆にお菓子一杯食べさせて太らせよう」
「いやいや、ムダ毛の処理をさせないとかどうよ?」
「もう、すっぴんで登校させようよ」
「三枝は軽くしてるが、八千草と舞澄は既にすっぴんだ。意味は無い」
「……どうしよう、純粋な殺意が芽生えてきた」
その様子を見て柚香さんはクスッと笑って皆に言った。
「嘘だよ、三人が羨ましいのはわかるけど何も悪い事した訳じゃないからね、ノットギルティだよ」
優しさ笑顔で言う柚香さんにクラスの雰囲気はいつの間にか柔らかくなっていた。そして俺はここまで殆ど発言していない。
「琥珀君、念の為に聞いて置くけど、無理矢理されたんじゃ無いんだよね?」
おっと、話を降られてしまったぞ。……少し考えてから俺は首を縦に振った。
「無理矢理じゃないよ。八千草さんはきつい部活の扱きに耐えて劇の主役をこなし成功させたご褒美に、みのりさんは……」
みのりさんは酔っ払った勢いで……なんて言える筈も無い……。いや、そもそも俺が飲んだのはお米のジュースで、酒では無いのだから酔っぱらう筈も無し。
「み、みのりさんは……」
「みのりさんは?」
柚香さんは邪気の無い顔で聞いてくる。その天使の様な顔が今だけは悪魔の様に見える。
「傷だらけだったから消毒的な意味で……」
「…………」
柚香さんの顔が"普通に消毒液使った方が良いですよ"と言っている。凄い残念な子を見る顔である。屈辱だ。
「一緒にお風呂とは?」
「たまたま泊まった旅館が同じで、混浴の露天風呂に入ってたら天然の舞澄さんが後から入ってきた」
「て、天然じゃないよ!」
金髪の天然少女が何か言っているが、自分の事が良くわかっていないらしい。
「えと、抱き締め合ったのは?」
「そこの金髪が転びそうになったのを支えただけ」
「金髪じゃないよ! ……ごめんなさい金髪です」
なんだか舞澄さんが落ち込みだした。もしかしたら自分が天然だと気づき始めたのか? 一方、そこまで聞いた柚香さんは皆の方に向き直り、
「ホラ、全部理由があるじゃない。もしかしたら皆も、キスしてもらえるかも」
柚香さんは皆に語りかける様に言った。この三人だけが特別じゃ無いのだとそう言ったのだ。
「なるほど私も何か成功すればキスのご褒美が……?」
「戦場から戻ってきたら傷を舐めてもらえる……?」
「一緒の旅館に泊まって、秦野君が混浴に入るのを察知して自分も入れば……いや、無理でしょう……なんなのその特殊イベント」
ようやく皆が落ち着き出した時に始業のチャイムが鳴った。
「さっ、早くみんな席に着かないと」
柚香さんにそう言われてみんな席に戻りだす。
「あっ、そうだ琥珀君」
自分も席に着こうとした柚香さんは思い出した様に俺の側に来てこう言った。
「今度私にもしてくださいね」
ちょっとドキッとした。
琥珀「そう言えば三島さんいないな」
先生「三島さんは風邪でお休みです」
百合「コホコホ。秦野君がいない時で良かった……」




