手を繋いで
副会長が出て行った後、俺達を案内する為に別の生徒会の人が来た。どうせ部屋に居たんなら副会長が案内すれば良かったんじゃないか、とも思ったが絶対に録でも無いことになると、考えを改めた。全くあの副会長にも困ったものだ。
「さっきの人、凄く怒ってたね。ダメだよ仲良くしなきゃ」
詩乃さんが折角の友好イベントなんだから、と苦笑しながら話し掛けてくる。
「ごめん嫌な思いさせたかな? あの副会長が詩乃さんに酷い事を言ったのを聞いて少し頭にきたんだ」
少し顔を伏せ、悲しそうに言ってみる。全くもって悪いと思ってないが高言っておけば好感度アップになるだろう。肝は自分の為では無く貴女の為に怒ったんだ、言う所である。
「それは……その……嬉しかったけど……。でもそれでこのイベントが上手く行かなかったら、頑張ってた琥珀君に迷惑が掛かるから……」
どうやら、詩乃さんは俺の心配をしてくれたらしい。ここは攻め時である。……一体何と戦ってるのか分からないがここは攻め時である。
「このイベントの成功は確かに大事だよ。でもそれ以上に詩乃さんの事が大事なんだ」
さりげなく詩乃さんの手を両手でつつみ込み、しっかりと目を見て言う。詩乃さんの手から伝わってくる体温が段々と高くなってくる。
しかし何である。俺は移動中に何でこんな事をしているのだろう。イベントの当事者が紹介に遅刻するのは些か外聞が悪い。名残惜しいがここまでにしてお――――
「何をグズグスしている!」
しておこう。そう思った時に声が掛けられた。一々誰だと思うまでも無いほど聞き慣れた声である。
「きびきびと行動しろ! 貴様団体行動も出来ないのか!」
漬け込む隙を見付けたのが余程嬉しいのか、言葉とは顔はニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「上手く隠せていたようだが、日頃の横暴な振舞いの癖がここで出たな。これだからうわべだけの奴は駄目なんだ。少しは反省したらどうだ、ああ、すまない貴様の辞書には反省と言う文字は無いんだよな? 猿でも出来ることだが……残念な奴だ……」
野郎、驚く程楽しそうに話し掛けてくる。しかしここまで挑発されては温厚で名高い秦野さんちの琥珀君も思わず手が出てしまいそうになる。静まれ俺の右手……。
「しょうがないから案内してやる、さっさと着いてこい」
大丈夫、大丈夫、俺は冷静だ。言い返したり暴力で解決しても意味が無い。何たって俺達は友好のために来たんだ。少しぐらいの問題は寛大に許そう。
「こ、琥珀君。その……」
詩乃さんが何か言いづらそうな表情をしている。一体どうしたんだろうか?
「えっとね……その……」
「何かな?」
名状し難い複雑な表情をしているので、俺は安心して貰うために穏やかな笑顔で問いかける。
「そ、その……振り上げてる消火器は下ろした方が良いよ……」
その言葉と詩乃さんの視線の先に目を向けると消火器が有った。と言うよりも俺が右手で持ち上げていた。
……俺は消火器から目を離し前方を見る。副会長は案内すると言っていた癖に、こちらを窺う事もせずズンズンと進んでいく。その背中は隙だらけで、今俺が右手に持っている消火器を投げつけたら大打撃を与えられそうだ。
…………やってしまうか。まるで悪魔に囁かれたかの様な誘惑が俺を襲う。勿論普段の俺ならかんがえもしない行動だが……今なら少しぐらい良いんじゃないかな、と思ってしまう。少しぐらい、そう……ホンのちょっとぶち当てるぐらいなら……。
「…………良いよな?」
「だ、ダメだからね!」
チッ! 詩乃さんから制止の声が掛かってしまった。しょうがないのですっとぼけておこう。
「うん? 何がダメなの?」
そう言いながら俺は持ち上げていた消火器を何もなかった様に元の場所に戻す。
「えっ、あっ……ごめんなさい。何がと言うより、凄く悪そうな笑顔だったから咄嗟に……」
「今日は暑いから、そのせいかな?」
俺は不思議そうな顔をして首を傾げる。もう消火器の事には一切触れない。
「そ、そうかな? ……そうだね!」
詩乃さんは屈託の無い笑顔を向けてくれる。なんてチョロ……いや、なんて純真なんだ、とても良い子である。詐欺に騙されないか大変心配である。
「ホラ、琥珀君行こう。またあの人に怒られちゃうよ」
そう言い、詩乃さんは俺に手を向けて来る。俺は差し出された手をそっと握る。
「えへへ」
手を繋ぎながら二人で歩いていると詩乃さんが嬉しそうに笑ってくれる。その表情を見ていると何だか俺までも幸せに気分になってくるから不思議である。まるで青春している様な気になってくる。
そして副会長の背中を追い皆と合流した。そしてとうとう入場となる。説明では紹介されたあと入り口からそのまま壇上まで歩きそのまま壇上に上がる。そして改めて紹介された後、真田生徒会長による挨拶となる。俺はただ歩くだけで良い。生徒会長を見ると顔が強張っているので心の中で応援しておく。
頑張れ! 負けるな我らが生徒会長!




