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晴明生徒会書記の憂鬱

 伝統と歴史に裏打ちされて名高い晴明男子学校の校舎を一人の男子が歩いている。彼とすれ違う生徒達は皆頭を下げて通りすぎていく。彼はその光景に何の疑問も持たずに歩みスピードを緩めない、しかしそれも当然である。彼は晴明男子の中でも特に権力と人気がある人物の一人だからだ。晴明男子学校生徒会書記、大塚(てつ)は生徒達の尊敬を集める者である。


 そんな彼だが現在は少し苛立っている。絢爛高校との交流イベントを控えて学校全体が浮わついているからである。イベントの発表した時こそ、女子が来ると言うことで男子達は一様に驚愕と悲壮な表情を浮かべ、中には衝撃のあまり叫んだ者も居たぐらいである。


 それもそのはずで、例外もあるが晴明に来る男子は箱入りである。蝶よ花よと大事に育てられてきたのだ。当然、女子と接する機会などそうそう有るものでは無い。中学校や小学校では女子と共に過ごすが、その時も必要な時以外では口をきかなかったと言う者も多く、中には女子と同じ環境にいるなど危険すぎると言うことから家庭教師をつけて学校に行かせなかった親もいるほどである。昨今、子離れできない親が社会問題になって来ているらしい、男子の親限定で。


 そんな境遇の者も含むこの晴明であるが、交流イベントが近づくにつれて浮わついた空気が流れ出ている。女子に免疫の無い男子が強引に迫られて、恋人関係になるかも知れないと少しはしゃいでいるらしい。どうやら、ドラマや漫画等でそう言うシーンがあるらしくそれに影響されているらしい。そんな周囲の反応を思い嘆かわしい事だと大塚は愚痴を吐き出したくなる。


 確かに少し強引で悪い雰囲気のする女子に惹かれるのはこの年代ではある事だ。しかし、彼らはこの晴明男子学校の名誉ある一員なのだ軽々しい態度は控えてもらいたいものだ、と大塚は心中で吐き出す。


「大塚先輩」


 その呼び掛けで大塚は足を止めた。それはただ呼ばれたから止まったのでは無く、知った声であったのが大きい。


「フム、彰人どうした」


 そこにいたのは大塚が自身で指導に当たっている後輩、前頭彰人だ。大塚は、素直で先輩である自分を立てる事を知っており、学業も優秀、生活態度も良好、その上教師陣からの評価も良いこの後輩を大変気に入っている。ただ一つ心配なのは付き合いのある友人が些か問題のある人物というだけである。


「いえ、絢爛との交流イベントってなにをするか少し気になって……」


 その言葉に大塚の眉が少し上がる。まさかこの自慢の後輩が他の生徒同様に浮かれているのではとの危惧からである。


「……詳細は後日連絡となっている。いくらお前と言えども情報を漏らす訳にはいかない」

「そうですよね……すいません変な事聞いてしまって」


 前頭は大塚の言葉を受けてしょんぼりと肩を落とした。大塚はその様子を見て心を痛めたが、立派な男子として導かないといけないため心を鬼にして慰めなかった。


「しかし彰人、何故急にイベントの内容など知りたがったのだ? お前はこのイベントに興味等持っていなかった様に思えたが……」

「あっ、それは……」


 シュンとしていた筈の後輩が急に元気を取り戻した事に大塚は酷く嫌な物を感じていた。そしてその予感は的中する。


「秦野君が付き添いとして一緒に来るらしくて昨日、宜しく頼むと連絡が有ったんです。だから僕、秦野君の助けになる事が無いかと思って……」

「……なるほど彼が来るのか」


 ならば今日開かれる臨時の会議はそれ関連か、と大塚は思う。また副会長の奴が荒れるなと思ったが、今はそれよりも気になる事が大塚には有った。


「彰人、助けになりたいと言うのは……その……なんだ……、友人としてだよな」


 大塚の言葉に前頭は不思議そうな顔をした。


「それ以外に何があるんですか?」

「いや、それならば良いのだ。では俺は会議があるので行くな」

「はい、ありがとうございました」


 後輩と別れ、会議室に着いた時中から怒声が聞こえてきた。大塚は危惧していた通りになっている事に溜め息をつき会議室の扉を開けた。


「おい、少し声を静めろ。外まで聞こえているぞ」

「大塚か、絢爛から送られてきた資料だ」


 大塚は生徒会長の白銀から渡された資料を手に取り席につく。ざっと確認すると交流イベントに参加する生徒の一覧が記されていた。その中には秦野琥珀の名前ももちろん有った。


「お前達何を呑気にしている! あの邪悪な人間が自分の高校だけでは無く、この名誉ある晴明男子高校にまで食指を伸ばして来ているんだぞ!」

「何度も言うが考えすぎだ」

「お前こそもっと考えろ白銀! 対処が遅れたら終わりなんだぞ!」

「お前は一体何を警戒してるんだ……」


 白銀は疲れた表情でそう言った。恐らく日比谷の相手で疲れたんだろう。この状態の日比谷の相手をしていたのでは仕方が無いと大塚は白銀に同情し、少しサポートするかと口を開いた。


「日比谷、お前は生徒達を信じていないのか?」

「……なんだと?」

「白銀やお前、そして歴代の生徒会メンバー達が指導してきた晴明の生徒達を信じていないのかと聞いている? 高々、他校の一生徒にどうにかされるのか、と聞いている」

「それは……」

「どうなんだ!」

「そ、そうだな……、すまなかった。アイツごときが何をしようとこの学校の生徒達が揺るぐ筈が無い。白銀もすまなかった。みっともない所を見せた」

「……いや、わかってくれたら良い」


 多分わかってくれていないが、取り敢えず治まったからこのままにしておこうと言うのがまるわかりだな、と大塚は白銀の態度から読み取ったが指摘しても良いことが無いのでそのまま放っておく。


 しかし、生徒達は浮き足だっているのは実際にあるので大丈夫だろうかと大塚は少し不安に思った。

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