遭遇
薄暗い……、俺は窓の外を見てそう思った。本日は曇天である。空は厚い雲に覆われ、太陽を完全に隠している。朝の目覚めが良かっただけにその清々しさを吹き飛ばす様な天気に少し気分が滅入る。昨日の天気予報では快晴な筈だったんだが……、残念ながら気象予報士のお姉さんの予報は外れてしまった。
この空を見ていると不安な気持ちが湧いてくるのは、決して今日行われる清明との会議のせいでは無いと思いたい。……そう今日なんだよ。向こうの生徒会との会議と言う名の顔合わせ……。数人しか来ないらしいけど、男性が来るとの事で生徒会メンバーには箝口令が敷かれていたが、何処から漏れたのか新聞部にスッパ抜かれてしまった。ええ、会長が頭かかえていましたね。
清明の生徒が来ると言うことで、女子は何だかソワソワしている。……気持ちはわかる。純粋培養の箱入り御坊っちゃまが拝め、もしかすると出会いがあり、そこから恋が始まる可能性もあるのだから、期待に胸を膨らませているのだろう。……まぁ妄想止まりだろうが。逆に男子はピリピリしている。同じ男子で一応生徒会のメンバーである俺にも苦情が来た程である。曰く……"あんな性格の悪い奴等と共催なんかできる筈がない"との事だ。鏡見てみろと言わなかった俺は我慢強いと思う。
薄暗い空を見て今日までの事を思い出すが不安しかない。とは言え向こうも生徒達を束ねる生徒会のメンバーである。一般生徒達と違い人格者が来るかも知れない。俺のこの不安も解消する事があるだろう。
そう思いながら放課後まで過ごし、とうとう顔合わせの時間がやって来た。実はこの顔合わせ向こう側が少数と言うことでこちら側も会長と副会長の二人、それに加えて同じ男子と言うことで俺が会うことになっている。理由としては同じ男子を入れる事で安心感を与えたいとの事である。
取り敢えず、会長達と合流して出迎えなければいけないのだが……窓の外に気になる光景が映っている。何故だか結構な人数の女子生徒が集まっているのが見えるのである。何をやっているのかとよくよく見てみると、その中心に一人の男子が見える。そしてその男子の制服はここの物とは違う。清明の生徒会の一人かと俺は納得した。……何故一人でこんな所にいるのか解らない。まぁ用がすんだら合流するだろうと思い、その集団から眼を離そうとした瞬間その男子と眼が合った。そしてその眼は救世主を見る様な眼をしていた。
とどのつまり、助けろと仰っているらしい。俺の視力が悪かったら知らんぷりをする事もと出来たが前世も今世も視力は良い。相手もこちらを認識している事から無視すると今後に影響が出るだろう。俺は溜め息をつくとその場所に向かっていった。
「迷ったんだよね? 何処に行きたいのか教えてくれれば案内するよ」
「いや、私ほど学校に詳しい者はいないから私に任せてくれたら最短で連れていくよ!」
「いやいや、ここは散歩部の私の出番でしょう。絢爛のオススメスポット案内しよう」
「お腹減ってないかな、ちょっと食堂でスイーツなんか食べない? 丁度新作ケーキが出たところだし。美味しいよ?」
……どうやらこの男の子は迷子らしい。女子に囲まれ話しかけられる度にビクビク体を震わせるさまは庇護欲を掻き立てる。俺よりも低い身長に童顔。ショタ好きには堪らない逸品だろう。そんなショタっ子は俺の姿を見つけると助かったと言う顔をした。……見なかった事にして通り過ぎたら絶望に落ちたかの様な顔をしてくれるだろう。やってみたいとの誘惑に駆られたが、なんとか我慢した。
ショタっ子の周りにいる女子も表情の変化に気付き俺がいる方へ顔を向けるとデレデレしていた顔を一変させ口々に言い訳を始めた。
「ち、違うの! 困ってるみたいだったから助けになればと思って声をかけただけなの! 誤解しないで欲しいの!」
別に怒っていないんだが。
「そうなの! 別に浮気とかじゃないからね!」
……どちら様でしょうか?
「ああ……、その蔑む様な瞳も素敵だ……」
至って普通の眼ですが!
そんな言葉を浴びながら進んで行くと取り囲んでいた女子が自ずと道を開けてくれた。まるでモーゼの様である。そうしてショタっ子の前まで行き、話しかける。
「清明男子学校の方ですよね? こんな所でどうしたんですか?」
「あっ、その、少しトイレをお借りしたら迷ってしまって……」
「そうですか。この学校は広いですから仕方がないですね。これから清明の方を出迎えに行くので一緒に行きましょう」
「あ、ありがとうございます」
ショタっ子は安心した様に笑顔を浮かべた。俺は周りの女子に理由を説明し解散してもらった。その際、"困っている人を助けていたなんて素敵ですね"と褒めておいた。こういう小さい事からコツコツやるのが良い評判に繋がるのだ。
「あの……」
俺が自分の行動に花丸を与えているとショタっ子から遠慮がちに声をかけられた。
「ん……何か?」
「僕は清明男子学校から来ました田町 一と言います。副会長をしている日比谷の補佐役をしています。宜しくお願いします。申し訳ありませんがお名前をお伺いしても良いでしょうか?」
「ああ、これはご丁寧に。僕の名前は秦野琥珀と言います。生徒会では雑務をしてます。宜しくお願いします」
俺の返事を聞いたショタっ子は先程迄の笑顔がなくなり、急に顔を青ざめさせた。そして恐らく無意識にだろうポツリと言葉を漏らした。
「暴君……秦野琥珀」
張り倒すぞこの野郎。




