登場
殿下との話が一段落したのを見て、こちらの様子を窺っていた他の招待客が続々と挨拶に来た。恐らく次代の西華宮の当主と懇意になっておきたいとの思惑もあるのだろう。ほとんどの人が柚香さんを褒めこれからの西華宮は安泰だと言っていた。そして俺が自己紹介をした時には必ずと言っていいほど俺を二回見る。詳しく言うと、まず顔を見て、次に上半身を確認、そして腰を見て、足を見る。そこまで行ったら再度、顔を見て最後に各々の好きな部分に眼を走らせる。
薄いドレスだから仕方がないのはわかる。以前の東華院のパーティーでも見られたからな! 欲望に忠実な人達である。大変素直でよろしい。しかしながら、さりげない風を装っているのだろうが、凄くわかりやすいと言っておこう。
柚香さんは俺との関係を尋ねられると、"大事な人です"と笑顔で返していた。その言葉を聞いた人はホゥと感心した様な表情を浮かべ、この年で大したものだとつぶやいていた。……男を連れているだけで本当に評価が上がるのだなと感心してしまった。
「柚香」
「あっ、詩乃」
おっとここで知り合いが登場した。
「本日はお招きありがとうございます。母は外せない用事があり来ることができず申し訳ありません」
「いえいえ、次代の東華院を担う方にいらして頂いて大変恐縮です」
そう言って二人ともが丁寧な挨拶を交わした後、顔を見合わせフフッとお互いに笑い合った。そして詩乃さんは側にいた祭殿下にも頭を下げた。
「こちらにいらしたんですね殿下」
「うんうん~、しーちゃんもお久だね~」
「殿下はお忙しいですから。時間がありまたら我が家にもお越しください。歓迎いたします」
「ありがと~」
……これは本音か社交辞令か? 詩乃さんの顔からはどちらかわからない。邪魔をしないように静かに見守っていたら詩乃さんの顔がこちらに向いた。
「こ、琥珀君もこ、こんにちは……、そ、そのドレス、ににに似合ってるね……、うん!」
詩乃さんは顔を真っ赤にしながら今日のドレスを褒めてくれた。初々しいとでも言えば良いのか。大層可愛らしい。しかし王族に対するより緊張してる気がするのは何故だろう?
「ありがとう。詩乃さんもいつも可愛いけど今日はもっと可愛いね」
「っ! そそそっかなー、そう言って貰えるとおめかししてきた甲斐があったよー、エヘヘ……」
今日の詩乃さんは少し大人っぽく黒のドレスである。スカートには美しい刺繍が施されており詩乃さん自身の魅力と合わさり小悪魔的な可愛らしさとなっている。
ぶっちゃけた話、今世の女性は俺の認識では全員美人、美少女なので可愛いやら美しいやらであるのだが、全員に同じような褒め言葉を掛けていたら変わり映えが無く、どうするか悩みどころなのである。……『君は僕の生き甲斐だ!』とか『君の存在は荒野に咲く一輪の花のように僕の心を癒やしてくれる。ああっ! 君の存在が僕にとってどれだけ重要かわかってくれるかい? いや、わからないだろう! それ程までに君の存在は僕の心に住み着いているんだ!』等と言った方が受けが良いのだろうか? と考えているのだがどう考えても、頭がおかしい人に思えてしまい実行に移せない。第一こんな言葉いつ言うのか? と言う事がある。
「も~すぐだねよ~? 憂君が来るの~」
「はい、そろそろ来ると思います」
「楽しみだな~」
殿下がうきうきしている……。やはり、婚約者に会えるのは嬉しいのだろう。
「憂君かー、久しぶりだなー」
「詩乃さんは会ったことがあるんだっけ?
「うん。会ったこと自体はあるけど、喋った事はあんまり無いかな。挨拶するぐらい」
「あの子、人見知りだから、それでも大分とマシになったんですよ」
柚香さんがそう言うって事は少し前はもっと酷かったのか。俺と最初に会った時は直ぐに打ち解けたけど。やはり女性が怖いのかな?
そんな事を考えていると入り口の方が騒がしくなった。どうやら今日のパーティの主役がお出ましのようである。現れた優君はご両親を伴って前へ歩いて行く。どうやら挨拶をするらしい。招待客の視線を受けて歩いている憂君を見て、女性陣達はウットリとしている。
「流石、西華宮の宝石と言われているだけあるわ。なんて可愛らしい……」
「凜々しいお顔。年下だけど来る物があるわ!」
「西華宮は長女も美しい少年を手に入れている。順風満帆だな……」
「も~、きゅ~んって来るね! きゅ~んって!」
殿下落ち着いてください。
前に着き、母親の柚木さんがウェイターからマイクを受け取った。どうやら先ずは現当主である柚木さんが挨拶をするらしい。
「皆様、本日は息子の誕生日を祝うためにお集まり頂きありがとうございます。皆様のご高配を賜り息子も健やかに成長しております。息子からも皆様に感謝の言葉を申したいとの事でお聞きください」
柚木さんからマイクを受け取り憂君は話し出す。その表情からは緊張している様には見えない。流石大貴族の一員である、しかし内心はガクガクブルブルしている事であろう。
「皆様、本日はお忙しい中お集まり頂き、又、お祝いしていただける事に深い感謝を送らせて頂きます。これから皆様とはこれから先、お目通りする機会が出てくると思います。その際にはどうかよろしくお願いしいたします」
そう言ってペコリと頭を下げた。
その瞬間、万雷の拍手が会場に響き渡った。招かれたお客さんからは”素晴らしい少年””流石、西華宮!””なんて礼儀正しい男子だ”と非常に評判が良い。
その証拠に…………。
「ね~、すごいね~! さすが~ういくん~! もうクルックルッする~、ね~、キュンキュン~だね~」
興奮したようにそう言い、俺の腕を掴みガクガクと揺さぶってくる殿下がいる。ねーねーと俺に同意を求めてくる殿下に俺はニコリと笑顔を返す。
その意味は、『ちょっと何言ってるかわかんないんで、ちょっとお口にチャックお願いします』である。
ただし口には絶対に出さない。




