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久々の登校

 ようやく風邪が治った。いや、元々大したことは無かったのだが、大事を取ってしばらく休むべきだと! 風邪で死ぬ事もあるのだからしっかりと体を休めるべきだ、と言われ三日も学校を休んでしまった。


「琥珀様、お身体は如何でしょう? もう少し療養された方が宜しいのでは?」


 見送りに来ているマリアが如何にも心配しています、と言う体で言ってくるが、この人は俺が完治している事を知っている。


「洋子さまも仰っておりました。"琥珀君はもう少し休んでしっかりと治した方がいいよ。そう、マリアの人肌で温めて貰うとか、口移しで風邪をマリアに移すとか!"」

「そんな事一言も言ってなかったけどな!」


 母親が言ったのは"病気の間は一緒に寝るべきだ! だって風邪は人に移すと治りが早いって言うし!"である。

 正直、マリアも母親もどっちもどっちである。


 俺の反論を受け、マリアはその美しい顔をプイッと横に背け、


「そうでしたか? 申し訳ありません記憶違いをしていた様です」


 とこちらの眼を見ずに言っていた。どう考えても覚えている態度である。恐ろしい程の白々しさである。


「じゃあ、行ってくるから」

「はい、いってらしゃいませ」


 マリアに挨拶をして、俺は久々となる学校へと足を向けた。

 登校している最中、何故か周囲の人からホッとした顔を向けられ、"良かった"だの"今日はいい日だ"だの"王が復活した"だのと聞こえて来た。……恐らく心配してくれていたのだとおもうが、縁起物扱いを受けているようで複雑な心境である。


 そんな周囲の声を聞きつつ教室に着いた。どうやら、結構な人数が居るらしく声が聞こえてくる。俺は興味本意で耳をドアにあて中の様子を窺ってみた。


『早くして! 男子達にが来る前に神を復活させる儀式をしなきゃダメなんだから!』

『わかってる! もう準備終わる!』




 ………………俺はドアから離れて改めてクラスを確認する。そこには確かに一年一組と記されている。どうやら、俺が休んでいる間にこのクラスは、怪しい宗教を信奉するようになったらしい。


 どうしよう、凄く関わり合いになりたくない!

 しかし、ここまで来たら怖いもの見たさと言う気持ちも出てくる。俺は意を決してドアを開ける。その瞬間中から音が盛大に鳴り響いた。


 大きな音だったので、俺は恐る恐る教室の中を確認すると、そこには女子達が整然と座っているだけで可笑しな事など何も無かった。……コイツら、あの一瞬で儀式とやらを隠したのか!? なんて無駄に能力の高い連中だ!


 そんな戦慄をしている俺に、教室の女子の目が一斉に向く。……向く、が驚いた事に反応が無い。いや、一人の女の子が大きな眼をぱちくりた後、指でごしごしと眼を擦り、再度俺の方へ眼を向けまた眼を擦り出した。


 ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ……


 擦りすぎだ! 俺の心の声が聞こえたのか、その子の周りにいる女子が声を掛けた。


「ちょっと、どうしたの? 擦りすぎだし!」

「えっ、うん。ちょっと幻覚が見えて……」

「幻覚? ああ、私も見えてるけどその内消えるわよ。昨日だって見えたけど、先生が来たら幻だってわかったじゃない?」

「うん、そうなんだけど……、今日のは一段と鮮明でまるで本物みたい」

「……それは確かに、あのお肌なんかスベスベそう」

「髪だって凄く綺麗な艶だし、撫でてみたい」

「……幻覚だし、触っても良いかな?」

「…………良いと思うよ。むしろ私たちの思い通りの事をしてくれるんじゃないかな? だって幻覚だし」


 良いわけあるか! なんなんだこのヤミ具合、風邪の俺よりよっぽど医者が必要だろ!


「あの幻覚段々と顔色悪くなって来てない?」

「まぁ……、そういう幻覚もあるんじゃない?」

「いや、幻覚では無い」


 俺がそう突っ込むと女子達は不思議そうな顔を向けられたした後、全員で"えっ!!!"と合唱した。


「えっ? 嘘、本物ですか?」

「う、うん、本物だけど……」

「……触っても良いですか?」

「良くねーよ!」


 "本物?" "本物だって"との声がクラス中で聞こえてくる。しかし、その声は直ぐに無くなり次の瞬間ガタガタ! と一斉に席を立つ音に変わった。何事だ! と思う間もなく俺の周りに女子が群がってきた。


「やぁ、いい朝だね。雲もなく太陽が明るく私たちを照らしてくれている。でも君の笑顔の方が太陽よりも明るいね」


 俺は教室に入ってから笑顔を浮かべた記憶が無いんだが……。


「風邪だったんだよね? もう大丈夫なの? もし辛かったら一緒に保健室行く? うん、一緒に」


 一人で大丈夫です。


「おはよう、少しの間だけど宜しくね!」


 まともな挨拶だと!


「神が復活した!」


 神では無い!


 取り囲まれて次々と言葉を掛けられる。もしかして女子全員集まってるのか? そう思い教室の中を見渡すと、一人だけ席に座ってブツブツと呟いている子がいる。


「二兎を追う者一兎も獲ず二兎を追う者一兎も獲ず二兎を追う者一兎も獲ず……」


 何だあれ? 超怖い……。

 俺が休んでいる間にこのクラスに何が有ったんだ?

 まぁ何はともあれ、取り敢えず朝の挨拶をしておこう。


「えーと、皆おはよう。あとちょっとだけどそれまで宜しく」


 俺の言葉を聞いて、集まった女子達は元気よく返事を返してくれた。


 ……コイツら元気だけは良いな、

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